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『スペシャリストの帽子』(ケリー・リンク) [読書(小説・詩)]

 先日読んだケリー・リンクの第二短編集『マジック・フォー・ビギナーズ』に強い感銘を受けたので、第一短編集である本書も読んでみました。

 おとぎ話、ファンタジー、ホラー、一般小説といったものが、何の区別もなく自然に溶け合わさって出来たような不思議な作品ばかりで、理屈抜きに魅了されます。例えばエリック・マコーマックが好きな方なら、おそらくケリー・リンクも気に入るのではないでしょうか。

 とにかく最初にこちらがびっくりするような奇妙な設定をぽんっと出してきて、それについては最後まで何の説明もなし。登場人物も同じように奇天烈で、少なくとも最初のうちは感情移入がほとんど不可能。ストーリー展開も、予想を次々と外してくるので、読みながら「これはいったいどういう話なのだろう」と困惑することになります。

 しかし、その取っかかりの悪さを我慢して読み進めると、次第に登場人物の悩みや苦しみが胸にせまってくるのですね。それらは、あえて言葉にするなら、「寂寥」「不安」「孤独」「喪失」「疎外」といったものです。

 ですが、普通に書くとどうしようもなく通俗的というか絵空事になってしまうそれらの感情を、作者は決して直接的には書きません。ただ、うねうねとねじれ進む奇妙で不可解な話を追っているうちに、書かれていないそのテーマが見えてきて、というか“我が事のように”切々と感じられてきて、それが一種異様な感動と忘れがたい余韻を生むのです。実に奇妙で魅力的な作家です。

 収録された作品は、大雑把に分けて、一般小説に近いものと、おとぎ話をベースにしたものに分けられるようです。両者が混ざり合っていてどちらとも言い難い作品も多いのですが。

 個人的に気に入ったのは一般小説に近い、『黒犬の背に水』、『人間消滅』、『私の友人はたいてい三分の二が水でできている』、そして『ルイーズのゴースト』といった作品。どれもこれも読んでいるときは変な話なんですが、読後に振り返ってみると、現代を生きる私たちの不安や孤独や切なさをリアルに書いた一般小説だったような気がするから不思議です。

 他にも『飛行訓練』、『生存者の舞踏会、あるいはドナー・パーティー』のように、一般小説と神話やおとぎ話が混ざってゆく作品も好みです。様々なジャンル(おとぎ話、ファンタジー、SF、ホラー、ロマンス小説、など)の要素を組み合わせる独特の手法は、読み慣れると癖になります。

 比べて見ると、やはり後から書かれた『マジック・フォー・ビギナーズ』の方が洗練されているとは思いますが、『スペシャリストの帽子』にも捨てがたい味があり、これはこれで好き。

 というわけで、第三短編集が今から楽しみです。手元にある二冊を再読しながら、気長に待とうと思います。

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