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『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて ――誰にも性的魅力を感じない私たちについて』(ジュリー・ソンドラ・デッカー、上田勢子:翻訳) [読書(教養)]

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 あなたがアセクシュアルでないのなら、私たちの気持ちを信じて聞いてください。通常のセックスが幸福に不可欠ではないこと、セラピーや治療が必要ではないこと、私たちが壊れているわけではないことを理解してほしいのです。アセクシャルの人は数が少ないので、支え合う仲間になかなか出会えません。自分たちだけでなく、ほかの人たちにも理解してほしいのです。自分が存在していないような気持ちにさせられるネガティブな批判と、私たちは闘っていきたいのです。あなたにアセクシュアリティについてお話しするのは、理解してほしいからなのです。多少ともわかってほしいのです。
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単行本p.19


 誰にも性的魅力を感じないという性的指向、アセクシュアル。人口の1パーセントを占めるアセクシュアルの人々は、実際にはどのように感じ、考え、体験しているのだろうか。社会からその存在を無視され、否定され、ときにはLGBTコミュニティから敵視されることもある「見えない性的指向」アセクシュアルに関するガイドブック。単行本(明石書店)出版は2019年5月です。


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 LGBTQについてもよくあることですが、アセクシュアリティの記事についての読者コメント欄を読みさえすれば、そこには、アセクシュアリティに対する無知と、「壊れている」アセクシュアルの人に対する憎しみが溢れていることが明らかにわかります。
 全般的に、社会から受けるメッセージは、アセクシュアルの人なんて存在しない、あるいはアセクシュアルは治療を受けるべきというものです。
(中略)
 ロマンティックなアセクシュアルの人は、セックスのない(あるいは欲さない)関係がいかに機能しないものであるかというメッセージを繰り返し聞かされます。ときには、パートナーからこうした傷つくメッセージを聞かされることもあり、そうすると外からは想像もできないほど深く傷つきます。情報やサポートのない場合はなおさらです。
 不可視性に耐えるのは、「抑圧」とは違うと言う人もいます。そうかもしれません。しかし、繰り返し存在を無視され、言葉で虐待され、誤解され続けることは抑圧になります。
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単行本p.79、80


〔目次〕

パート1 アセクシュアリティの基礎知識
パート2 アセクシュアリティの体験について
パート3 アセクシュアリティについての多くのうそ
パート4 もしあなたがアセクシュアルなら(または、そうかもしれないと思ったら)
パート5 知っている人がアセクシュアルか、そうかもしれないと思ったら
パート6 他の情報




パート1 アセクシュアリティの基礎知識
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 アセクシュアリティとは性的指向の一つで、現在人口の1パーセントに当てはまるといわれています。通常は、他者に性的に惹かれないことを指しますが、「性行為や性的魅力をそれほど重要視しないこと」と定義する場合もあります。(中略)私たちアセクシュアルの人の中には、恋愛をしたい人も、そうでない人もいます。セックスをしてもよいと思う人も、そうでない人もいます。処女童貞の人もそうでない人もいます。自慰をしたり、性欲があったり、子どもを欲しいと思う人もいます。孤独、恐怖、混乱、孤立、無視されていると感じる人もいます。私たちはそんな気持ちにはなりたくありません。
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単行本p.18


 アセクシュアリティに関する基礎知識をまとめます。それは行為や思想を示す言葉ではなく、未熟さのあらわれでもなく、機能不全でもなく、尊重されてしかるべき性的指向の一つだということを示します。


パート2 アセクシュアリティの体験について
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 クィアプラトニックという関係を表す言葉も、アロマンティックの人の間ではよく使われます。アロマンティックだけでなく、どのような性的あるいはロマンティック指向の人でも、クィアプラトニックの関係を持つことはできます。これは、お互いに献身的な長期にわたる関係で、二人の間には恋愛感情はありませんが、いわゆる友情関係とは違った強さの、とても強い感情が存在します。(中略)ロマンティックでない親密な関係を持たない人にはなかなか理解できないかもしれませんが、家族でも恋愛関係でもない相手との関係を、友情とかベストフレンドと呼ぶことに満足していた人でも、クィアプラトニックという(新しい)言葉を聞いて、それがこれまでになく、しっくりくる呼び方だと感じる人も多いのです。
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単行本p.47、48


 アセクシュアルの人が実際にどのような体験をしているのかをまとめます。パートナーとの関係、社会生活、LGBT支援グループとの関係。アセクシュアルの人にネガティブな影響を与える可能性のある法律や状況や態度や問題の一部については、次のようなリストを提示して解説してくれます。一部に米国特有の状況も含まれているものの、多くの国や地域でも有効なリストでしょう。

1. 結婚についての法律
2. 養子縁組の不認可
3. 雇用や賃貸借の差別
4. メンタルヘルスの専門家による差別
5. 恋愛感情のない関係のための、結婚と同等のシステムの欠如
6. 宗教的な圧力と差別
7. 「矯正」という名のレイプ
8. メディアや性教育による無視
9. 抑圧の内在化/自己嫌悪


パート3 アセクシュアリティについての多くのうそ
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 アセクシュアルの人はセックスを試したことがない、あるいは試したけれどセックスの相手が悪かった、そして、セックスのよいパートナーと出会えれば、「転換」できるというのが、最も困る一般的な誤解なのです。こう主張する人のほとんどが、自分こそがその実験を行う適任者だと思っているのは、なんとも興味深いことではありませんか!
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単行本p.207


 「過去のひどい体験のせいで/誰からも相手にされないせいで/人として未熟なせいで/恋愛やセックスを楽しんでいる人に対する憎悪のあまり」アセクシュアルになったのではないか。「隠れゲイ/禁欲主義者/成長過程の一時的なもの/他人と関わりたくない冷淡な人」ではないの? そして、「セラピーによって/人間的成長によって/誰か上手な人と試してみれば」治るんじゃないの?
 アセクシュアルの人に投げかけられる様々な誤解や非難についてまとめます。


パート4 もしあなたがアセクシュアルなら(または、そうかもしれないと思ったら)
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 自分がいったいなんなのか、それがやっとわかればとても安堵できるでしょう! でも、自分のラベルを見つけられれば視界が開けますが、それが絶対に必要というわけではありません。自分をどう呼ぶかをすぐ決めなくてもいいのです。(中略)忘れないでほしいのは、アセクシュアリティは人によって診断されるものではないということです。それに自分がアセクシュアリティだと決めても、あとで変えてもいいということも忘れないでください。
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単行本p.222


 自分は周囲の人と違うことに気づいたとき、恋愛やセックスに興味がなく欲望も感じないのを異常ではないかと心配したとき、どうすればいいのか。悩みを共有できる仲間を見つけるには。自らのアセクシュアリティを自覚した人へのアドバイスをまとめます。


パート5 知っている人がアセクシュアルか、そうかもしれないと思ったら
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 存在を認めてほしいというのが、アセクシュアルの人に最も多い回答です。
 簡単に思えるかもしれませんが、アセクシュアルの人は実際、ほとんど存在が認知されていないのです。特に目につく差別があるわけでもないし、意図的な抑圧を受けることもあまりありません。しかし、アセクシュアルの人は、自分の人生の中心ともいえるアセクシュアリティをほとんど、あるいはまったく認知されずに毎日を生きているのです。暴力的な抑圧や、よほどひどい差別を受けているというわけではありませんが、それは確かに不利な環境ではあります(「ほかのマイノリティはもっと大きな問題を抱えているじゃないか」とよく言われますが、そうした比較には意味がないと思います。誰が最も差別されているかとか、どのグループが一番恵まれないかというようなことを比べようとしているのではありませんから)。
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単行本p.255


 カミングアウトされたときの対応は。恋人やパートナーがアセクシュアルだと判明したら。自分の子どもがアセクシュアルだったら。サポートするにはどうすればいいの。アセクシュアルではないが、アセクシュアルの知人がいる場合、どのように振る舞えばいいのかをまとめます。


パート6 他の情報
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 ここに挙げた補充情報は、アセクシュアリティについて調べたり、アセクシュアルの人と話したり、個人の体験を読んだり、アセクシュアリティについて理解したり、ほかの人たちとの繋がりを築くために役立つものです。
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単行本p.290


 Webサイト、グループ、学術的情報、論文や出版物、記事、動画、プレゼン、個人ブログなど、入門書あるいはガイドブックに相当する本書を読んでから、さらにアセクシュアリティについて知りたい場合の情報源をまとめます。





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