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『SFマガジン2020年10月号 ハヤカワ文庫SF創刊50周年記念特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2020年10月号の特集は「ハヤカワ文庫SF創刊50周年記念特集」でした。また『歓喜の歌 博物館惑星3』および『宇宙(そら)へ』のスピンアウト短篇も掲載されました。


『海底図書館 博物館惑星 余話』(菅浩江)
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 それでもセイラは、時が止まったかのような深海で、ぷつん、と呟くことがある。
 穏やかになれたのはいいことだけど、これは諦めというものではないかしら、と。
 水に圧し潰されるようにして化石になってしまいたいと思う心は、このままなんの楽しみもなく時間に圧し潰されるだけの人生だと知っているせいではないかしら。
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SFマガジン2020年10月号p.214

 既知宇宙のあらゆる芸術と美を募集し研究するために作られた小惑星、地球-月の重力均衡点に置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉。その五十周年記念フェスティバルも無事に終了し、いつもの日常が戻っていた。深海の底のように静かな図書館で働いている図書館司書当番のセイラは、元野良AIのロボットC2が読書中に奇妙なふるまいを見せることに気づく。最近刊行された『歓喜の歌 博物館惑星3』のスピンアウト短篇。


『クランツマンの秘仏』(柴田勝家)
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 クランツマンの秘仏という言葉は「物質の実存には信仰が必要である」という思考実験となり、さらに逆転して「信仰さえあれば、いかなる物質も存在できる」という論へと結びつけられた。彼自身も「信仰実験」と称して、信仰と質量の関係を証明しようとしていた。
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SFマガジン2020年10月号p.231

 秘仏。それは扉を閉じた厨子等に納められ公開が厳しく制限されている仏像のこと。特に一切公開されないものは「絶対秘仏」と呼ばれる。しかし、生きている人間が誰も見たことのない秘仏は、はたして存在していると言えるのだろうか。海外の東洋仏教美術研究者が、信仰は存在に先立つ、すなわち秘仏に対する信仰によって仏像という質量が存在するようになるのだという仮説を立て、それを実験的に検証しようとするが……。


『2018年4月1日、晴れ』(劉慈欣、泊功:翻訳)
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 実際のところ、基延族の仲間に入れさえするなら、現行法の下では、死刑になる以外のあらゆる犯罪は、すべて試しにやってみる価値はある。
 なら、その計画を立ててはみたものの、今も迷っている最中だという人間がどれくらいいるだろうか? その考えは、ぼくをいち早い行動に駆り立てると同時に、またためらいもさせた。
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SFマガジン2020年10月号p.253

 遺伝子操作により寿命を300歳まで伸ばす技術「基延」が実用化された。だがそのための医療処置を受けるためには、極めて高額な資金が必要だった。しかし、それなら犯罪によって資金を手にすればいいのではないか。たとえ発覚して刑務所に入れられても、300年生きられるのであれば十分にペイするだろう。それは道徳的に堕落した考えだろうか。語り手を悩ませる問題は他にもあった。恋人のことだ。医療テクノロジーの発展に伴う倫理的ジレンマをストレートに扱った短篇。


『火星のレディ・アストロノート』(メアリ・ロビネット・コワル、酒井昭伸:翻訳)
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 火星をあとにし、宇宙に出ていきたくはあった。そうすれば、ナサニエルが息を引きとる瞬間に立ち合わなくてもすむ。ナサニエルのからだが徐々に動かなくなっていくところを見ていなくてもすむ。
 そのいっぽうで、どうあってもそばに残りたかった。夫とともにずっと過ごし、夫に残された最後の息が尽きるそのときまで、一瞬一瞬を慈しんで過ごしたかった。
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SFマガジン2020年10月号p.344

 人類初の有人火星探査に参加したエルマ。彼女は今、火星で余生を過ごしていた。あと数か月で死んでしまう夫とともに過ごす日々。だが彼女に新たな宇宙ミッションの話が舞い込んでくる。老年の宇宙飛行士にしか託せない長期ミッション。引き受けたい、だが夫を見捨ててゆくことも出来ない。いま決断しないと間に合わない。ジレンマに苦しむエルマが下した決断とは。最近刊行された『宇宙(そら)へ』のスピンアウト短篇





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