SSブログ

『ダメをみがく “女子”の呪いを解く方法』(津村記久子、深澤真紀) [読書(随筆)]

 「ただ、女の人が、社会や、個人的な関係や、同性間の相互監視において求められる山ほどのことのうち、自分に合わない側面は、無理やり達成しなくてもいいのではないか、と言いたいだけである。すべての人にとって、世の中が少しでも働きやすく生きやすい場所になることを、いつも願っている」(単行本p.250)

 仕事も私生活も充実させ、キャリアアップを目指しつつ普通に結婚してきちんと子育てし、他の女性を見ては値踏みして自分と比べ、向上心を忘れず、身ぎれいで、センスがよくて、しなやかな感性で会社を元気にしたり、人材活用で日本経済を復活させたり、しまいにゃ自然の豊かさを守ったり原発止めたり、なんで女やからってそんなことまで期待されなあかんの? もうダメでええやん。ダメ女子を自認する編集者と作家がぬるーく、でも真面目に語り合った対談集。単行本(紀伊國屋書店)出版は、2013年4月です。

「深澤:団塊世代から私たちバブル世代は、無駄にやる気が空回りしている人が多くて、働いてきてずっと違和感があったんです。でも、10年くらい前から少しずつラクになった感じがしていて。それは、私が名付けた草食男子もそうですけど、年下の世代に淡々と生きてる人たちが現れたことで、「私、この人たちと生きていけば大丈夫」と思えるようになったから。津村さんもその大きな存在です」(単行本p.31)

「津村:女子力のなさを商品価値にできてありがたいです」(単行本p.12)

「深澤:私は津村さんのファンだし、すごく尊敬しているけれど、対談したかった理由は「尊敬してるから」というより、「この人のダメさをもっとみなさんに知ってほしい」っていう」(単行本p.11)

「津村:降り方、要するに、ダメになり方がわからないっていうのはちょっと疲れるかもしれませんね」(単行本p.95)

「深澤:私たちには、いいところはほんとにちょっとしかない!」と自信を持ってお伝えしたい」(単行本p.109)

「津村:伝えましょう」(単行本p.109)

 全体の雰囲気を伝えるために、お二人の発言を適当に抜き出してリミックスしてみましたが、おおむねこんな感じで進んでゆく対談集です。

 色々と「向上心を持たなきゃダメ」と思い込まされ、焦って疲弊している女性に、ダメからの脱却を目指すのではなく自分のダメなところを受け入れてうまく生きてゆこう、むしろダメに磨きをかけよう、だってその方がラクやし、と語りかけます。

 津村記久子さんの読者にとっては、自分のことをエッセイよりも詳しく語ってくれるのが興味深いところ。最初の職場を辞めることになったパワハラ被害のこと、文学賞のこと、おかんのこと、ついに会社勤めを辞めて専業作家になった後の生活のこと、趣味の話、友達の話、職場にいる困った人の話、フォントの「メイリオ」がいかに素敵かという話、などなど。

 個人的には、散見される津村さんの「反応しづらい変な発言」の数々がお気に入り。

「津村:私は、あるスポーツ選手の尻がでかいってことをずーっと頭の中で唄ってたんですが、その選手、実は尻でかくなかったんです」(単行本P.98)

「津村:大阪の西天満のあたりに、窓に「貸」とだけでっかく赤字で書いた貼り紙をしてる部屋があって、それが面白くて、友達と「貸ス、貸ス貸ス貸ス貸ス」って虫の鳴き声みたいに言い始めて、しまいに、「わぁ~、貸してくれるんですか~?(棒読み)」「貸貸貸貸」ってサンテレビでやってるようなコマーシャルみたいなのつくって、えんえんと1時間ぐらいやってた、最近。ちなみに、その友達は既婚者ですよ」(単行本p.122)

「津村:アフリカの鳥とかビーバーになって、土とか枝で立派な巣をつくりたいわーとか、しょっちゅう考えてます」(単行本p.240)

「津村:「あの選手は今山岳で苦しんでるんやから、私も苦しまなあかん」って、7月の夏場のわざわざ暑いときに自転車で20キロくらい走ったりしてました。私が観ると応援している選手が大変な目に遭うので、うっかり夜に中継を観てしまう前に疲れてしまおうという算段でしたが」(単行本P.124)

 深澤さんも、こういう発言にはちょっと戸惑うらしく、こんな会話が続いたり。

「深澤:誰かにその話しても、聞いてる人はぽかーんとするでしょ」

「津村:しますします」

「深澤:私もちょっとぽかーんとしたし」(単行本p.124)

 しかし、これだけ頑張って「自分たちはダメである」と主張してもなかなか納得してもらえないあたり、ダメ道の厳しさがよく分かります。

「深澤:前回の対談後、スタッフのひとりから「あれじゃまだダメじゃないです」「ダメの具体例が足りない」と言われて、「こんなにダメなのに?!」とショックを受けたんですけど、私たちダメですよね」

「津村:ダメですよ。昨日の夜、深澤さんと食事したけど、不安になるくらいのダメ話ばっかりで」

「深澤:今までほとんど話したことのないダメ話をしてましたね」

「津村:しかし「ダメが足りない」っていうダメ出しってすごいですよね」(単行本p.138)

 というわけで、自分たちこんなにダメだし、それでいいじゃないか、とひたすら語り合う二人。実際に死ぬほど働いてきたお二人の語る言葉だけに説得力があります。救われる人も多いんじゃないでしょうか。

 ちなみに、この対談のきっかけとなったメールの話も印象的です。

「深澤:津村さんとメールをやりとりしてるときに、津村さんが「最近いろいろトラブルが多くて……」とつらつら書かれた最後に「大人だから耐えてやってるんだよ、調子のんなよ!」と書かれていて」

「津村:そんなこと書いたんですね、ものすごく怒ってますね」

 津村さんが放つ言葉は素敵です。


タグ:津村記久子
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0