『遠い他国でひょんと死ぬるや』(宮内悠介) [読書(小説・詩)]
――――
じわりと、昔あった情熱が高まってきた。
見たい。
浩三の見た地を、浩三の見た戦争を。そして、わたしの戦争を。それも、自分一人の手と、足と、目で。
――――
単行本p.31
「ぼくは、ぼくの手で、戦争を、ぼくの戦争がかきたい」
ルソン島で戦死した詩人、竹内浩三が残した言葉に導かれるようにしてフィリピンを再訪した元テレビディレクター。巻き込まれた大騒動の果てに、彼は自分の戦争を見ることが出来るのか。単行本(祥伝社)出版は2019年9月です。
政治と戦争をめぐるシリアスな物語を、独特のゆるさで一気に読ませてしまう『あとは野となれ大和撫子』の著者による新たな冒険小説です。
「日本スゴイ」番組やら何やらを作るのに嫌気がさして仕事をやめた元テレビディレクター。詩人である竹内浩三が見たであろう「戦争」を自分の目で確かめるために、彼はすべてを処分して単身フィリピンに渡る。ひょんなことから、現地で知り合った娘、その元恋人にしてイスラム武装勢力メンバーたる青年、この二人と共にミンダナオ島に向かうことに。
――――
そしてまた、わたしは例の感覚に囚われはじめていた。
この二人は歴史を生き、歴史に翻弄された。わたしだけが、歴史のなかを生きていない。
(中略)
マラウィ付近は戦争の傷痕が深く、荒廃している。
外国人のわたしとしては、一番警戒すべきは営利誘拐だろうか。半年くらい前には、日本人夫妻が行方不明になったらしいというニュースを目にした。
しかし、それこそはわたしの向かうべき先ではないのか。ただ一人歴史を生きていないわたしが、そして竹内浩三の影を追うわたしが。
――――
単行本p.97
死地に向かった詩人の足取りをたどり、あの戦争とは何だったのかを見つめる。そんなドキュメンタリー番組風に展開するのだろうという読者の予想は、大きく裏切られることに。
――――
「あんたについていけば何かある! あたしの嗅覚がそう告げてる!」
「ええと……」
「自己紹介が遅れたね。あたしはマリテ・マルティノン。トレジャーハンターだよ。で、こっちは手下のアンドリュー」
「共同事業者のアンドリューだ」
――――
単行本p.106
旧日本軍によって終戦時にフィリピンに埋められたという莫大な埋蔵金、通称「山下財宝」。そのお宝を狙うトレジャーハンターを自称する暴走フランス娘とそのお付きの登場により、物語は軽快な冒険ものへと転進してゆきます。
大金持ち財閥の馬鹿息子とかミンダナオ島でくすぶっているハッカーとか、それらしい登場人物が事態をひっかき回し、銃撃戦とか、火災とか、カーチェイスとか、対戦車ロケット砲とか、そういうシーンがどんどん。状況はシリアスなのに、登場人物たちに何となく「照れ」のようなものが感じられて、どこかゆるい雰囲気のまま物語は進んでゆきます。
大騒ぎの挙げ句、ついに目的地に到着する最終章。そこで主人公の当初の願いがかなうことになります。「ぼくは、ぼくの手で、戦争を、ぼくの戦争がかきたい」という浩三の言葉に著者はどう応えたのか。最後まで読んで確かめてください。
――――
「いつでも言葉が人を縛る。いまのあなたが、そうされているみたいに。でも、詩は言葉の理を超えたところで、ときに心を正してくれる。旅にもまた、言葉がない」
――――
単行本p.245
じわりと、昔あった情熱が高まってきた。
見たい。
浩三の見た地を、浩三の見た戦争を。そして、わたしの戦争を。それも、自分一人の手と、足と、目で。
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単行本p.31
「ぼくは、ぼくの手で、戦争を、ぼくの戦争がかきたい」
ルソン島で戦死した詩人、竹内浩三が残した言葉に導かれるようにしてフィリピンを再訪した元テレビディレクター。巻き込まれた大騒動の果てに、彼は自分の戦争を見ることが出来るのか。単行本(祥伝社)出版は2019年9月です。
政治と戦争をめぐるシリアスな物語を、独特のゆるさで一気に読ませてしまう『あとは野となれ大和撫子』の著者による新たな冒険小説です。
「日本スゴイ」番組やら何やらを作るのに嫌気がさして仕事をやめた元テレビディレクター。詩人である竹内浩三が見たであろう「戦争」を自分の目で確かめるために、彼はすべてを処分して単身フィリピンに渡る。ひょんなことから、現地で知り合った娘、その元恋人にしてイスラム武装勢力メンバーたる青年、この二人と共にミンダナオ島に向かうことに。
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そしてまた、わたしは例の感覚に囚われはじめていた。
この二人は歴史を生き、歴史に翻弄された。わたしだけが、歴史のなかを生きていない。
(中略)
マラウィ付近は戦争の傷痕が深く、荒廃している。
外国人のわたしとしては、一番警戒すべきは営利誘拐だろうか。半年くらい前には、日本人夫妻が行方不明になったらしいというニュースを目にした。
しかし、それこそはわたしの向かうべき先ではないのか。ただ一人歴史を生きていないわたしが、そして竹内浩三の影を追うわたしが。
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単行本p.97
死地に向かった詩人の足取りをたどり、あの戦争とは何だったのかを見つめる。そんなドキュメンタリー番組風に展開するのだろうという読者の予想は、大きく裏切られることに。
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「あんたについていけば何かある! あたしの嗅覚がそう告げてる!」
「ええと……」
「自己紹介が遅れたね。あたしはマリテ・マルティノン。トレジャーハンターだよ。で、こっちは手下のアンドリュー」
「共同事業者のアンドリューだ」
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単行本p.106
旧日本軍によって終戦時にフィリピンに埋められたという莫大な埋蔵金、通称「山下財宝」。そのお宝を狙うトレジャーハンターを自称する暴走フランス娘とそのお付きの登場により、物語は軽快な冒険ものへと転進してゆきます。
大金持ち財閥の馬鹿息子とかミンダナオ島でくすぶっているハッカーとか、それらしい登場人物が事態をひっかき回し、銃撃戦とか、火災とか、カーチェイスとか、対戦車ロケット砲とか、そういうシーンがどんどん。状況はシリアスなのに、登場人物たちに何となく「照れ」のようなものが感じられて、どこかゆるい雰囲気のまま物語は進んでゆきます。
大騒ぎの挙げ句、ついに目的地に到着する最終章。そこで主人公の当初の願いがかなうことになります。「ぼくは、ぼくの手で、戦争を、ぼくの戦争がかきたい」という浩三の言葉に著者はどう応えたのか。最後まで読んで確かめてください。
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「いつでも言葉が人を縛る。いまのあなたが、そうされているみたいに。でも、詩は言葉の理を超えたところで、ときに心を正してくれる。旅にもまた、言葉がない」
――――
単行本p.245
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