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『黄金の人工太陽』(J・J・アダムズ:編、中原尚哉・他:翻訳) [読書(SF)]

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 SFとファンタジーの基本はセンス・オブ・ワンダーだ。そして並はずれたセンス・オブ・ワンダーを味わえるのは、超人的なヒーローが宇宙の命運をかけて銀河のかなたで恐ろしい敵と戦う物語だ。(中略)
 そんなノスタルジーと、マーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のありえない(しかしとてもうれしい)成功に刺激されて、19人の作家たちに圧倒的な宇宙スケールの作品を依頼した。私が子どものころにコミックブックで出会って大好きになったような物語を求めた。
 すると、みんな書いてくれたのだ。
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『序文』より


 億年後の未来でダイソン天体を駆け抜けろ!
 失われた古代地球文明の遺物、アーケードゲーム機『シュガーラッシュ』をコレクターに売りつけろ!
 ウォークマンとベストリミックスカセットテープでエイリアンとコンタクト!
 うちゅうはかいばくだん。異星のピラミッド。やつのヤハウェ・スケール(神レベル)は30超えだ!

 そういうのってみんな嫌いじゃないよね? というわけで編纂された現代スペースオペラのアンソロジー。2020年代を代表する19名の作家が、おそらく嬉々として挑んだ「昔のコミックみたいな圧倒的宇宙スケールの物語」。やっぱりSF作家はガーディアンズ・オブ・ギャラクシーやスタートレックやカウボーイビバップは好きなんだな。文庫版(東京創元社)出版は2022年6月です。




収録作品

『時空の一時的困惑』(チャーリー・ジェーン・アンダーズ)
『禅と宇宙船修理技術』(トバイアス・S.バッケル)
『甲板員ノヴァ・ブレード、大いに歌われた経典』(ベッキー・チェンバーズ)
『晴眼の時計職人』(ヴィラル・カフタン)
『無限の愛』(ジョゼフ・アレン・ヒル)
『見知らぬ神々』(アダム=トロイ・カストロ&ジュディ・B.カストロ)
『悠久の世界の七不思議』(キャロリン・M.ヨークム)
『俺たちは宇宙地質学者、なのに』(アラン・ディーン・フォスター)
『黄金の人工太陽』(カール・シュレイダー)
『明日、太陽を見て』(A・マーク・ラスタッド)
『子どもたちを連れて過去を再訪し、レトロな移動遊園地へ行ってみよう!』(ショーニン・マグワイア)
『竜が太陽から飛び出す時』(アリエット・ド・ボダール)
『ダイヤモンドとワールドブレイカー』(リンダ・ナガタ)
『カメレオンのグローブ』(ユーン・ハ・リー)
『ポケットのなかの宇宙儀』(カット・ハワード)
『目覚めるウロボロス』(ジャック・キャンベル)
『迷宮航路』(カメロン・ハーレイ)
『霜の巨人』(ダン・アブネット)




『見知らぬ神々』(アダム=トロイ・カストロ&ジュディ・B.カストロ)
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 人類最高峰の聖なる書物類で全能の創造主と断定されている存在は、これまで直接、観察されてはいませんが、ヤハウェ・スケールで100とされています。念のためですが――これは指数関数的なスケールです。平均的な人間が0.1でこれが基準となり、そこから0.2、0.3と0.1刻みで十倍、百倍、千倍と大きくなっていきます。その尺度でいうと、これまで人類の味方となった神々の最強のものがわずか9.7。科学的に確認されたうち、つい最近まで最強とされたものが17.2。ヴファームがいきなりぶつけてきた神が未曾有の23.6。こいつは……艦長、放射しているものだけでしっかり31.9と出ています。ヴファームが最後に放った神の10の73乗倍――たぶんわれわれが目にしたもののなかで真の全能の神にもっとも近い存在です。おそらく、いまわれわれがいる星団をまるごと創りだしたのでしょう。
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 超光速航行は物理的に不可能、だから神に頼るしかない。
 あらゆる宇宙技術が神のご加護によって実現されている未来。強力な神を味方につけたエイリアン種族による攻撃を受け、人類は壊滅寸前だった。そのとき、事故で漂流していた宇宙船がこれまで観測されたことのない未知の強力な神とコンタクトした。神は人類を救う代償として指パッチンでその半分を消すというのだが……。スタートレックとマーベルが間違えてくっついちゃったような物語ですが、何といってもオチがひどい。




『悠久の世界の七不思議』(キャロリン・M.ヨークム)
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 理解できていないことを察知してくれた相手の宇宙船が、もっと限定された一組のデータをさしだしてきた。悠久の世界の七不思議だ。“火星の巨象”と“エウロパの灯台”はすでにナビアも知っていたが、ほかは現在の時間や場所を超えていた。それでもなお、ナビアが守るようプログラムされた人間たちとのわずかなつながりがある。そのひとつは過去と未来が奇妙にまじりあったもので、ここと地球の両方から何光年も離れた惑星の古代ピラミッドの画像だった。
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 果てしなく長い時間と膨大な空間をこえて旅をしてきた語り手が最終的に故郷に戻ってくる、という神話風SFの原型に挑戦した物語。「センス・オブ・ワンダーあふれる話」を依頼されたので世界の七不思議(ワンダー)を出しました、という素直な執筆姿勢に好感が持てます。




『竜が太陽から飛び出す時』(アリエット・ド・ボダール)
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 印。傷。皆が埋めようと望む心の中の穴。ランとテュイエト・タンと母さん――そしてヴィエン――誰もが嵐の過ぎた跡にうずくまる農夫のように、竜の通った後でひとつになる。水に浸かった田畑と失われた収穫を悼み、おたがいに相手に対してやったことの重みに頭を垂れる。
 つまるところ母さんは正しかった。戦争の話で意味をなすものがあるとすれば、これしか無い――単純に、正直に、断腸の想いをもって、耐えることのできる真実はこれしか無いのだ。
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 戦争が双方に残す深い傷、憎悪の連鎖。それを耐えるために人々が伝えてゆく物語の力とは。
 はるかな遠い未来、銀河に広がったヴェトナム華僑の子孫たちが星々と深宇宙を舞台に様々な物語を紡いでゆく。恒星間文明としてのアジア文化圏を描く「シュヤ (Xuya)」シリーズの一篇。短編集『茶匠と探偵』にも収録されている傑作。




『ダイヤモンドとワールドブレイカー』(リンダ・ナガタ)
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 そこに表示された数字がカウントダウンしている。
 3:13:27
 3:13:26
 3:13:25
「これは世界破壊弾(ワールドブレイカー)っていうの」
 ダイヤモンドがおごそかに教えた。
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 悪いことに憧れちゃう年頃の娘、ダイヤモンドが手に入れた爆弾。それはワールドブレイカーという起動すると宇宙が消滅するヤバいやつ。母は娘(と宇宙)を守るために奮闘するはめになるが……。こういう軽めのアクションSFは楽しい。




『カメレオンのグローブ』(ユーン・ハ・リー)
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「こんな盗人を信用するなんて、ずいぶん大博打じゃないか?」
「そうかな」口の端がぴくっと上がったのは、たぶん笑いだ。「アカデミーでもとりわけ将来を嘱望されていたあなたは、みずから将来を棒に振った。自分の名前すら知らないマネキンの命を助けたからだ。わたしの人選に間違いはないと確信している」
 カヴァリオンは左右のグローブをゆっくりぬぐと、リーアンに差し出した。
「あなたはわたしのエージェント。このグローブをはめ、焼夷核を持っていきなさい。無数の命がそれにかかっている」
 これは“わたしの名誉をあなたに預ける”という意味だった。
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 かつて軍のエリートだったが追放され、今や仲間と組んで美術品泥棒として生きている主人公。そこにかつての上官から指示がくる。奪われた試作兵器を取り戻してくれれば、軍への復帰を認めてやると。誘惑に耐えきれず仕事を引き受けた主人公だが……。アニメ『カウボーイビバップ』を思わせる古典スペースオペラをそのまま書いてみたという作品ですが、やっぱり面白いよね。





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