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『サークル・ゲーム』(マーガレット・アトウッド:著、出口菜摘:翻訳) [読書(小説・詩)]

――――
この骨を壊したい、
わたしを幽閉するあなたのリズムも
   (冬、
    夏)
ガラスケースも全部粉々にしたい、

地図をすべて消し去りたい、
砕いてしまいたい
唄いながら回転しつづける
あなたの子どもたちを守る卵の殻を。
円環(サークル)が
壊れてほしい。
――――
『サークル・ゲーム』より


 マーガレット・アトウッドのデビュー作、怒りと絶望に満ちた第一詩集。単行本(彩流社)出版は2020年5月です。


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ひょろりと伸びた木々は
沼地にその根を張っていること。
ここは貧しい土地だということ。
手で触れてようやく
こんなにも荒い岩肌の崖だと分かる、
だから到着不可能なのだ。なにより
旅とは、ある地点から別の地点へ
地図上の点線、四角い記された場所へ
移動するような気楽なものではなく
むしろ、絡まりあった枝々に包囲され、
まとわりつく空気と、明滅する網目のなかを
動きつづけるものだということ。
ここより他に向かう先はないこと。
――――
『内面への旅』より


――――
でも、車道を均し
ヒステリーを手際よく避けても、
焦げつく空を敬遠し
屋根の勾配をすべて均一にとっても、
ちょっとしたこと、
たとえば撒かれたオイルの臭い
ガレージに淀むかすかな嫌悪感、
殴打の痕かと胸を衝くレンガに付着したペンキの飛沫、
毒々しくとぐろ巻くプラスチックのホース、
幅広の窓でさえ、無遠慮に一点を凝視しているから
垣間見えるのだ
漆喰の壁にもうじき走る亀裂
そこから覗く隠された風景
――――
『都市設計者』より


――――
初期の
言語は廃れた。
このごろは
互いを疲弊させる隔たり。
剥げた部屋のうつろな空間で
借りものの数分間行われる
スパークリングのような論戦、
いつもどおりの階段をあがり、
疲労でかすれたわたしたちの声、
警戒する体。
わたしが向ける不信にあなたは収縮し
蒼穹を高く揚げることなどできない、
変身にまつわる伝説を
ふたたび始めることなどできない、

この姿が最後。
――――
『プロテウスのなれの果て』より


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自らを
わたし
と呼ぶこれは
今この時
どうでもいい

わたしはどうでもいい

そんなことは
必ずわたしのそばにいる
シビュラに託す
(そのために彼女はいるのだから)
安全に瓶詰めされた苦悶と
ガラスの絶望とともに
――――
『女預言者』より





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