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『鉄塔 武蔵野線』(銀林みのる) [読書(小説・詩)]

 巷で「快挙」「奇跡」「伝説の復活」などと大騒ぎになっている、『鉄塔 武蔵野線』の“決定版”です。ソフトバンク文庫から出ました。

 何しろ著者が撮影した武蔵野線1号鉄塔から81号鉄塔までの鉄塔写真500枚以上を全て収録した上に、小説が書かれた1994年当時と2007年現在の鉄塔番号の対照表を完備、その上「鉄塔 武蔵野線MAP」が折り畳み付録として付いているという、文句の付けようもない完全版です。これ、本当に1000円未満の値段で売っちゃっていいんでしょうか。

 第6回ファンタジーノベル大賞を受賞し、後に映画化された話題作なので、未読の方もおそらく内容はご存じのことでしょう。二人の少年が、(旧)武蔵野電力線の鉄塔を順番に辿ってゆく、それだけの話。しかし、これがもう、鉄塔への愛にあふれた素晴らしい冒険小説なんです。いや本当。

「わたしは全身で鉄塔を感じ、鉄塔のためだけにその1日を費やせる悦びに包まれていました」(ソフトバンク文庫版p.138)

「鉄塔を見たい、鉄塔の足許に行きたい、鉄塔の結界に入りたい、そうわたしは願っているだけなのに、何故さまざまな柵や塀や壁が行手を遮るのでしょう?」(ソフトバンク文庫版p.368)

 (旧)武蔵野線の鉄塔の全てを一本も省略することなく描き切り、しかも読者は退屈するどころか、「早く次の鉄塔がどうなっているのか知りたい」「どうか少年たちが1号鉄塔までたどり着けますように」と心から願ってしまうという。この巧みさ。

 少年たちが一つ一つ障害をクリアし、鉄塔番号がカウントダウンしてゆくごとに、私は心の中で喝采を送りました。途中で日が暮れてしまうシーンなんか、読んでて本気で悔しがりましたよ。ここまで来たのに、あと少しなのに、と。

 ただ、結末は少々がっかりで、これは明らかに映画版のラストの方がずっといいと思います。

 ともあれ「この作品はまちがいなく空前絶後だろう。一作にして<鉄塔小説>というジャンルを創ってしまった」(荒俣宏)という評価の通り、極めてユニークでありながら、しかも完成度の高い、清々しい小説です。

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