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『あの人と短歌』(穂村弘) [読書(随筆)]

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 おかげで作家、詩人、俳人、漫画家、モデル、翻訳家、ブックデザイナー、ミュージシャンなど、さまざまなジャンルで活躍中の方々に出会うことができた。現代の短歌について、近代の詩歌について、万葉集について、うた合わせについて、昭和天皇の御製について、それぞれの方の視点からお話が伺えて嬉しかった。本書のどの頁からでも開いて貰えれば、その魅力をわかっていただけると思う。「短歌は面白いですよ」といくら口で云っても信じる人はいないだろう。本当に面白がっている人がいるということ、その人がこんなにも魅力的だということ、それだけが証になり得るのだ。
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「あとがき」より


 作家やミュージシャンなど様々なゲストと歌人の穂村弘さんが短歌をテーマに語りあった対談集。単行本(NHK出版)出版は2020年12月、Kindle版配信は2020年12月です。


〈対談相手〉

北村薫(作家)
酒井順子(エッセイスト)
三浦しをん(作家)
清家雪子(漫画家)
高原英理(小説家)
知花くらら(モデル・女優)
金原瑞人(翻訳家)
文月悠光(詩人)
鳥居(歌人)
朝吹真理子(小説家)
小澤實(俳人)
保阪正康(ノンフィクション作家)
里中満智子(マンガ家)
吉澤嘉代子(シンガーソングライター)
名久井直子(ブックデザイナー)
俵万智(歌人)




 短歌の内容には作者の実体験が反映されてなければいけないのか。
 短歌の題材に流行というのはどのくらいあるのか。
 文語や韻文の要素が廃れてきているのはなぜか。
 詠われないテーマはあるか。あるなら、なぜか。
 究極の一首、が存在するか。あるいは存在すると信じているか。


 さすが『NHK短歌』の連載をまとめたものだけあって、短歌に関して素人が疑問に思うことが話題となります。必ずしも明快な答えが語られるとは限りませんが、やっぱり歌人もいろいろと悩み、考え、迷っているのだな、と分かって距離が少し縮まるように感じられます。


 穂村弘さんの話題の持ち出し方も巧み。こんな感じでリードしてゆきます。


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穂村
 せっかく読むなら、抑制が効いているものより、恥ずかしいことを書いているものを読みたいですよね。与謝野晶子や若山牧水を見よ! ですよ。近代歌人の「我に返らなさ」加減は本当にすごいですから。
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単行本p.43


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穂村
 短歌には、そういう盲点がけっこうあるんです。例えば「夕暮れの厨(台所)でほのかな性欲がきざした」といった歌はよくありますが、なぜか時間は必ず「夕暮れ」で、場所は「厨」で、かつ性欲は「ほのか」だったりする。「真夜中の寝室で激しい性欲が湧いた」という歌は、おそらく一首もありません。
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単行本p.50


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穂村
 一字一句、少しも動いてはいけないというのは、韻文家の感覚ですね。唯一無二の正解がある、という感受性もしくは強迫観念。それこそが、短歌のイデア(本質)だと言えると思います。
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単行本p.115


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穂村
 つまり、ある運命が、自分に本当に言いたいことを言わせない状況です。そうした「言いたいことを言えない」「けれども言わねばならない」という二重性が、優れた強度のある詩歌を生むという側面は絶対にある。
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単行本p.139


 ときには穂村さんから挑発したり。


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穂村
 詩の場合は、どうやって良し悪しを決めるんですか? そもそも他人の詩って、読んで「わかる」ものなんですか?
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単行本p.125


 むろんゲストから煽られることの方が多いわけです。


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酒井
 穂村さんによる短歌鑑賞の本はすごく論理的です。カマトトなのに、こんなにすごいことを考えているなんて! という驚きがありました。
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単行本p.30


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金原
 最近、学生に「穂村弘を知ってる?」と聞くと、「あのエッセイストの」って答えるんですよ。そんな状況を打破すべく、早く次の歌集を出してください。
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単行本p.116





タグ:穂村弘
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