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『キャプテン・フューチャー最初の事件』(アレン・スティール、中村融:翻訳) [読書(SF)]

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「落ちつけって、キャプテン・フューチャー!」保護者ぶった口調を隠そうともせずに副操縦士がいった。「二十四世紀へようこそ!」
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文庫版p.275


「主席の権限で、きみを惑星警察機構の臨時覆面捜査官に任命する。コードネームがなにかは、きみにはもうわかっているね。キャプテン・フューチャー」

 両親の死の真相を知らされた若き日のカーティス・ニュートンは、復讐のために立ち上がった。その行動を阻止するために動く惑星警察機構司令エズラ・ガーニーとその部下ジョオン・ランドール。太陽系を揺るがす事件の背後では、宿敵「火星の魔術師」ことウル・クォルンが待ち構えていた……。

 現代に蘇ったエドモンド・ハミルトンの古典的スペースオペラ。リブートされた新キャプテン・フューチャーシリーズ第一長編。文庫版(東京創元社)出版は2020年4月、Kindle版配信は2020年4月です。


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 しばらくすると、キャンプテン・フューチャーの物語のようなものを本当に書く方法はひとつだけだと思うようになった……そう、キャプテン・フューチャーの物語を書くことだ。(中略)ハミルトンの小説へのオマージュでもなければパロディでもなく、新世代の読者に向けて《キャプテン・フューチャー》を21世紀によみがえらせようという試みである。
 そのためには、ハミルトンが創りあげたキャラクターと設定を完全に見直し、アップデートする必要があった。(中略)純粋主義者のなかには異を唱える者がいるかもしれないが、シリーズが1940年代ヴァージョンと矛盾しないことよりも、われわれの世紀の科学とテクノロジーと調和していることのほうが大事だ、とぼくは判断した。
 ただし、同時に、オリジナルの精神は受け継ごうと思った。
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文庫版p.443


 2015年の太陽系を舞台とした『恐怖の宇宙帝王』発表から80年。すでに2015年よりも未来を生きている私たちに、もう一度キャプテン・フューチャーとその仲間たちの冒険譚が届けられました。舞台は24世紀。バイオテクノロジーとテラフォーミング技術を駆使することで、太陽系内の各惑星に人類が入植している時代です。


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 それは奇跡の時代だった。驚異の時代だった。新しいフロンティアの時代だった。(中略)
 それは黄金時代だった。金星の空中都市から火星の砂漠入植地まで、月のクレーター住居からタイタンやガニメデの地下居住地まで、セレスやヴェスタの採鉱ステーションから冥王星の監獄やセドナの辺境居留地にいたるまで、政治家と詩人、科学者と放浪者、踊り子と兵士、賢者と聖なる愚者、権力のある者とない者、富者と貧者、善のために闘う者とおのれの利益だけを――かならずしも邪悪な行為とはいえないとしても――追求する者がいた。
 それは苦難の時代だった。だが、そうでない時代があるだろうか?
 それは、いま述べたものすべてが存在した時代であり、さらに多くのものが存在した時代だった……ただし、英雄はいなかった。
 当然ながら、英雄が生まれなければならなかった。
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文庫版p.11、12


 二十歳になったばかりのカートことカーティス・ニュートンは、両親を殺した男に対する復讐を企て、結果として惑星警察に捕まってしまいます。このとき、素性を隠すために名乗った偽名、それは……。


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「あなたはまだ司令の質問に答えていない」ジョオンは銃もガードもおろしていなかった。
「あなたは何者なの?」
「キャプテン・フューチャーと呼んでもかまわない」
 彼女はまじまじとカートを見た。
「ななななんですって――?」
「これほどばかげた名前は聞いたことがない」エズラがつぶやいた。
 カートは顔が火照るのを感じた。(中略)彼はそういえと命じたサイモンを呪ったが、撤回するには手遅れだった。
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文庫版p.201


 後に、なかば罰ゲームのようにして与えられた正式なコードネーム、名乗るたびに「……ぷぷっ」という反応を引き出す名前を、これから彼は太陽系中に轟かせてゆくことになるのです。


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「きみの仲間には“フューチャーメン”がふさわしいのではないかと考えていた」彼がそういい添えると、オットーは親指をあげて応えた。
「キャプテン・フューチャーとフューチャーメン」こうくり返したカート自身、その名前のばかばかしさに苦笑するしかなかった。たびたび使われたりしないよう願ったが、そうなるような気がしてならなかった。
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文庫版p.


 お約束「後に宿敵となる相手との最初の対決」シーンでも、やっぱり話題は呼び名。だよなあ。


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「さて、カート……いや、おまえとしてはキャプテン・フューチャーのほうがいいのかもしれんが――」
「友人たちはぼくをカートと呼ぶ。きみはキャプテン・フューチャーと呼んでもいい」
「それは変わるかもしれんぞ」うしろ手を組みながら、ウル・クォルンは眼と眼が合うまでカートに近づいた。
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文庫版p.410


 そしてこれまたお約束「悪漢の秘密基地(主人公が捕らわれている)に対する総攻撃命令」シーンへ。


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「どうする。彼らを信用するのか?」
 エズラは一瞬考えこんでから、しぶしぶうなずいた。
「これまでのところ、あの坊やは嘘をいったことがない。奇っ怪ではあるが、ライト博士もそうだ。ああ、彼のいうとおりにするべきだと思う」
「同感だ」E・Jは椅子にすわったままくるっと体をまわし、前を向くと、ふたたびヘッドセットをタップした。「総員に告ぐ。出港準備にかかれ。くり返す、ただちに出港準備にかかれ。戦闘部隊、行動にそなえて待機せよ。これは演習ではない」
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文庫版p.377


 というわけで、ナノテクノロジーやニューラルネットがある世界で、キャプテン・フューチャーの活躍が始まります。見守りたいと思います。





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