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『ぬかるんでから』(佐藤哲也) [読書(小説・詩)]

シリーズ“佐藤哲也を読む!”第3回。

 佐藤哲也さんの著作を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、初の短編集である『ぬかるんでから』です。単行本出版は2001年5月。私が読んだ文庫版は、2007年8月に出版されています。

 つぶ揃いの素晴らしい短編集。収録作はいずれも夢の論理で語られており、奇怪な幻想、あまりにもシュールなユーモア、悪夢のような恐怖、果てしない不条理感など、様々なものが渾然一体となって読者を夢幻の境地につれていってくれます。

 それまでの『イラハイ』や『沢蟹まけると意志の力』に比べると文章に磨きがかかっており、「力み」というか「硬さ」というか「一所懸命に変なことを書いてます」という作為が感じられなくなっています。ごく自然に変なことがさらさら流れ出している印象。読んでいてひどく気持ちいい。何度でも読め、読み返すたびに新鮮な驚きを覚える、そんな文章です。

 収録作では、ナンセンスギャグの側面が強い『叔父帰る』、『つぼ』、『墓地中の道』、『とかげまいり』あたりが個人的にもろ好み。あまりの馬鹿馬鹿しさゆえに、読みようによっては非常に怖い話のような気がしてくるというのが凄いと思います。

 他にも、『ぬかるんでから』、『きりぎりす』、『おしとんぼ』のような強烈な余韻を残す悪夢のような話も素晴らしい。それに『春の訪れ』、『記念樹』、『やもりのかば』、『無聊の猿』といった夢の感触をそのまま文章にしたような、笑うべきか恐がるべきか感動すべきか戸惑う作品も素敵。

 要するに全部好きです。

 これまでの二作はあまりにも癖が強すぎて読者を選ぶところがあったのですが、本短編集なら誰にでも安心してお勧めできます。文庫だし。佐藤哲也さんを読もうと思ったら、まずはこれから始めると良いかと思います。

 それにしても、デビュー作が1993年、第二長編が1996年、第一短編集が2001年というのは、遅筆というか寡作というか、あんまりではないでしょうか。もっとがんがん書いて本を出してほしいです。

[収録作]

『ぬかるんでから』
『春の訪れ』
『とかげまいり』
『記念樹』
『無聊の猿』
『やもりのかば』
『巨人』
『墓地中の道』
『きりぎりす』
『おしとんぼ』
『祖父帰る』
『つぼ』
『夏の軍隊』

タグ:佐藤哲也
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