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『みんなのアマビエ』(水木しげる、西原理恵子、おかざき真里、松田洋子、永野のりこ、寺田克也、田中圭一、なかはら・ももた、他) [読書(教養)]

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 現代のアマビエは、絵だけにとどまらず、デフォルメされて彫刻、陶芸、ガラス、織物、和菓子、あみぐるみ…など様々な表現方法で楽しまれています。自粛要請で自宅にこもる日々の中、閉塞した気分をやわらげようと、クリエイターのみならず一般の人々も自作のアマビエを投稿し、見せあい、交流しています。
 そこで、ツイッターで「#みんなのアマビエ」のタグをつけて作品を募集したところ、
多くのアマビエが寄せられました。その中から編集部が厳選し、漫画家の方々が疫病退散の祈りを込めて投稿した作品とあわせて、87のアマビエを一冊にまとめたのが本書です。
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「はじめに」より


 ツイッターで集まった数多くの作品から選ばれた87のアマビエ作品集。単行本(扶桑社)出版は2020年5月、Kindle版配信は2020年5月です。

 疫病退散の祈りとウケ狙い。ヒトの心をがっちりつかみ今や海外にまで広まっているアマビエ。その姿を元にした作品集です。最初は8名の漫画家によるアマビエ画。水木しげるさんの妖怪画から、松田洋子さんのアマギエ画(や、山岸先生……)まで。

 続いて立体アマビエというか造形・工芸編が続きます。彫刻、水引、七宝焼き、刺繍、陶芸、粘土細工、彫金、だるま、張り子、切り絵、ステンドグラス、ガラス細工、鬼瓦、フェルト、ネイルアート、という具合に工芸作品が並んでいます。

 最後は絵画・イラスト編。ポップでキュートなアマビーが次々と。

 本を開く前は「読者の皆さんから寄せられたイラスト」みたいなクオリティを予想していたのですが、どれも本格的というか、アート作品として売り物になるレベル。アートカタログ的に楽しめる一冊としてぜひお手許に。

 アマビエの御利益? これがそうです。


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 最後の流行からおよそ140年。コロリならぬ新型コロナの流行に直面する私たちは、SNS上でアマビエの姿を見て、リツイートと二次創作によって拡散を続ける。
 では、御利益はあるのか?
 じつは亜種であるアマビエは「早々に私の姿を写して人々に見せよ」とは告げるが、その御利益は明言していない。
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単行本p.94





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『キャプテン・フューチャー最初の事件』(アレン・スティール、中村融:翻訳) [読書(SF)]

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「落ちつけって、キャプテン・フューチャー!」保護者ぶった口調を隠そうともせずに副操縦士がいった。「二十四世紀へようこそ!」
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文庫版p.275


「主席の権限で、きみを惑星警察機構の臨時覆面捜査官に任命する。コードネームがなにかは、きみにはもうわかっているね。キャプテン・フューチャー」

 両親の死の真相を知らされた若き日のカーティス・ニュートンは、復讐のために立ち上がった。その行動を阻止するために動く惑星警察機構司令エズラ・ガーニーとその部下ジョオン・ランドール。太陽系を揺るがす事件の背後では、宿敵「火星の魔術師」ことウル・クォルンが待ち構えていた……。

 現代に蘇ったエドモンド・ハミルトンの古典的スペースオペラ。リブートされた新キャプテン・フューチャーシリーズ第一長編。文庫版(東京創元社)出版は2020年4月、Kindle版配信は2020年4月です。


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 しばらくすると、キャンプテン・フューチャーの物語のようなものを本当に書く方法はひとつだけだと思うようになった……そう、キャプテン・フューチャーの物語を書くことだ。(中略)ハミルトンの小説へのオマージュでもなければパロディでもなく、新世代の読者に向けて《キャプテン・フューチャー》を21世紀によみがえらせようという試みである。
 そのためには、ハミルトンが創りあげたキャラクターと設定を完全に見直し、アップデートする必要があった。(中略)純粋主義者のなかには異を唱える者がいるかもしれないが、シリーズが1940年代ヴァージョンと矛盾しないことよりも、われわれの世紀の科学とテクノロジーと調和していることのほうが大事だ、とぼくは判断した。
 ただし、同時に、オリジナルの精神は受け継ごうと思った。
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文庫版p.443


 2015年の太陽系を舞台とした『恐怖の宇宙帝王』発表から80年。すでに2015年よりも未来を生きている私たちに、もう一度キャプテン・フューチャーとその仲間たちの冒険譚が届けられました。舞台は24世紀。バイオテクノロジーとテラフォーミング技術を駆使することで、太陽系内の各惑星に人類が入植している時代です。


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 それは奇跡の時代だった。驚異の時代だった。新しいフロンティアの時代だった。(中略)
 それは黄金時代だった。金星の空中都市から火星の砂漠入植地まで、月のクレーター住居からタイタンやガニメデの地下居住地まで、セレスやヴェスタの採鉱ステーションから冥王星の監獄やセドナの辺境居留地にいたるまで、政治家と詩人、科学者と放浪者、踊り子と兵士、賢者と聖なる愚者、権力のある者とない者、富者と貧者、善のために闘う者とおのれの利益だけを――かならずしも邪悪な行為とはいえないとしても――追求する者がいた。
 それは苦難の時代だった。だが、そうでない時代があるだろうか?
 それは、いま述べたものすべてが存在した時代であり、さらに多くのものが存在した時代だった……ただし、英雄はいなかった。
 当然ながら、英雄が生まれなければならなかった。
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文庫版p.11、12


 二十歳になったばかりのカートことカーティス・ニュートンは、両親を殺した男に対する復讐を企て、結果として惑星警察に捕まってしまいます。このとき、素性を隠すために名乗った偽名、それは……。


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「あなたはまだ司令の質問に答えていない」ジョオンは銃もガードもおろしていなかった。
「あなたは何者なの?」
「キャプテン・フューチャーと呼んでもかまわない」
 彼女はまじまじとカートを見た。
「ななななんですって――?」
「これほどばかげた名前は聞いたことがない」エズラがつぶやいた。
 カートは顔が火照るのを感じた。(中略)彼はそういえと命じたサイモンを呪ったが、撤回するには手遅れだった。
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文庫版p.201


 後に、なかば罰ゲームのようにして与えられた正式なコードネーム、名乗るたびに「……ぷぷっ」という反応を引き出す名前を、これから彼は太陽系中に轟かせてゆくことになるのです。


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「きみの仲間には“フューチャーメン”がふさわしいのではないかと考えていた」彼がそういい添えると、オットーは親指をあげて応えた。
「キャプテン・フューチャーとフューチャーメン」こうくり返したカート自身、その名前のばかばかしさに苦笑するしかなかった。たびたび使われたりしないよう願ったが、そうなるような気がしてならなかった。
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文庫版p.


 お約束「後に宿敵となる相手との最初の対決」シーンでも、やっぱり話題は呼び名。だよなあ。


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「さて、カート……いや、おまえとしてはキャプテン・フューチャーのほうがいいのかもしれんが――」
「友人たちはぼくをカートと呼ぶ。きみはキャプテン・フューチャーと呼んでもいい」
「それは変わるかもしれんぞ」うしろ手を組みながら、ウル・クォルンは眼と眼が合うまでカートに近づいた。
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文庫版p.410


 そしてこれまたお約束「悪漢の秘密基地(主人公が捕らわれている)に対する総攻撃命令」シーンへ。


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「どうする。彼らを信用するのか?」
 エズラは一瞬考えこんでから、しぶしぶうなずいた。
「これまでのところ、あの坊やは嘘をいったことがない。奇っ怪ではあるが、ライト博士もそうだ。ああ、彼のいうとおりにするべきだと思う」
「同感だ」E・Jは椅子にすわったままくるっと体をまわし、前を向くと、ふたたびヘッドセットをタップした。「総員に告ぐ。出港準備にかかれ。くり返す、ただちに出港準備にかかれ。戦闘部隊、行動にそなえて待機せよ。これは演習ではない」
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文庫版p.377


 というわけで、ナノテクノロジーやニューラルネットがある世界で、キャプテン・フューチャーの活躍が始まります。見守りたいと思います。





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『ハルハトラム 2号』(現代詩の会:編、北爪満喜、白鳥信也、小川三郎、他) [読書(小説・詩)]

 「現代詩の会」メンバー有志により制作された詩誌『ハルハトラム』2号(発行:2020年5月)をご紹介いたします。ちなみに前号の紹介はこちら。

2019年07月02日の日記
『ハルハトラム 1号』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-07-02


[ハルハトラム 2号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――
『12月25日』(他一編)(来暁)
『刀』(小川三郎)
『ふゆのこずえ』(北爪満喜)
『タリスマン』(恵矢)
『起床』(佐峰存)
『何者』(沢木遥香)
『幟の竿』(島野律子)
『ほろびいるかえる』(白鳥信也)
『蔦と夢』(橘花美香子)
『春の波』(長尾早苗)
『カリギュラ』(他三編)(水嶋きょうこ)
――――――――――――――――――――――――――――

 詩誌『ハルハトラム』に関するお問い合わせは、北爪満喜さんまで。

北爪満喜
kz-maki2@dream.jp




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赤服白ひげ その人は今日姿を現す
毎日祈ってすごしている
子どもたちといっしょに
祈っているのは
子どもたちのいる世界
祈りは子どもたちのもの
子どもたちを祈る祈りがある
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『12月25日』(来暁)より


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あなたはほろぼされてはいけない

きょうもあるいてきたのだから
たおれるかわりに
おれるかわりに
かおをあずける
かぞえきれない
さざんかがてのひらをひらいている
まつげのしずくをはらってくれる
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『ふゆのこずえ』(北爪満喜)より


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仰向けに地面に寝そべる身体からは
泥がにじんでいく
あいつはいつの間にか私の声帯に馴染んでいる
追い出すのを諦めて力を抜くと
身体の内側から
知っている匂いが漂ってくる

視界の外で殻の割れる音が響いた

昼間見た飛行機雲の痕跡が
暗い夜空に少し残っている
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『何者』(沢木遥香)より


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カエルが雨を浴びようと
ほとんど地面などない街の陰からはいでてくる
一匹 二匹 三匹いる
路面を静かに流れる水と
空から降ってくる水を全身で感じようとしている
俺も乾いている
早く家に帰ってビイルを飲もうか
いやそれより俺も感じたい
カエルになって感じたい
カエルになった俺は
黒のウィングチップも灰色の靴下も脱いで裸足になる
スッキリした気分
持ち帰りの仕事のつまったカバンも投げ捨てる
スッキリ スッキリ ゲコゲコ
足裏は冷やっこい
でもスッキリ
でもビイルも飲みたい ビイルカエルだ
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『ほろびいるかえる』(白鳥信也)より


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蔦に絡まれた我が家
それはやがて私の皮膚と入れ替わり
私の皮膚に蔦は爪をかけからみつき
私を蔦の成分として取り込もうと
うねりながら喰いこんでくる

私は絡みこんでくる蔦を握りしめ
土踏まずに力をいれる
私は自分軸をたしかめ
ぐいっとひっぱる
が、蔦はしがみつき
さらに、下半身に力をいれ
掛け声をかけ引き剥がす
そして、鋏で伐りおとした

細い蔦は皮膚をひっかきながら
全身を張り巡っている
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『蔦と夢』(橘花美香子)より


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大きなイヌと一緒だった
イヌはわたしの足首に指先に
濡れた鼻息をあてていく
広場の石畳は冷たい
秘めやかに泣く女たちの声が窓際に滲み
軍服を着た首の長い男が
鉄塔をよじ登っていく
――――
『ノスタルジー』(水嶋きょうこ)より全文引用





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