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『色の濃い川』(松木秀) [読書(小説・詩)]

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政治家は全員偽善者ではあるがそれでいいちゃんと偽善をすれば
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たこ焼きにたこの死骸が混入とクレームがつきそれを認めた
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青空に深刻なエラーが発生し再起動したら灰色になった
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四十五歳以上のひとの半分は拾われてきた橋の下から
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徹底的に季語にはならぬものとしてスマートフォンは昼夜かがやく
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 政治風刺から季語まで日常のささいなただごとに鋭くつっこむ第四歌集。単行本(青磁社)出版は2019年5月です。

 『親切な郷愁』に続く最新歌集です。皮肉と辛辣さのキレは健在ですが、「あとがき」を読むとしんみりした気持ちに。ちみなに前作の紹介はこちら。

2017年03月22日の日記
『親切な郷愁』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-03-22


 まずは政治風刺が印象的です。


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バラマキをしてから増税くりかえす「信長の野望」の基本戦略
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政治家は全員偽善者ではあるがそれでいいちゃんと偽善をすれば
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政治家にはなりたくないな政治家になると記憶力が落ちるので
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政治家が「家族を大事にしろ」と説くマフィアの脅し文句のように
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「政治的中立性」とは「自民党のやることに異議を唱えない」こと
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「マスコミを懲らしめる」との発言あり懲らしめられる新聞を読む
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日付以外すべて誤報な新聞が或る新聞の誤報を叩く
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第三次産業というも幅広いワタミの社員から歌人まで
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戦争の種があるならその種はめぐりめぐってモンサント製
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 政治関連にとどまらず、ニュース全般につっこみを入れてゆきます。


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日テレで政策批判するものの唯一として「笑点」はあり
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日経はすごいぞどこのメディアでも日経平均株価をつかう
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ドラッグは儲かると思われるゆえ末端価格を言うのをやめよ
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飼い主の声が猫にはわかること東大がわざわざ証明す
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たこ焼きにたこの死骸が混入とクレームがつきそれを認めた
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ヘイトデモ行う者ら振り回す日の丸なべて中国製で
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室蘭のゲオの新書のコーナーにヘイト本しか置いてない件
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田舎なる書店ほとんど短歌誌の横にはヘイト雑誌がならぶ
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 ニュースどころか、テレビを見ながら次々とつっこみ。


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単に「テレビ」と短歌の中でよむときは未だブラウン管の気がする
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みずからの任命責任も考えず悪代官を将軍は斬る
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「目からウロコが落ちる」と時代劇が言う隠れキリシタンに違いない
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都合よく旅行が当たり都合よく台風が来て起こる殺人
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安っぽい崖と値打ちの高い崖ありて前者はドラマにも出る
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わたくしは特にファンにはあらざれど浜崎あゆみのおとろえに泣く
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歌詞を全部覚えてないと口パクはできないゆえに少しはえらい
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「レモン百個分」とかいわれレモンって意外にビタミンCが少ない
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スプライトでさえもトクホになるのかよ高カロリーが売りだっただろ
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 もちろんネットや迷惑メールなどのただごとも題材になります。


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一日の苦労は一日で足ると言ったイエスはネットを知らず
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ネットにはネットの世界特有の酸素がありてすぐ炎上す
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サーバーからサーバーへ旅したるのちようこそはるばる迷惑メール
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「実は私チンパンジーのメスなんです」ここまで来たか迷惑メール
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「ロト6で3等を当てる方法」とせせこましいぞ迷惑メール
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青空に深刻なエラーが発生し再起動したら灰色になった
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 懐かしさや郷愁をテーマにしても、皮肉は忘れません。


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とれほどの詩を生んだだろうビー玉でラムネに栓をしていることが
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四十五歳以上のひとの半分は拾われてきた橋の下から
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光年のかなたヒトには見えざりし怪獣墓場をしばしおもうも
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ふるさとは山や川や海ではなくて丸いかたちの郵便ポスト
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「平凡に就職をして家を買」う昔の筒井康隆の小説かなし
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 最後に、言葉、特に季語についてつっこみを入れる作品が個人的にはお気に入りです。


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『天国への階段』という曲のあり天国もバリアフリーではない
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猫に小判やればけっこう遊びそう豚に真珠は真珠食べそう
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えいえん、と平仮名にして書くときの永遠感のなさにおどろく
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永久の耐用年数のみじかさよ永久保存版、永久凍土
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永久は墾田永年私財法の時代からすでに当てにならない
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大辞林われへ意外を教えたり徴兵検査は夏の季語なり
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「あの夏」と言えばなんでも思い出になるから「あの」は夏の季語です
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小春日和は秋の季語だと思う人多しさだまさしが悪いのだ
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徹底的に季語にはならぬものとしてスマートフォンは昼夜かがやく
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