『追いつめられる海』(井田徹治) [読書(サイエンス)]
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海の環境は危機的な状況にあるのだが、それは陸上の環境破壊に比べて、とても目に見えにくい。ケルプの森や藻場の減少、白化したサンゴ、海流によって集まる大量のプラスチックごみなどは、一般の人の目にはなかなか見えない。漁業資源の減少は危機的な状況にある、といわれながら、今でも市場やスーパーの店頭には大量の魚介類が並び、クロマグロやミナミマグロ、ウナギなどの絶滅危惧種が多くの人の食卓に上っているのだから、漁業資源の危機を実感することも容易ではない。海が直面する危機を回避し、破局的な影響が現れることを防ぐには、まず、多くの人が海の環境の現状や将来予測について目を向け、理解することが第一歩となる。本書がそれに少しでも貢献できればいいと思っている。
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単行本p.154
高温化、酸性化、低酸素化、プラスチックごみ、漁業資源の枯渇。複合的な要因により危機的状況に置かれている海の環境問題を広く解説する一冊。単行本(岩波書店)出版は2020年4月です。
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これまで見てきたように拡大の一途をたどる人間活動によって、海の環境はさまざまな危機に直面している。温室効果ガスによって地球上にたまった熱、大気中に放出された二酸化炭素、日常生活や農業活動から出る過剰な大量のプラスチックごみや窒素。その多くが行き着く先は、海だった。
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単行本p.143
地球上で起きている様々な環境問題が集まってくる場所、海。
海の環境問題についてざっと広く学んでみたい人にお勧めの一冊です。ここから始めて、それぞれの問題について詳しく解説する本に進んでゆくとよいでしょう。
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持続可能なブルーエコノミー社会の実現には、海の環境が持つ価値を軽視し続けてきたこれまでの社会や経済のシステムを根本から転換することが必要となるし、そのためには強い覚悟と政治的な意志が必要になる。これは簡単なことではないが、人類の将来にとってはぜひとも実現しなければならない課題だ。そして、本書で紹介した多くの事例が示すように、大転換を実現するためにわれわれに残された時間は多くはない。
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単行本p.151
〔目次〕
序章 海を追いつめる人間活動
1 海の熱波の恐怖――高くなる海水温
2 酸性化する海――生態系破壊の懸念
3 海を埋め尽くすプラスチックごみ――有害物質の運び屋にも
4 広がるデッドゾーン――減り続ける海の酸素
5 細りゆく海の恵み――漁業資源の減少深刻
終章 海の価値を見直す
1 海の熱波の恐怖――高くなる海水温
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陸上の熱波はよく知られているが、海にも熱波があることが最近になって分かってきた。海の熱波はまだ明確な定義がなされた現象とはいいがたいが、何千キロにも渡って水温が、通常の変動を大きく超えて異常に高くなる海域が生まれ、少なくとも数日間、時にはそれが数カ月も続く現象のことをいう。面積は特には一万平方キロに及び、一年以上続くこともある。1980年代初めから世界各地の海で観測されるようになった。
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単行本p.13
大気の熱を吸収して温暖化をおさえてくれる海。だがそのために海水温が長期に広範囲にわたって異常に高くなる現象、海の熱波が観測されるようになった。熱波多発による海洋環境への影響を解説します。
2 酸性化する海――生態系破壊の懸念
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シミュレーション結果からは、酸性化の影響領域が南下する速度は、海水温度の上昇にともなってサンゴの生息域が北上する速度よりもはるかに速いため、やがてサンゴの生息可能領域を浸食するようになってくる。
「日本のサンゴは南からは温暖化の影響、北からは海洋酸性化の影響を受けるという挟み撃ち攻撃にあって生息できる領域がどんどん少なくなっていくことが分かったのです」と藤井さん。2070年以降、日本近海にサンゴが生息できる海域はほとんどなくなり、2100年にはほぼすべてがなくなってしまう。これが藤井さんたちの研究が示す予測だった。
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単行本p.50
人類が放出した大量の二酸化炭素を吸収して酸性化する海。殻を持つ生物やサンゴが生息できなくなり、生物多様性が失われたとき、何が起きるのか。海洋酸性化について解説します。
3 海を埋め尽くすプラスチックごみ――有害物質の運び屋にも
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現在、世界の海には1億5000万トンのプラスチックごみが存在しており、各国が目立った行動をとらなければこの量は2050年には積もり積もって、10億トン近くになるという。「現在、海にいる魚の重さは8億トンになる」とのデータがあるため、「2050年には魚の量よりもプラスチックごみの量の方が多くなる可能性が高い」――。こう指摘するこの報告書の内容は、世界中の人々の大きな注目を浴びた。
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単行本p.60
海に流れ込み続け、自然分解されないまま蓄積してゆく大量のプラスチックごみ。海洋生物に対する物理的な脅威からマイクロプラスチック汚染まで、プラスチックごみの問題を解説します。
4 広がるデッドゾーン――減り続ける海の酸素
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人間活動の場に近い、沿岸海域、それも表層部を中心とする環境問題と受け止められてきた海水中の酸素濃度の減少が、外洋を含めた世界の海の広い範囲で進み、場合によっては海のかなり深い部分にまでその影響が及んでいることが分かってきた。そしてその原因は、人間が引き起こす地球の温暖化である。
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単行本p.94
海水に溶け込んでいる酸素が少ない貧酸素海域、生物を死滅させるデッドゾーンが増加の一途をたどっている。窒素やリンの流入と温暖化など、デッドゾーン拡大の原因とその深刻さを解説します。
5 細りゆく海の恵み――漁業資源の減少深刻
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チェン博士らの解析によると、世界の平均気温が1度高くなると世界の魚の漁獲量は約340万トン減る。(中略)「温暖化の進行と一次生産の減少は生態系全体に影響を与え、海の生物量は今世紀末には1986~2005年に比べて15%減少、漁獲可能な魚の量は20.5~24.1%も減る可能性がある」――、というのがIPCCの予測だ。進行する地球温暖化は、さまざまな形で人間の食糧安全保障にまで悪影響を及ぼすことになりそうだ。
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単行本p.130、131
乱獲と温暖化により、減少が続く世界の漁獲量。食料が不足するだけでなく、海の生態系が破壊され、その影響は甚大なものになるだろう。漁業資源に何が起きているのかを解説します。
海の環境は危機的な状況にあるのだが、それは陸上の環境破壊に比べて、とても目に見えにくい。ケルプの森や藻場の減少、白化したサンゴ、海流によって集まる大量のプラスチックごみなどは、一般の人の目にはなかなか見えない。漁業資源の減少は危機的な状況にある、といわれながら、今でも市場やスーパーの店頭には大量の魚介類が並び、クロマグロやミナミマグロ、ウナギなどの絶滅危惧種が多くの人の食卓に上っているのだから、漁業資源の危機を実感することも容易ではない。海が直面する危機を回避し、破局的な影響が現れることを防ぐには、まず、多くの人が海の環境の現状や将来予測について目を向け、理解することが第一歩となる。本書がそれに少しでも貢献できればいいと思っている。
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単行本p.154
高温化、酸性化、低酸素化、プラスチックごみ、漁業資源の枯渇。複合的な要因により危機的状況に置かれている海の環境問題を広く解説する一冊。単行本(岩波書店)出版は2020年4月です。
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これまで見てきたように拡大の一途をたどる人間活動によって、海の環境はさまざまな危機に直面している。温室効果ガスによって地球上にたまった熱、大気中に放出された二酸化炭素、日常生活や農業活動から出る過剰な大量のプラスチックごみや窒素。その多くが行き着く先は、海だった。
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単行本p.143
地球上で起きている様々な環境問題が集まってくる場所、海。
海の環境問題についてざっと広く学んでみたい人にお勧めの一冊です。ここから始めて、それぞれの問題について詳しく解説する本に進んでゆくとよいでしょう。
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持続可能なブルーエコノミー社会の実現には、海の環境が持つ価値を軽視し続けてきたこれまでの社会や経済のシステムを根本から転換することが必要となるし、そのためには強い覚悟と政治的な意志が必要になる。これは簡単なことではないが、人類の将来にとってはぜひとも実現しなければならない課題だ。そして、本書で紹介した多くの事例が示すように、大転換を実現するためにわれわれに残された時間は多くはない。
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単行本p.151
〔目次〕
序章 海を追いつめる人間活動
1 海の熱波の恐怖――高くなる海水温
2 酸性化する海――生態系破壊の懸念
3 海を埋め尽くすプラスチックごみ――有害物質の運び屋にも
4 広がるデッドゾーン――減り続ける海の酸素
5 細りゆく海の恵み――漁業資源の減少深刻
終章 海の価値を見直す
1 海の熱波の恐怖――高くなる海水温
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陸上の熱波はよく知られているが、海にも熱波があることが最近になって分かってきた。海の熱波はまだ明確な定義がなされた現象とはいいがたいが、何千キロにも渡って水温が、通常の変動を大きく超えて異常に高くなる海域が生まれ、少なくとも数日間、時にはそれが数カ月も続く現象のことをいう。面積は特には一万平方キロに及び、一年以上続くこともある。1980年代初めから世界各地の海で観測されるようになった。
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単行本p.13
大気の熱を吸収して温暖化をおさえてくれる海。だがそのために海水温が長期に広範囲にわたって異常に高くなる現象、海の熱波が観測されるようになった。熱波多発による海洋環境への影響を解説します。
2 酸性化する海――生態系破壊の懸念
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シミュレーション結果からは、酸性化の影響領域が南下する速度は、海水温度の上昇にともなってサンゴの生息域が北上する速度よりもはるかに速いため、やがてサンゴの生息可能領域を浸食するようになってくる。
「日本のサンゴは南からは温暖化の影響、北からは海洋酸性化の影響を受けるという挟み撃ち攻撃にあって生息できる領域がどんどん少なくなっていくことが分かったのです」と藤井さん。2070年以降、日本近海にサンゴが生息できる海域はほとんどなくなり、2100年にはほぼすべてがなくなってしまう。これが藤井さんたちの研究が示す予測だった。
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単行本p.50
人類が放出した大量の二酸化炭素を吸収して酸性化する海。殻を持つ生物やサンゴが生息できなくなり、生物多様性が失われたとき、何が起きるのか。海洋酸性化について解説します。
3 海を埋め尽くすプラスチックごみ――有害物質の運び屋にも
――――
現在、世界の海には1億5000万トンのプラスチックごみが存在しており、各国が目立った行動をとらなければこの量は2050年には積もり積もって、10億トン近くになるという。「現在、海にいる魚の重さは8億トンになる」とのデータがあるため、「2050年には魚の量よりもプラスチックごみの量の方が多くなる可能性が高い」――。こう指摘するこの報告書の内容は、世界中の人々の大きな注目を浴びた。
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単行本p.60
海に流れ込み続け、自然分解されないまま蓄積してゆく大量のプラスチックごみ。海洋生物に対する物理的な脅威からマイクロプラスチック汚染まで、プラスチックごみの問題を解説します。
4 広がるデッドゾーン――減り続ける海の酸素
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人間活動の場に近い、沿岸海域、それも表層部を中心とする環境問題と受け止められてきた海水中の酸素濃度の減少が、外洋を含めた世界の海の広い範囲で進み、場合によっては海のかなり深い部分にまでその影響が及んでいることが分かってきた。そしてその原因は、人間が引き起こす地球の温暖化である。
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単行本p.94
海水に溶け込んでいる酸素が少ない貧酸素海域、生物を死滅させるデッドゾーンが増加の一途をたどっている。窒素やリンの流入と温暖化など、デッドゾーン拡大の原因とその深刻さを解説します。
5 細りゆく海の恵み――漁業資源の減少深刻
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チェン博士らの解析によると、世界の平均気温が1度高くなると世界の魚の漁獲量は約340万トン減る。(中略)「温暖化の進行と一次生産の減少は生態系全体に影響を与え、海の生物量は今世紀末には1986~2005年に比べて15%減少、漁獲可能な魚の量は20.5~24.1%も減る可能性がある」――、というのがIPCCの予測だ。進行する地球温暖化は、さまざまな形で人間の食糧安全保障にまで悪影響を及ぼすことになりそうだ。
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単行本p.130、131
乱獲と温暖化により、減少が続く世界の漁獲量。食料が不足するだけでなく、海の生態系が破壊され、その影響は甚大なものになるだろう。漁業資源に何が起きているのかを解説します。
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