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『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』(町田康) [読書(随筆)]

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 いい年をしてなんらの知識・教養もないというのは、格好が悪いというか、「年格好から見てこれくらいのことは当然、識っているだろう」と思った若い人に、助言を求められ、「我はアホゆえ知らぬ」と言うのはきわめて寂しく申し訳なく、それとは別に、内心に、そうして問われた際に有益な助言をして、尊敬されたい、凄い人だ、と思われたいという虚栄心もかなりあるからである。
 そこでこれまでどうしてきたかというと、いかにも知識・教養がある人、のような雰囲気を全身から発散せしめ、だけど謙虚な人間なのでこれをひけらかすようなことはしない、という卑怯未練な技法を用い、世間と自分を瞞着してきた。
 そうしたところ罰が当たった。それを真に受けたNHKカルチャーから連絡があり、十二回連続講座をやれ、と言われてしまったのである。
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単行本p.245


 シリーズ“町田康を読む!”第71回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、表紙にあるように“町田康、はじめての自分語り”ということで、NHK文化センターで行われた連続講演を記録した一冊です。単行本(NHK出版)出版は2022年8月です。

 自分語りといっても、自らの人生について事細かに語るというわけではなく、要するに自分の作品がどのように書かれたのかを解説してくれる本です。他の作家や古典の影響、笑いや文章のリズムについて、かなり詳しく手の内を明かしてくれます。


目次

第1回 本との出会いーー書店で見つけた『物語日本史 2』
第2回 夢中になった作家たちーー北杜夫と筒井康隆
第3回 歌手デビューーーパンクと笑いと文学
第4回 詩人としてーー詩の言葉とは何か
第5回 小説家の誕生ーー独自の文体を作ったもの
第6回 創作の背景ーー短編小説集『浄土』をめぐって
第7回 作家が読む文学ーー井伏鱒二の魅力
第8回 芸能の影響ーー民謡・浪曲・歌謡曲・ロック
第9回 エッセイのおもしろさーー随筆と小説のあいだ
第10回 なぜ古典に惹かれるかーー言葉でつながるよろこび
第11回 古典の現代語訳に挑む
第12回 これからの日本文学




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 ここまで文学の言葉と土俗・卑俗の言葉がメチャクチャに混ざっていて、それが小説として書かれて、普通に読めるということにムチャクチャに興奮しました。「これか。これやで!」というふうに思って。それから筒井康隆さんの本を探して貪るように読み続けたというようなことが、学校時代の自分の読書遍歴、私の文学史の一つとしてあったということです。
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単行本p.47




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 それをたとえば、もうちょっと範囲の広いことで統一感をなくして、わざと個別化してみるとか、言葉に方言を混ぜるとか。方言を混ぜることによってノイジーな要素が出たり、そこにある文体を構成しうる要素を入れて、それを配合することによって、そこに何か伝わる要素が出るというようなやり方をやっています。それが自分の文体の正体というか、一番核心なところだと思います。
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単行本p.94




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 つまり、おもしろいことというのは、実は、これはもう驚くべき暴論、極論に聞こえるかもしれないけれども、おもしろいことというのはこの世の真実であらねばならないんです。つまり、この世の真実こそがおもしろいことなんです。つまり、おもしろいことを書くということは、この世の真実を書くということなんです。と僕は思うんですね。「いや、それは暴論でしょう。極論でしょう」というのが、たぶん、おそらく差別意識の正体なんですよ。つまりそれは、だからこそ、この世の真実であるからこそ、隠されねばならないことなんです。それを隠すのが建前であり、常識です。それを破壊するときに噴出するものを描くのが、僕は文学なんじゃないか、表現じゃないかと、こういうふうに思うわけです。
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単行本p.121




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 それと逆に、感覚的な表現。要するに、文学的ではない表現、オートマチックな言葉による表現、突き詰めない表現。「感覚的」と言いましたけど、これを突き詰めない表現、オートマチックな言葉だけ使って、古典のところで言いました「情緒」とか、雰囲気だけをつくっていく、わりと安い材料で魂を形づくる。揶揄的に言ってしまえば、Jポップの歌詞のような言葉遣いは、バリアを強化していく。「ここから入ってこないでね」というものがものすごく強い。だから、傷つかないです。自分の脳内で、ずっとそればっかりを強化している。オートマチックな表現というのは、バリアを強化する。反オートマチックな文学的な表現というのは、バリアを突破していく。こういう効能があると思います。
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単行本p.239





タグ:町田康
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