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『小人たちがこわいので』(ジョン・ブラックバーン) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 シリーズ「ブラックバーンは癖になる」その5。

 日本で初めて翻訳されたブラックバーン作品です。発表は1972年、翻訳は1973年です。

 北ウェールズ地方の寒村に建てられた屋敷を買い取って別荘にした高名な細菌学者マーカス・レヴィン夫妻。近くの丘には、奇怪な先住民族伝承があり、住民はそこを呪われた土地として忌み嫌っています。

 考古学調査のためにその丘の発掘を許可したことで村人たちから憎まれていた地主が、まさにその丘で伝承通りの不可思議な遺体となって発見されます。事故か、他殺か、それとも呪いの犠牲者なのか。丘に隠されている恐ろしい秘密とは何なのか。

 一方、その地主が経営している航空機会社のジェット機の排気音を聞いていていきなり幻覚を伴う発作を起こすケースが散発。その機体を設計したソ連の技術者が、一見して何の理由もなく西側への亡命を企てて射殺されるという奇妙な事件が起こります。

 また、北アイルランドの港町では、魚や貝などが大量死しているのが発見され、化学工場からの排水による汚染が疑われます。しかしながら、工場排水の検査結果は「無害」という結論でした。では何が汚染源なのでしょうか。

 そして、湾の付近を航行していた船舶が、無人となって暴走し衝突事故を起こすという謎の海難事故が発生するに及んで、アイルランド情勢の悪化を懸念する英国情報部のカーク将軍が調査に乗り出します。

 一見して何のつながりもないバラバラの出来事が次第につながってゆき、壮大な真相が見えて・・・くるかと思うと、これがなかなか見えてきません。

 これまでのブラックバーン作品なら100ページで真相が明らかになるというハイペースでしたが、本作は200ページ近くまで読み進めても、微妙に全体像が見えないという構成になっています。そして、真相が明らかにされた途端にすぐ決着、後はお約束のエピローグで幕を下ろします。

 真相は伏せておきますが、もちろんB級ネタです。ゆったりした筆致でホラーを盛り上げてゆき、果たしてこれはミステリなのかオカルトなのか、読者をじっくりと悩ましておいて、最後の最後に明かされる「それかよっ」と誰もが思わずつっこむであろうアレな真相。そこまでのホラーな雰囲気が非常に良く書けているだけに、目眩を起こしそうです。

 というわけで、初めてブラックバーンを読んだ当時の読者は、激怒したか脱力したに違いありません。『闇に葬れ』と並ぶ怪作で、他人にお勧めするのはちょっと気がひけますが、既にブラックバーンが癖になっている私にとっては、読後に妙な爽快感を覚える快作でした。

 というわけで、これまでに翻訳されたジョン・ブラックバーンの作品を全て読んでしまいました。ふう。

 B級のホラー映画やモンスター映画のような馬鹿ネタを堂々と使いながら、いつも似たようなストーリー展開で、様々なジャンルを次々と跳び渡ってゆく、しかしながら、かっちりとした構成力と緻密な文章力に裏打ちされた何とも言えない味のあるブラックバーン作品。全体を通読した感想は、「筆力の無駄使い」。ある意味で非常に贅沢な作風です。癖になります。未訳作品もぜひ翻訳して欲しいと思います。

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