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『図書館の外は嵐 穂村弘の読書日記』(穂村弘) [読書(随筆)]

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カーテンの向こうは、激しい雨と稲妻。
でも、平気。
だって、私はここにいる。
体は暖かい図書館に。
心は本の中の世界に。
ここからはもう出られないんだ。
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単行本p.187


 『これから泳ぎにいきませんか』『きっとあの人は眠っているんだよ』に続く穂村弘さんの読書日記。単行本(文藝春秋)出版は2021年1月、Kindle版配信は2021年1月です。

 ちなみに前作の紹介はこちら。

2018年02月27日の日記
『きっとあの人は眠っているんだよ 穂村弘の読書日記』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-02-27

2018年02月22日の日記
『これから泳ぎにいきませんか 穂村弘の書評集』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-02-22


 今作でも、本の紹介の「前ふり」としてちょっとつぶやいたような言葉が印象に残ります。こんな感じです。


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 小説の中に、中心となる語り手以外の人物の手記とか手紙とかノートが出てくると奇妙な興奮を覚えるのはどうしてだろう。語りの主体が入れ替わると、一人の目を通して見えていたそれまでの世界の風景ががらっと変わる。今まで信じていたことが次々に覆される。それがスリリングなのだ。
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単行本p.16


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 一人の人間が裡に秘めた独自の価値観が、結果として反社会的と見なされるような特殊な犯罪にときめく。
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単行本p.32


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 その人に関するすべてが「いい感じ」に作家がいる。それは好きな作家というのとも微妙に違っている。
 本のタイトル、文体、装丁、名前、外国文学の場合は訳文や訳者の名前に至るまで、原因不明の「いい感じ」に包まれていて、本屋で本を見かけるとつい買ってしまう。好きな作家の場合は買ったら当然読むだろう。でも、「いい感じ」の作家はそうとは限らない。読まなくてもいいからその魂に触れたい、という奇妙な欲望がある。
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単行本p.48


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 ひと夏の物語が好きだ。子どもたちが、大人には見えない不思議な世界をくぐり抜ける冒険をする。そして、季節の終わりとともに、少しだけ、けれども決定的に以前とは変わった自分に気づく。そんな物語の系譜がある。
 どうしてか、その魔法の季節は夏と決まっているようだ。ひと春の物語やひと秋の物語やひと冬の物語というのは、あまり耳にしたことがない。
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単行本p.72


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 すごく面白い作品に出会うと、その本の世界からいったん顔を上げてきょろきょろする癖があるんだけど、あれって一体なんなんだろう。わざと寸止めして感動を引き延ばすためか、それとも本の衝撃によって現実世界の側に何か変化がないか確認しているのだろうか。
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単行本p.88


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 そうなのだ。「世界の手塚治虫」であり「世界の萩尾望都」かもしれないが、「世界の大島弓子」ではあり得ない。少なくとも大島弓子の読者の多くは、そんな風には感じていないと思う。彼らはただひたすら「私の大島弓子」と思い込むのだ。
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単行本p.156


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「クラムボン」は正体不明のままに何度も反復され、教科書に載り、バンド名となって、さまざまな人々を魅了してゆく。意味の呪縛から逃れられない言語表現にとって、それは音楽の境地にも近いような一つの理想像なのかもしれない。
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単行本p.183





タグ:穂村弘
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