SSブログ

『パラダイス・フラッツ』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

シリーズ“笙野頼子を読む!”第30回。

 笙野頼子の全単行本完全読破を目指すシリーズ。

 今回読んだ『パラダイス・フラッツ』は、1996年から1997年にかけて連載され、1997年に出版された長編。

 帯の紹介文には、

「愛する「猫」を失った私に襲いかかる「世間」という名の妖怪たち。都会で働く単身女性の、孤独で切ない闘いが始まる」

と書いてありますが、まあ要約してしまえばそういう話です。

 主人公は例によって作者と境遇のよく似た女性作家ですが、今回は最初から死人です。つまり社会から切り離されているというわけです。

 主人公を“人外”に置くことで、自分の闘いをどこか冷めた目で客観視しているところが、これまでの作品とは一味違うところ。

 後に書かれる作品においては、主人公を美人にしたり、妖怪にしたり、神様にしたり、はなはだしきは「笙野頼子」にしたりするわけですが、本書はこのような「主人公を人外の存在とすることで、一歩引いた視点から俯瞰して書く」という手法の原点だろうと思います。

 ストーリーだけ取り出すと非常に暗い話なのに、主人公のそばに猫(作者の飼い猫と境遇のよく似た猫)がいることもあってか、読んでいてさほど陰惨な気分にはなりません。

 「隣人を全部殺し、自分の猫だけを救え」という、後の作品でも繰り返される重要な“神託”を受け入れることで、吹っ切れる(あるいは向こう側に渡ってしまう)主人公の姿から、強い覚悟のようなものが感じられる、ある意味で力強い作品です。

タグ:笙野頼子
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0