『学術出版の来た道』(有田正規) [読書(教養)]
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なぜ大学や研究所の図書館は高いと文句を言いながら学術誌を買い続けるのか。需要と供給のバランスはどうなっているのか。本書の目的は、この構造的な問題を歴史的な視点から説き明かすことにある。(中略)学術出版の世界は車やファッションとはまったく違う評価・価値体系になっている。学術誌のステータスやランキングは、350年を超える歴史を知らないと理解しづらい部分もある。当の研究者ですら理解していない人が大多数だろう。(中略)
今の学術出版の有様は、国家が科学につぎ込む資金を目当てにした政商に近い。その変化が研究者や政策立案者に認識されていないがために、学術誌の購読料だけで日本の大学図書館が毎年300億円も払う事態に陥っている。本書を手がかりに、学術出版やオープンアクセスの問題点に少しでも興味を持っていただけたら幸いである。
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単行本p.3、5、145
学術誌の乱立と価格高騰、オープンアクセス、ランキング至上主義の弊害など、学術出版をめぐる構造的問題を歴史的経緯から説き明かしてゆく一冊。単行本(岩波書店)出版は2021年10月です。
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多くの研究者が『ネイチャー』や『サイエンス』が流すニュースを読み、推薦する論文を読み、研究計画を練り上げている。しかしそうした研究活動は論文のダウンロード数から査読内容まで、すべて学術出版社には筒抜けである。世界的なトレンドを把握して目星をつけた研究者を鼓舞しながらインパクト・ファクターを上げさせ、編集スタッフを流動させて人件費、投稿料、そして利益率も引き上げているのが、一流学術出版なのである。
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単行本p.142
目次
第1章 学術出版とは何か
第2章 論文ができるまで
第3章 学会出版のはじまり
第4章 商業出版のはじまり
第5章 学術出版を変えた男
第6章 学術誌ランキングの登場
第7章 オープンアクセスとビッグディール
第8章 商業化した科学と数値指標
第9章 データベースと学術出版
第1章 学術出版とは何か
第2章 論文ができるまで
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お金の流れだけをまとめると、研究者は出版社側に払うばかりである。投稿するのは無料だが、採択されると掲載料や別刷り代金を払ったうえに著作権を譲渡する。その学術誌を大学図書館は高い料金で購入する。先行研究を調査するには、理論上すべての学術誌が必要になる。つまり大学図書館は高い学術誌であっても買わざるをえない。これがいわゆる学術出版の構造的な問題である。
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単行本p.28
基礎知識として、学術出版という営みはどのようなものなのか。何が問題となっているのか。そして論文を掲載する側の研究者はどのように関わっているのかをまとめます。
第3章 学会出版のはじまり
第4章 商業出版のはじまり
第5章 学術出版を変えた男
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ペルガモンがなかったとしても、様々な学術誌が生まれただろう。しかしマクスウェルがいなかったなら、今でも学会やアカデミーによる出版が大きな役割を占めていたかもしれない。融合領域や新しい分野の発展は遅れたかもしれない。現在でも、日本は論文数が減っているなどと騒ぐ人たちは多い。しかしその前に、論文数が増えるとどんな変化が起きるのか、論文数は科学力を反映するのか、歴史をもとに議論・検証すべきだろう。いったん世に出た学術誌はなくならない。ペルガモンが創業時に刊行していた学術誌の多くは70年近く経った今でも続いている。そのコストは今も大学図書館が担い続けている。
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単行本p.71
世界で最初に出版された学術誌は何か。やがて学術出版が商業化され、新たな学術誌が次々と創刊され、そしてビッグビジネスとなっていった経緯とは。学術出版の歴史を概説します。
第6章 学術誌ランキングの登場
第7章 オープンアクセスとビッグディール
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商業オープンアクセス誌は新しいビジネスモデルの主戦場となった。ビッグディールで疲弊しきった大学図書館からは、購読料の増収を期待できない。そこで出版社は、研究者個人の研究費という新たな金脈に群がったのだ。(中略)大学図書館に購読料を請求しつつ、論文単位で研究者からもお金をとるハイブリッド誌を「二重課金」だと非難する人は多い。だが問題の根本は、法外な費用でも研究者がオープンアクセス化を希望する状況にあることだ。論文を出版するとき、通常は著作権を出版社に譲渡させられる。自機関が講読しない学術誌に論文が載る場合、自分すら読めなくなる。自らの論文に自由にアクセスするため、オープンアクセス費用を払ってでも権利を買い戻したい。
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単行本p.105
論文や学術誌の格付け、ランキングによって起きた変化とは。学術誌の価格高騰への反発から始まったオープンアクセス運動の行方は。学術出版が抱えている構造的問題とそれに対する解決策を模索する様々な動きを解説します。
第8章 商業化した科学と数値指標
第9章 データベースと学術出版
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サンガーが生涯に書いた論文数をたった1年で達成する「超多作」研究者も増えた。超多作研究者は日本とドイツにとりわけ多いという。リトラクション・ウォッチという研究不正や論文撤回を扱うブログサイトがあるが、日本人の登場回数は多い。研究者が多作を誇示したがるのはそれに見合うメリットがあるからだ。(中略)残念ながら、口先だけの宣言や声明では研究の評価体制は改善されない。論文数や被引用数を競うことで商業出版へお金が流れる仕組みを変えない限り、数値偏重は改善されないのである。
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単行本p.113、118
インパクト・ファクターや論文数などの数値指標により研究者の評価が決まってしまう仕組みにより引き起こされている歪みや問題を明らかにし、それが商業化した学術出版とどのように関係しているのかをひもといてゆきます。
なぜ大学や研究所の図書館は高いと文句を言いながら学術誌を買い続けるのか。需要と供給のバランスはどうなっているのか。本書の目的は、この構造的な問題を歴史的な視点から説き明かすことにある。(中略)学術出版の世界は車やファッションとはまったく違う評価・価値体系になっている。学術誌のステータスやランキングは、350年を超える歴史を知らないと理解しづらい部分もある。当の研究者ですら理解していない人が大多数だろう。(中略)
今の学術出版の有様は、国家が科学につぎ込む資金を目当てにした政商に近い。その変化が研究者や政策立案者に認識されていないがために、学術誌の購読料だけで日本の大学図書館が毎年300億円も払う事態に陥っている。本書を手がかりに、学術出版やオープンアクセスの問題点に少しでも興味を持っていただけたら幸いである。
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単行本p.3、5、145
学術誌の乱立と価格高騰、オープンアクセス、ランキング至上主義の弊害など、学術出版をめぐる構造的問題を歴史的経緯から説き明かしてゆく一冊。単行本(岩波書店)出版は2021年10月です。
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多くの研究者が『ネイチャー』や『サイエンス』が流すニュースを読み、推薦する論文を読み、研究計画を練り上げている。しかしそうした研究活動は論文のダウンロード数から査読内容まで、すべて学術出版社には筒抜けである。世界的なトレンドを把握して目星をつけた研究者を鼓舞しながらインパクト・ファクターを上げさせ、編集スタッフを流動させて人件費、投稿料、そして利益率も引き上げているのが、一流学術出版なのである。
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単行本p.142
目次
第1章 学術出版とは何か
第2章 論文ができるまで
第3章 学会出版のはじまり
第4章 商業出版のはじまり
第5章 学術出版を変えた男
第6章 学術誌ランキングの登場
第7章 オープンアクセスとビッグディール
第8章 商業化した科学と数値指標
第9章 データベースと学術出版
第1章 学術出版とは何か
第2章 論文ができるまで
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お金の流れだけをまとめると、研究者は出版社側に払うばかりである。投稿するのは無料だが、採択されると掲載料や別刷り代金を払ったうえに著作権を譲渡する。その学術誌を大学図書館は高い料金で購入する。先行研究を調査するには、理論上すべての学術誌が必要になる。つまり大学図書館は高い学術誌であっても買わざるをえない。これがいわゆる学術出版の構造的な問題である。
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単行本p.28
基礎知識として、学術出版という営みはどのようなものなのか。何が問題となっているのか。そして論文を掲載する側の研究者はどのように関わっているのかをまとめます。
第3章 学会出版のはじまり
第4章 商業出版のはじまり
第5章 学術出版を変えた男
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ペルガモンがなかったとしても、様々な学術誌が生まれただろう。しかしマクスウェルがいなかったなら、今でも学会やアカデミーによる出版が大きな役割を占めていたかもしれない。融合領域や新しい分野の発展は遅れたかもしれない。現在でも、日本は論文数が減っているなどと騒ぐ人たちは多い。しかしその前に、論文数が増えるとどんな変化が起きるのか、論文数は科学力を反映するのか、歴史をもとに議論・検証すべきだろう。いったん世に出た学術誌はなくならない。ペルガモンが創業時に刊行していた学術誌の多くは70年近く経った今でも続いている。そのコストは今も大学図書館が担い続けている。
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単行本p.71
世界で最初に出版された学術誌は何か。やがて学術出版が商業化され、新たな学術誌が次々と創刊され、そしてビッグビジネスとなっていった経緯とは。学術出版の歴史を概説します。
第6章 学術誌ランキングの登場
第7章 オープンアクセスとビッグディール
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商業オープンアクセス誌は新しいビジネスモデルの主戦場となった。ビッグディールで疲弊しきった大学図書館からは、購読料の増収を期待できない。そこで出版社は、研究者個人の研究費という新たな金脈に群がったのだ。(中略)大学図書館に購読料を請求しつつ、論文単位で研究者からもお金をとるハイブリッド誌を「二重課金」だと非難する人は多い。だが問題の根本は、法外な費用でも研究者がオープンアクセス化を希望する状況にあることだ。論文を出版するとき、通常は著作権を出版社に譲渡させられる。自機関が講読しない学術誌に論文が載る場合、自分すら読めなくなる。自らの論文に自由にアクセスするため、オープンアクセス費用を払ってでも権利を買い戻したい。
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単行本p.105
論文や学術誌の格付け、ランキングによって起きた変化とは。学術誌の価格高騰への反発から始まったオープンアクセス運動の行方は。学術出版が抱えている構造的問題とそれに対する解決策を模索する様々な動きを解説します。
第8章 商業化した科学と数値指標
第9章 データベースと学術出版
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サンガーが生涯に書いた論文数をたった1年で達成する「超多作」研究者も増えた。超多作研究者は日本とドイツにとりわけ多いという。リトラクション・ウォッチという研究不正や論文撤回を扱うブログサイトがあるが、日本人の登場回数は多い。研究者が多作を誇示したがるのはそれに見合うメリットがあるからだ。(中略)残念ながら、口先だけの宣言や声明では研究の評価体制は改善されない。論文数や被引用数を競うことで商業出版へお金が流れる仕組みを変えない限り、数値偏重は改善されないのである。
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単行本p.113、118
インパクト・ファクターや論文数などの数値指標により研究者の評価が決まってしまう仕組みにより引き起こされている歪みや問題を明らかにし、それが商業化した学術出版とどのように関係しているのかをひもといてゆきます。
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