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『予言』(鈴木ちはね) [読書(小説・詩)]

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西友が二十四時間営業でほんとよかった 西友は神
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堤防を上りつめたらでかい川が予言のように広がっていた
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万物の起源のように明るかったオリジン弁当 無くなっていた
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スロープと階段があってスロープのほうを下ればよろこびがある
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子ども会神輿が通るのを待てば子ども会神輿のあとの道
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 ごく当たり前のことにふと気づいた瞬間の不思議な気もち。ツイッターで見かけるありふれた話がもたらす小さな感慨。日常を素直によむ歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2020年8月です。


 まずは比喩や対比による効果が見事な作品が印象的です。


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西友が二十四時間営業でほんとよかった 西友は神
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堤防を上りつめたらでかい川が予言のように広がっていた
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万物の起源のように明るかったオリジン弁当 無くなっていた
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のり弁がぶちまけられているような雨の県道あるいてゆけば
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道の駅めぐりの果てにたどり着く完全に純粋な道の駅
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手を股に挟めばあたたかい自分東京五輪は即刻中止
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靴べらで靴へと足を流しこむ こういう時間の先に死がある
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 近所を散歩したり新幹線に乗って移動したりするとき、誰もが経験し感じるようなことを、抜け目なく言葉にした作品にはちょっとした驚きがあります。


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ひとしきり鴨に餡パンあげたあとで餌付け禁止の看板を見る
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スロープと階段があってスロープのほうを下ればよろこびがある
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いい路地と思って写真撮ったあとで人ん家だよなと思って消した
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狛犬は昔たくさん作られていまはほとんど作られてない
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引っ越しのトラックの左右からつよい男が飛びだしてくる
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子ども会神輿が通るのを待てば子ども会神輿のあとの道
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そのときは現在だった風景が窓越しにとめどなく流れる
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新幹線の田んぼの中の看板は実際行けば大きいだろう
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 家のなかの生活を題材にした作品から感じられる微妙な気もち。


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図書館で借りた本は読まなくていい返しさえすればそれでいい
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六年前の東京駅のキオスクのレシートが出てくる文庫本
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年金を払ってないと来る電話が払ってからはもう来なくなる
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年金を納めてないとかかってくる電話のようになまぬるい風
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パンツを四つ並べて干せば四日分だったんだなとわかるシステム
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ユニットバスのずっと切れてた電球を当てずっぽうで買ったらついた
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サイゼリア前を二往復してからサイゼでもいいかって入るサイゼリア
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 そしてみんな知ってることやネットで見たことをちょっと得意げによんだ作品からも感じる素直さが魅力的だと思う。


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あらかじめ100円用意しておくと駐輪場でスムーズになる
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最近はファミリーマートでりんごとかバナナとか白菜とか売ってる
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旅行が苦手と言う人の苦手な理由はだいたいなぜかいつも面白い
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アラル海いまはほとんど無いらしいそういう写真をツイッターで見た
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さるすべり(実際には猿は滑ることなく簡単に上ってしまうらしい)
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平成の初めの頃に生きていた犬ということはもういない犬
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