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『テンペスト』(池上永一) [読書(小説・詩)]

 池上永一さんがとうとうやってくれました!

 『バガージマヌパナス』、『風車祭』、『夏化粧』といった沖縄の民間伝承や宗教観を題材にとった魅力的なファンタジーと、『レキオス』や『シャングリ・ラ』のような過剰感あふれるハイテンションSF、その2つの流れが合わさって生まれた素晴らしい傑作です。ついに決定打が出た、という感慨を覚えます。

 琉球王国の末期を舞台とした小説ですが、歴史小説やら時代小説やらといったジャンル枠を突き抜けた独特の作風としか言いようがありません。むしろ、上巻はスーパーヒーローもの、下巻は変身ヒロインもの、と言った方が的確かも知れません。

 琉球王国の歴史を通じて、現代の沖縄と日本が抱えている問題を見つめる大作です。が、何より娯楽小説としてよく書けています。

 ほとんど冗談に近い波瀾万丈なストーリー展開、生き生きと活躍する破天荒な登場人物たち、ユーモアと感傷が過剰に込められた力強い文章。一歩間違えば作品を破綻させかねない強烈な要素が、絶妙な配置によって魔法のように調和し、見事な作品世界を生み出しています。

 激しい運命に翻弄されつつ危機また危機を乗り越えてゆく主人公の活躍。あまりにも劇的で、あまりにもスケールが大きく、ふざけているとしか思えないシーンの続出に、最初のうちは「いや、いくら何でもそれはやりすぎだろう」などと苦笑しながら読み進めるのですが、だんだん手に汗握ってきて、途中で止めることが出来なくなります。最初から最後まで、単行本にして上下巻合計800ページ以上に渡って、ずっとテンションが下がらず面白いままというのがまた凄い。

 ライトノベル、歴史小説、スペースオペラ、冒険ファンタジー。様々なジャンル小説の面白さを存分に吸収して花開いた痛快無比な本作は、池上永一さんの現時点における最高傑作であることは間違いありません。おそらく将来的にも代表作の一つに数えられることでしょう。

 というわけで、ぜひ多くの人に読んでほしいという気持ちでいっぱいです。10月には『シャングリ・ラ』も文庫化されるそうだし、今年は池上永一さんが飛躍した年として記憶されることになるかも知れません。

タグ:池上永一
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