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『鷲』(岡本綺堂) [読書(小説・詩)]

 光文社文庫から、岡本綺堂の怪談コレクション(新装版)というシリーズが出ました。本作はその一冊で、『鷲』『兜』『鰻に呪われた男』『怪獣』『深見夫人の死』『雪女』『マレー俳優の死』『麻畑の一夜』『経帷子の秘密』『くろん坊』が収録されています。

 名作として知られる岡本綺堂の怪談。今さら私ごときが言うのも何ですが、やっぱり文章が素晴らしい。

「昼のように明るい冬の月が晃々と高くかかって、碧落千里の果てまでも見渡されるかと思われる大空の西の方から、一つの黒い影がだんだんに近づいてきた。それは鳥である。鷲である。あの高い空の上を翔りながら、あれほどの大きさに見えるからは、よほどの大鳥でなければならない」『鷲』

てな具合。まるで怪獣映画の一シーン。ギャオスかラドンが迫り来るかのような感じです。一撃で仕留められなければ、次はない、という緊迫感がみなぎってきます。

 ゆっくりした導入部から次第に読者を引き込んでゆく構成の巧みさ、語り口の上手さ、そして余韻の残し方。名作としか言いようがありません。

 さて、この巻には、ある種の「呪い」に付きまとわれる短編が多く収録されています。そもそも呪いなのか偶然なのかも釈然としない、呪いだとしても、なぜ登場人物が呪われるのかさっぱり事情が分からない、そんな話がほとんどです。

 さらっと読んだときはあまり怖くないのですが、読後どうも釈然としない感じが残り、時間が経っても、何かの折にふと思い出して、何となく気味が悪くなってくる。それが岡本綺堂の怪談の味です。

 呪い(と思われるもの)を媒介するのが、動物であるかモノであるかで分類するとすれば、前者の系列だと『鷲』『深見夫人の死』『くろん坊』あたり、後者だと『兜』『経帷子の秘密』が好みです。

 怪談といえば、昨今流行りの“実話系怪談”しか読んだことのない方。ぜひ、大正から昭和初期に書かれ、そして今日まで読み継がれている、岡本綺堂の怪談をじっくり味わってみて下さい。いつまでも、いつまでも、じわじわと残り続ける静かな怖さ。癖になります。

タグ:岡本綺堂
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