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『散歩する侵略者』(前川知大) [読書(小説・詩)]

 劇団「イキウメ」の劇作家、前川知大さんの小説デビュー作です。同名の演劇がありますが、その脚本を小説化したものでしょうか。

 いわゆる「宇宙人の侵略」もの。身近な人間が宇宙人に乗り移られて別人になる、という定番すぎる設定を使っています。ただ、普通はSFかホラーになるところを、メロドラマにしてしまうところがちょっと変。

 夫婦仲が悪くなっていたため、妻は「宇宙人に乗り移られて別人になった夫」を気に入ってしまい、ずっとそのままでいてほしい、と思うようになります。でも相手は侵略宇宙人。散歩しながら次々と犠牲者を出してゆきます。地球の危機です。薄々そのことに気づいていても、今の二人の関係を壊したくないため黙って知らんぷりする妻。

 性格の良い侵略宇宙人というのも変ですが、その侵略方法も奇抜です。人間が持っている特定の「概念」を奪うのですね。「家族」という概念を奪われた犠牲者は、家族を見ても他人としか思えず、そもそも家族というものが全く理解できなくなります。「所有」の概念を奪われると、何かを手に入れるということ自体が理解不能になるわけです。

 この「概念」を奪われた状態、というのは非常に興味深く、もっと詳しく具体的に描写してほしいと思うのですが、どうも作者の興味はそこにはないようで、単なる心神喪失状態のように書かれているのはがっかりです。

 結局のところ、侵略も宇宙人も概念喪失も、全てラストのメロドラマを成り立たせるための便宜的な設定に過ぎないようです。登場人物もさほど印象的ではなく、その内面描写もおざなり。全体の構成も、小説としては完成度が低いように思えます。

 つまるところ、芝居の脚本をそのまま小説にしたせいで、芝居であれば俳優が演技力で補完してくれる部分がすっぽり抜け落ちてしまった、という印象を受けるのが残念な作品です。

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