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『灯台守の話』(ジャネット・ウィンターソン、岸本佐知子訳) [読書(小説・詩)]

 配偶者からお勧めされた、翻訳家の岸本佐知子さんが選んで訳した本の一冊。先日読んだリディア・デイヴィスの本が意図的に“物語”を排除しているような作品集だったのとは対照的に、本書は“物語”そのものをテーマにした長編です。

 孤児の少女が灯台守に引き取られ、彼の後継者となるべく見習い灯台守として生活しながら、この灯台にまつわる物語を聞く、というのがいわゆる枠物語。

 枠物語の中で語られるのは、100年前に灯台を訪れたことがある一人の牧師の物語です。

 両方の物語が交互に語られ、どちらも次第に破局に向かって進んでゆく(枠物語の二人は灯台を追われることになり、牧師は秘密がばれてしまう)というのが前半の展開になります。

 ここまでがめっぽう面白い。登場人物がよく描けているので、彼らがどのような運命をたどるのか、思わず引き込まれて先へ先へと読んでしまうんですね。

 後半は小説としでの構造が錯綜してきて、時系列を無視するように様々な物語が語られ、少女や牧師のその後の物語もそこに折り込まれてゆきます。ラスト近く、成長した少女が灯台に戻ってくるシーンは感涙もの。

 作中における「航海と灯台」という関係は、そのまま「人生と物語」の暗喩になっています。船を導く灯台のように、人生を導いてくれるのは物語だということでしょう。

 後半はちょっと自伝的な要素が入りすぎていることと、やたら愛、愛、と連呼するところが気に入らないのですが、前半は文句なく魅力的で、読後には全体として良い物語を読んだなあという充実感を味わえる作品です。

タグ:岸本佐知子
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