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『母の発達』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

シリーズ“笙野頼子を読む!”第29回。

 笙野頼子の全単行本完全読破を目指すシリーズ。

 今回読んだ『母の発達』は、『母の縮小』『母の発達』『母の大回転音頭』という緩やかにつながった3つの短編から構成され、90年代後半における笙野文学の幕開けを告げた傑作長編。

 単行本は1996年、私が読んだ文庫版は1999年に出版されています。

 今でも「笙野作品ではこれが一番好き(あとは、カニバットとか・・・)」というファンが多いのもよく分かる、痛快無比な作品です。

 “母親”という役割をめぐる固定観念、勝手に世間様が押しつけてくる(反抗したり拒否したりすると徹底的に糾弾されて人生台無しにされる)“母性”という神話。

 そういったものを言語のレベルで転覆し無力化し破壊しようとする過激な前衛小説であります。

 しかしながら、従来の作品のように、追い詰められた捨て身の気迫で読者の居住まいを正すという感じはなく、むしろぎゅうぎゅう詰め込まれた数々のギャグで「くすっ」と笑わせてしまうという、ユーモアに満ちた余裕たっぷりの小気味よい筆致なんです。

「母をセンメツし、カイタイししかも発展的解消をさせ、母なる母から新世界の母を創造する」(文庫版P79)

 というのが主人公の目標ですが、何しろ笙野作品ですから、そんじょそこらの「母性神話の解体」なんていうお決まりのスローガンでは満足しません。実力行使あるのみです。

「ああ、のまくののれりのまくまれり、ほいほい、ののまくしかれくくもまりっ、らたた、らたた、ぶぶぶぶぶぶぶぶ、のお母さん。」(文庫版P87)

 くらいは、軽い小手調べ。

 ついには「あ」のおかあさん、「い」のおかあさん、という具合に、一文字にまでカイタイを進めてしまいます。

 センメツとカイタイの挙げ句についに発展的解消してしまった母親に呼びかける主人公。

「お母さん、きっとな、私は立派な母になってみせるで、しかも子供のない母ていう新ジャンルに今は、挑戦しているんや。永遠に子供のままでな、お母さんを求めるんや。それでお母さんを子供にしたり新国家を産んだりして、お母さんとは何かを追求するんや。そうしてお母さんを超えるような、私は宇宙一の悪母になるわ。」(文庫版P156)

 その呼び声に応えるかのように、チータカチータカ踊りながら世界を再構築した沢山の母が、母音のお母さんも子音のお母さんも、母で出来た世界の、全ての母が、ついに大回転するのだった・・・。

 というのが全体のあらすじですが、よく分からない方は本編をお読みください。

 とにかく、読後の爽快感と高揚感が素晴らしい。

 ただ、後で年表を調べてみて、ちょうど本書が刊行された年に、作者が母親を失っていることを知って、ちょっぴり複雑な気分になりましたが。

タグ:笙野頼子
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