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『閑散として、きょうの街はひときわあかるい』(河野聡子、TOLTA) [読書(小説・詩)]

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適切に思考するツールが足りていないという感覚が常にある。自分でない人が書いたテキストを読むと言葉の意味がかなりちがうのにいつも驚いてしまう。日記というタイトルで詩を交代で書く企画は、その日やったことや、その日起きたことが書かれていて、驚く。みんな日記といえば、その日やったことやその日起きたことを書くんだ、と思う、私は書かない、私の日記に書かれるのは「その日考えたこと」だった、中学生のときにそんな日記を書いていて、ノートに三冊くらいたまったものを何年かとっていた、よくある話で、五年か六年あとに読んで、こんなものをとっておくと大変なことが起きると思い、破って捨てた。それとも焼いたのだったかな。焼却炉から出るダイオキシンの話題で大騒ぎだったころだ。人類は2000年前からテキストを焼くのが好きな生き物。
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『1月22日が私の誕生日』より


 新型コロナ禍におけるあれこれを数字込みで書いた詩人たちの断片的な言葉を素材としてTOLTAが構成した詩集。出版は2020年7月です。通販は以下のページから。


閑散として、きょうの街はひときわあかるい
https://tolta.stores.jp/items/5ee17fd755fa0313eceabe86


 詩集の制作については、河野聡子さんが詳しく解説しています。


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 TOLTA マイナンバープロジェクトは、こうした状況下で、数について考えるために行われたプロジェクトです。プロジェクト参加者は、定められた期間のあいだ、一日に一回、一つ以上の数字を含んだテキストを参加者全員が共有するファイルに匿名で記入します。こうして書かれたものをTOLTAが詩に構成した結果が、本詩集『閑散としてきょうの街はひときわあかるい』です。(中略)私たちはこれまでにない行動変容を迫られており、したがって文明史的に特異な時間を過ごしているといえるでしょう。この詩集はその特異性をある側面から切り取ったものであるはずです。
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本書籍は、令和2年4月20日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」のもと、感染拡大防止に留意しつつ簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行うために実施された特別定額給付金事業から、TOLTAの構成員のうち2名に給付された、特別定額給付金を原資として制作されました。
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 『この宇宙以外の場所』(TOLTA)の制作で使った手法を拡張して、募集に応じた多数の参加者に適用したようです。ちなみに、参加者は次の通り。


〈ゲスト参加者〉

暁方ミセイ
及川俊哉
大崎清夏
岡本啓
小峰慎也
柴田望
タケイ・リエ
文月悠光
北條知子
三上温湯
宮尾節子
吉田恭大

〈企画・制作 TOLTA〉

河野聡子
佐次田哲
関口文子
山田亮太


 誰がどの箇所を書いたのかは参加者にも分からない上、TOLTAがそれらを再構成したという、誰が書いたともいえないテキスト。今の実感を生々しく記録する詩集。そこからぶつ切りで引用することの罪悪感ときたら。でもやります。


 まずは新しい生活様式について。


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一日の初手としてジップロックに入れて冷凍した野菜炒めの具材を解凍するか、その前にシャワーを浴びるかで迷う。
そしてジップロックと一緒にシャワーを浴びれば一石二鳥という解決策を思いつく。
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『思惟も呼吸も17枚のビニールシートに仕切られている』より


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町の書店は入場制限中。一人出たら一人入れる仕組み。出てくる人を待ちながら、「密ですゲーム」で画面の中の群衆を押しのける。アイテムのお魚券と和牛券はまだゼロのまま。北海道の友人はすでにゲットした模様。試される大地に試されている。
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『キャッシュとカードの違いがわからなくて笑われる』より


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読書にも映画にも飽きて漫画を描く
アマビエ様の四コマ漫画を第四話まで描く
アマビエ様はリンゴが好き
アマビエ様は空も飛べる
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『18時のオンライン会議までそわそわして何もできない一日』より


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10万円用の動画を撮りながら、バンクシーになりたいかどうか検討する。
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『猫の誕生日を8月30日にする』より


 デマや不確かな情報に振り回される混乱と不安について。


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日に五種類の薬を飲む。
「十五歳以上:三錠」の表示を見ると毎度、果たして同じ量で大丈夫か、育ち盛りは足りるのか、と中学生男子を思い浮かべて心配になる。
男子でも、その母でもないのに。
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『局員によると、あなたはまだ運がいいほうだという』より


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ウィキペディアに「ルービックキューブは、二十七個の立方体で構成される立体パズル」って書いてあったけど、あれ、中心に関節入ってるから二十六個なんだよ。分解すると立方体でもないしね。「五十四面の四角い面から構成される立体パズル」と言えば正しいのではないか(屁理屈)。妊婦用の布マスクの検品に8億円かかるというニュース。子供が嘘をついた後で小さな声でこっそり本当のことをいうようなかたちで、「実は800万円でした」と新聞の端っこに訂正文が載っていた。
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『夜中の2時ごろ、短い地震』より


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「1%の確率で生まれる青い薔薇は、こうやって交配すれば25%の確率に!」というタイトルの記事をビックリしながら読んでいたら「あつまれどうぶつの森」の話だった。
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『もっと派手に悪いことが起こればいいのにと思う』より



 新たな気づきや発見について。


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猫のご飯、一日二回のつもりだったけど、二人で二回ずつあげていた。
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『自由自在になった4人の若者がそれぞれの特性をいかして、人を馬鹿にしている』より


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トルコのウエハースが税抜105円税込96円で売っていた。こういうのをそっとしておけない人とは結婚しない。
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『3日間放置したみそ汁が腐ったら初夏』より


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二メートルのひもで繋がれた大人二人が十二日間氷河を超えてサバイバルするという状況でも、たぶんソーシャルディスタンスは守られている。
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『退屈そうにしていた母と2m離れてお茶した』より


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だるまさんがコロナ
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『3日間放置したみそ汁が腐ったら初夏』より





タグ:河野聡子
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