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『SFマガジン創刊50周年記念特大号 Part.II 日本SF篇<2>』 [読書(SF)]

 SFマガジン2010年2月号は「創刊50周年記念特大号 Part.II 日本SF篇」ということで、日本のSF作家たちの新作をごっそり掲載してくれました。昨年末の海外篇に引き続き、読み切り作品に絞って少しずつ読んでゆきます。

 牧野修さんの『小指の思い出』は、西部劇風の復讐譚。妻を殺された主人公が三人組の犯人を追って無法地帯へと足を踏み入れるという話です。待ち受ける危機また危機、拳銃一丁で乗り切ってゆく凄腕のガンマン。果たして三人の悪漢を倒して復讐を果たすことが出来るだろうか・・・。

 西部劇風でないのは、登場人物全員が老人だということ。舞台は後期高齢者が遺棄される「姥捨山」のような場所で、ボケのきた老人たちが違法な人体改造に励み、再生臓器をめぐって互いに殺し合っているという、まあいかにもこの作者らしい設定です。

 どんどん記憶を失って妻のことも覚えてないのに、もはや妄執となった復讐心にすがって生きている老人の姿が印象的。グチャグチャの人体損壊描写が山盛りかと期、懸念しなから読みましたが、今回は控えめ。安心して読むことが出来ます。意外にもラストはやたらカッコいい。

 神林長平さんの『確かな自己、固定・変換・解放』は、「コーパス&ジェイク」が活躍するシリーズの一遍。ある惑星で発見された「国家」と呼ばれる考古学的遺跡を盗掘、じゃなくて解放する話。

 意識が常に変化し続ける以上、「確かな自己」などというものはどこにもありません。では、意識状態を固定すれば、永続的な確固たる自我を獲得することが出来るのでしょうか。こんな発想をめぐってストーリーは展開してゆきます。

 主人公であるコーパスとジェイクの対話が大半を占めている作品なので、この二人の掛け合いを楽しめるか否かがポイントです。私は個人的にこの作者のユーモアというのが少しも面白く感じられないため、はっきり言って、読んでいて退屈しました。「敵は海賊」シリーズのファンなら大いに楽しめるのだろうと想像します。

 林譲治さんの『古の軛』は、ストリンガーと呼ばれる異星人と地球人とのコンタクトを扱ったシリーズに属する短篇。『大使の孤独』と同じくストリンガーの周囲で起こった不可解な事件の真相を探るミステリタッチの作品ですが、今作は何と、地球人がストリンガーの遺体を食べてしまった、という衝撃的な内容。

 平坦な状況説明が続いて何となく終わるという感じで、小説としてさほど面白くありませんが、何しろストリンガーに関する非常に重要な設定が明かされるので、本シリーズを追いかけている読者は必読でしょう。

 北野勇作さんの『路面電車で行く王宮と温泉の旅一泊二日』は、夢をそのまま書いたような雰囲気の作品。語り手は、巨大な芋虫そっくりの路面電車に乗ったまま、王宮にある温泉へ入ってゆきます。

 いきなりの場面転換、不連続なのに何となく当然のように続いてゆく展開、意味不明な設定が唐突に出てきたかと思うと、支離滅裂な「説明」で何となく納得してしまう語り手。夢の中にいる感覚がうまく再現されています。のどかな夢なんだか悪夢なんだかよく分からなくなってくるあたりにも非常に既視感を覚えます。

 小林泰三さんの『囚人の両刀論法』は、いわゆる“囚人のジレンマ”と呼ばれる課題を乗り越えて理想社会を築くにはどうすればよいか、というテーマを追求した作品。

 何とかして「囚人のジレンマを解決し、メンバー全員が自由の意志で協調的に振る舞うようになった社会」を探して宇宙探査に出るはめになった主人公は、とうとうそのような文明を発見。ついに理想社会を見つけたと喜ぶ主人公。しかし、実はその解決策とは・・・。

 登場人物の会話という形でひたすらアイデアを解説してゆくタイプの作品で、例えば『時空争奪』みたいな形式。今回はさほど意外なアイデアではないので、まあこんなものかと甘く見ていたら、最後の最後に傑作『天獄と地国』へと話がつながってもうびっくり仰天。本当に油断ならない作者だと思います。


タグ:SFマガジン
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