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『パインズ 美しい地獄』(ブレイク・クラウチ、東野さやか:翻訳) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

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 どこを見ても、絵のような光景ばかりだ。
 まさに理想郷だった。ここに住んでいるのは四百か五百人ほど。(中略)こういう土地を離れない気持ちも理解できる。なにもかも完璧な町を出ていく必要がどこにある? ここはこの世にふたつとないほどすばらしい自然美に囲まれた、アメリカのなかのアメリカだ。
--------(中略)
 そういう事実がありながらも、というより、そういう事実ゆえに、この町は完璧ではなかった。
 経験から言って、人が集まる場所には必ず闇の部分がある。
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Kindle版No.436、441、444


 周囲を険しい山に囲まれた小さな町、ウェイワード・パインズ。行方不明になった同僚達の捜索のためにそこを訪れたイーサン・バーク捜査官は、奇怪な悪夢に迷い込んでしまう。どうにも不自然な住民たちの言動、脱出することも、いや外部に連絡することさえ出来ない町。いったいここで何が起きているのか。本邦初紹介となるブレイク・クラウチのサスペンス長篇。文庫版(早川書房)出版は2014年3月出版、Kindle版配信は2014年5月です。


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眠って痛みを忘れたかった。この混迷する状況を。そして、それらの裏に隠された、大きくふくらんで無視できなくなりつつある根源的な感情を。
 恐怖。
 とんでもなくおかしなことになっているという感覚がますます大きくなっていた。
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Kindle版No.1053


 アイダホ州のウェイワード・パインズ。風光明媚なこの田舎町で、シークレットサービスの捜査官二名が消息を断った。彼らの捜索に出掛けた主人公イーサン・バーグ捜査官は、到着そうそう交通事故にあい、記憶を失ってしまう。

 バーグ捜査官は少しずつ記憶を取り戻してゆくが、このパインズという町はどこか変だった。自分しか入院しておらず、いつまで待っても医師が来ない病院。身分証明書や所持金など私物をすべて取り上げたまま返してくれない保安官。外部との連絡はなぜか出来ない。町の住民たちの様子は、どこか不自然だ。自分の交通事故のことを話しても大半の住民は知らないと言う。


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この町、この町に住む人々。あんたもだ。なんとなく違和感がある。
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Kindle版No.1468

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「だが、やっとわかった気がするんだ」
「なにがです?」
「おかしいのはこの町のほうだ」
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Kindle版No.1496


 というわけで、片田舎の小さな町に閉じ込められた主人公が悪夢的状況に陥ってゆくスリラーです。

 草むらで鳴いているコオロギの声が小型スピーカーから流れていることに気づくとか、行方不明の同僚そっくりだが歳をとっている人物が住民のなかにいるとか、惨殺死体を発見した主人公がそのことを保安官に報告したのにうやむやにされ、誰も話題にしないとか。

 不自然なこと、ひっかかること。そういったものを小出しに見せてゆく手際が鮮やかで、前半はじわじわとサスペンスが盛り上がってゆきます。明らかにパインズには何か後ろ暗い秘密があるのですが、それが何なのか、誰が何のために隠しているのか、それがなかなか分からないのです。

 後半に入るとお約束の逃走劇が始まるわけですが、ここに至ってもまだ秘密は明かされず、何がどうなっているのか分からないまま、次から次へと襲ってくる危機を必死で切り抜けてゆく主人公。

 とにかく謎めいた雰囲気とサスペンスが強烈、真相が知りたくて一気読みしてしまうことでしょう。

 で、最後の最後になって、ようやくパインズの秘密が明かされるのですが、いや、そ、それは……(絶句)。

 シャマラン監督によるTVドラマ化が決定したということで話題になっている本作ですが、確かに連続TVドラマ向きの話です。というか、設定の一部がシャマラン監督のある映画にそっくりなので、あの映画を観た方なら真相の半分くらいは見当がついてしまうことでしょう。でも大丈夫。パインズにはもっと大きな秘密が隠されていますので、最後まで楽しめるはず。

 連続TVドラマといえば、本作そのものが『ツイン・ピークス』みたいな話を書きたいという動機で生まれたそうで(個人的には、てっきり『プリズナーNo.6』へのオマージュだと思っていました)、シャマラン監督版『パインズ』もあのくらいヒットするといいなあ、と思います。


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『パインズ-美しい地獄-』は、『ツイン・ピークス』のような気持ちにさせてくれる作品を生み出すための二十年にわたる努力の集大成だ。(中略)『パインズ』はリンチがつくり出したどことも知れない小さな町----一見すると美しいが、中身はどす黒い----に影響を受けたことだけははっきり言っておきたいと思う。
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「著者あとがき」より


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