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『失われた町』(三崎亜記) [読書(小説・詩)]

 デビュー長編『となり町戦争』、短編集『バスジャック』が、ともに大きな話題となった三崎亜記さん待望の第二長編。2005年から2006年にかけて「小説すばる」に掲載されたオニムバス形式の短編7篇に、プロローグとエピローグを加筆して構成した長編で、単行本出版は2006年11月です。

 約30年に一度、町の全住民が一瞬にして消滅するという大胆な設定をもとに、その「消滅」に関わりを持った様々な立場の人々が受ける苦難と、それに立ち向かい乗り越えてゆく勇気、希望、人と人との絆、といったものを書いています。

 「消滅」は、大切な人との絆が理不尽に失われることの暗喩だと思われますが、そういう意味では同テーマの短編『送りの夏』とよく似ている、というより同じ話の長編化という印象を受けます。短編では書けなかった登場人物たちの事情をオムニバス形式で掘り下げて描き、『送りの夏』そっくりな最終エピソードで締めた、といったところでしょうか。

 あるエピソードの主人公が別のエピソードでは脇役として登場するなど、エピソード間のつなぎが絶妙で、オムニバス形式のメリットを最大限に活かしているのには感心させられます。

 また、現実と似ているようで実はひどく異様な背景世界も独創的です。耳慣れない謎めいた言葉を頻出させることでその異世界ぶりを感じさせるという手法で書かれているものの、「消滅」という奇抜で派手な設定に目をくらまされているせいで、読者は違和感を覚えることなくすっと受け入れてしまう。ここら辺の手際は見事です。

 やや感傷的にすぎるシーンや、安っぽいドラマめいたシチュエーションなど、細かい不満は残りますが、全体的には非常に良く出来た感動的な作品です。異世界における異常事態という難しい素材を扱いながら、分かりやすく読みやすい、誰もが感情移入できる良い物語を紡ぎ出してしまう作者の腕前と構成力には感服です。

 余談になりますが、単行本のカバーには、しゃれた工夫がしてあります。一見すると町で様々な人々が生活している風景を描いたイラストなのですが、透明カバーを外すと人々の姿が「消滅」して、無人の町になってしまうという仕掛け。うまいと思いました。


タグ:三崎亜記
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