SSブログ

『抗うつ薬の功罪』(デイヴィッド・ヒーリー) [読書(サイエンス)]

 うつ病の治療薬のうち、選択的セロトニン再吸収抑止物質、いわゆるSSRIの副作用についての本です。商品名『プロザック』(日本では未認可)、『パキシル』、『ルボックス』、『ゾロフト』、『セレクサ』などの抗うつ薬が、SSRIです。

 2003年に原書が出たこの本には、かなりショッキングな内容が書かれています。なにしろ、SSRIの薬効は充分に確認されておらず、一方で自殺や殺人の衝動を引き起こすという重大な副作用があり、この副作用は特に軽度のうつ病患者に強く現れる危険性がある、というのです。

 しかも、製薬会社はこの危険性を認識していながら、その事実を隠蔽していた。省庁も医学会も大学も現場の医師も、誰もそれを止めることが出来なかった。むしろ、積極的に隠蔽に手を貸す利益構造になっていた、というんだから衝撃的です。

 SSRIの副作用それ自体も問題ですが、それより何より、欧米では薬害を防止する仕組みが機能してない、という方が怖いです。いつ、サリドマイド事件を上回る災厄が起きてもおかしくないわけですから。そして、日本の状況が欧米よりマシだとは、正直言って、思えないのですね。

 もちろん、本書はいわゆる「陰謀論」を唱える煽情的でいい加減な本ではありません。著者はこの問題の専門家で、精神薬理学者として複数の裁判に関わってきた経験を、現場から描き出しているのです。

 文章は固く、内容もかなり高度なので、決して読みやすい本ではありません。特に最初のうちは薬物名をはじめとする固有名詞がぽんぽん出てくるため、とっつき難いと感じるかも知れません。しかし、SSRI、製薬市場をめぐる状況、医薬品の検証の実態、といったテーマに興味がある方は、ぜひご一読下さい。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0