SSブログ

『神様が用意してくれた場所』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

 矢崎存美さんの非ぶたぶた作品の最高傑作は『パソ婚ネットワーク』というのが定評でしたが(我が家において)、ついに軽々と越えてくれました。読者としてこんな嬉しいことはありません。

 作者はよく「人の話をきちんと聞くこと」の大切さ(そして難しさ)を扱った作品を書きますが、本作はストレートにそれがテーマとなっています。たぶん。

 同時期に書かれた『ぶたぶたのいる場所』と同じく、ゆるやかに関係した短編が集まって長編を構成するという趣向で、不思議体験に縁が深いヒロインのちょっとした活躍を描いています。この“ちょっとした”というところが、すごく良いバランス感覚なんですよ。

 誰もが好感を持てるヒロインのおかげで、空々しくならないんですよね。こういう人物造形ってとても難しいはずなんですが、お見事だと思います。

 話にはかなり無理もありますが、それをそうと感じさせない筆力には唸らされます。非日常的なことを、実に日常的にさらりと書ける。これは作家としてとても強力な武器です。

 あと個人的にツボなのが、探偵事務所の所長さん。出番は少ないながら非常に印象的で、世間様はぜひ「素敵な中年男性を書ける作家」として認知すべきだと思います。

 もっとも、この所長さんが人間に見えているのはヒロインだけで、実はピンク色のぶたのぬいぐるみなんだけど、みんな口にしないだけなのではないか、という疑惑も感じましたが。

 最後にイラストがすごく可愛くて上品(←ここ重要)な絵柄で、お気に入りです。

 というわけで、ぶたぶた最高傑作『ぶたぶたのいる場所』、非ぶたぶた最高傑作『神様が用意してくれた場所』を同時期に、体調が良くない状態で、書いてしまったということに驚きます。もうこれは、次が非常に楽しみです。

タグ:矢崎存美
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0