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『SFマガジン2020年12月号 中国SF特集― 科幻世界×SFマガジン』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2020年12月号は、中国の〈科幻世界〉と、日本の〈SFマガジン〉という、両国を代表するSF雑誌のコラボレーション企画でした。


『生存実験』(王晋康、大久保洋子:翻訳)
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 わたしたちはみな、「外」に行くのが怖かった。考えるのもいやだった。でも、五歳になってから、誕生日以外は、毎日外に行かなければならなかった。まずは一分間、それから二分、三分……今は十五分に増えている。たった十五分だけど、それは百年にも千年にも感じられた。いつも、今度出ていったらもうもどってこられないような気がした――三人の子はほんとうにもどってこなかった。
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SFマガジン2020年12月号p.20

 どことも知れぬ森のなかにある「天堂」、巨大環境ドーム。その中で「ママ」と呼ばれるロボットに育てられている子供たち。毎日、外に出て生き延びる試練を受け、脱落した子供は死んでゆく……。昔懐かしいジュヴナイルSFのような作品。


『地下室の富豪』(査杉、及川茜:翻訳)
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 もちろん、成功には代償がつきものだ。だがこの新進の地下室の富豪にとっては、そんな代償は大きいものではなかった。感じ取れるのは、大気中の酸素が窒素より増えたくらいで、ときどき酸素酔いを感じることがあるくらいだった。それから重力定数が9.8から8.9になり、腕立て伏せがしやすくなった。マダガスカルの消失や火星にリングがひとつ増えたような些細なことは、はるか彼方の話で、目にも見えなければ触ることもできないのだし、誰が気にするものか……
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SFマガジン2020年12月号p.52

 破産して地下室に住むしかなくなったハッカーが、ネットのクイズ企画で一儲けをたくらむ。「世界最大のインターネット企業」が提供する検索エンジンとAIにより、クイズも回答もネット情報から自動生成されている。それなら、検索汚染テクニックを使って偽情報を「正解」にしてしまうことが出来るはずだ。だがネット情報のハッキングに合わせて現実の方がどんどん修正されてしまう……。「ネット上の真実」が現実より優先されてしまうご時世を皮肉ったショートショート。


『我らの科幻世界』(宝樹、阿井幸作:翻訳)
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 子どもの頃は、父親が作家だって知ってとても誇らしく思ったものだけど、しばらくして父が作家としても有名でもなければ作品も面白くないし、しかも書いてる内容は全然意味不明で、原稿料すらもらってないことを知ったの! 本屋を開いても儲からないし、売ってる本は誰も読まないものばかりで、特に〈科幻世界〉とかいう雑誌には宇宙船だの宇宙人だのタイムスリップだの幼稚な小説しか載ってないでしょ! あなたも父もそうだけど、どうしてこんなものにハマれるのか全然分かんない……。
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SFマガジン2020年12月号p.79

 あんまり売れてないSF作家が郷里に戻って、懐かしい書店があった場所に立ち寄る。中学生の頃そこでSFに出会い、SF専門誌〈科幻世界〉を欠かさず読み、やがてSF作家になった。いわばここが心の故郷。だが書店はすでにない。やがて書店主の娘と再会した作家は、意外な秘密を知らされる。SF作家大好き内輪ネタ満載の「世間では馬鹿にされてるけどSFって凄いよね、だよねだよね」テーマの作品。中学生のとき偏屈な店主のいる近所の小さな書店でSFマガジンをどきどきしながら立ち読みしていた私にとっては、なにこれまったく同じやん、という衝撃。


『人生』(劉慈欣、泊功:翻訳)
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胎児 ここはほんとに素敵なところだね。ぼく、ずっとここにいたい。
母親 そんなことできるわけないでしょう。赤ちゃん、ママはこれからあなたを産むのよ!
胎児 生まれたくないよ! 生まれたくないよ! 生まれたくないよ! そとが怖いんだ!
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SFマガジン2020年12月号p.111

 母親の記憶を遺伝的に受け継ぐ子どもを作る実験。だがそこには思わぬ副作用があった。母親と胎児の会話という異様なシチュエーション、最初から最後まで会話だけで書かれた短篇。





タグ:SFマガジン
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