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『我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの』(藤崎慎吾) [読書(サイエンス)]

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 豊田さんの研究室では、ケイ素と酸素の化合物からなる流動体の研究も行われている。それは今のところシリコン樹脂のような素材の開発が主目的なのだが、「もう少しそういう話が発展してきたら、いずれケイ素系の細胞もどきをつくっていくということも、今後のターゲットかなと思っています」と語っていた。
 合成生物学者はエイリアンさえ、つくる気満々なのだ。いや、今はむしろ40億年前の祖先よりは、まったく別の「ありうる」生命をつくりだし、宇宙のどこでも通用する普遍的な生物学を切り開きたいという研究者が増えている気もする。「ファースト・コンタクト」は案外、研究室で起きるのかもしれない。
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新書版p.262


 生命を人工的に作りだそうとする学問、合成生物学。それは生命の起源に迫るだけでなく、地球上には存在しないが理論的にはありうる拡張DNAや、元素レベルから異質なオルタナ生命体を創造することで、「宇宙普遍生物学」を切り開くことすら視野に入れている。生命起源論争から合成生物学の最先端までを取材した興奮のサイエンスノンフィクション。新書版(講談社)出版は2019年8月、Kindle版配信は2019年8月です。


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 合成生物学とは、平たく言えばその名の通り、生物そのもの、あるいは生物の部品や機能を、人工的につくりだそうとする学問だ。おそらく日本では、まだ耳に馴染まない人が多いだろう。だが世界的には注目度ナンバーワンともいえる新分野で、近年、急速に発展している。
 それは多くの科学的な知見をもたらすばかりでなく、新しくつくりだした生物(の部品や機能)が、医学やさまざまな産業に応用できると期待されているからだ。
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新書版p.97


 生命の起源を明らかにする。キッチンで人工細胞を創る。核酸塩基を増やした拡張DNAを使って生命2.0を誕生させる。合成生物学の研究者たちのノリを思う存分に取材。合成生物学についての知識を得るというよりも、この新分野の沸き立つようなマッドマックスを書きつけた興奮の一冊です。あちこちに散りばめられているすてき言葉を拾い集めてみると、こんな感じ。


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スーパーで買った材料だけで、自己複製のできる細胞をつくる。
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死ぬような細胞は人工ではない。
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生命は対称性の破れを利用して生きている。
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超弦理論の11次元みたいなところで非対称性を持っている一群がいるかもしれません。
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「ファースト・コンタクト」は案外、研究室で起きるのかもしれない。
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[目次]

第一章 「起源」の不思議
第二章 「生命の起源」を探す 
第三章 「生命の起源」をつくる
第四章 「生命の終わり」をつくる
第五章 「第二の生命」をつくる




第一章 「起源」の不思議
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 問題はそれを不連続な「無から有」ととらえるか、あるいは連続している中での「複雑さの飛躍的増加」ととらえるか、なのだろう。また誕生した場所についても「点」でとらえるか「面」でとらえるか、といった議論はありうる。つまりは「起源」の時間的、空間的な広がりを、どうイメージするかが結構、重要ではないのだろうか。
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新書版p.47


 生命の起源とは何か。というより、そもそも何かの「起源」をどうとらえればいいのか。生命はどの段階から生命といえるのか。起源論争の準備として、まずは「生命1.0」や「生命0.5」のような用語と概念を明らかにしておきます。


第二章 「生命の起源」を探す 
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 さて小林さんは「生命は海底の熱水噴出域で誕生した」という、これまでの主流派ともいえる立場をとっている。一方の山岸さんは「生命は陸上の温泉地帯で誕生した」と主張している。ちなみに小林さんは化学者、山岸さんは生物学者だ。
 べつに仲が悪いわけではなく共同で研究も行っているが、個別にお話をうかがってみると、ときどきお互いを辛めに批判する言葉が出てきて面白い。
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新書版p.63


 生命の誕生は深海か、温泉か、それとも地球外か。最初に出来たのはRNAか、タンパク質か、脂質か、それとも代謝機能か。様々な生命起源仮説について概説し、論争の様子を紹介します。


第三章 「生命の起源」をつくる
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 ご存じの読者も多いと思うが、「クックパッド」は人気の料理レシピ投稿サイトである。(中略)2016年の夏ごろ、このサイトに奇妙な「レシピ」が一時的に掲載された。「簡単♪人工細胞」というタイトルで、説明にはこう書かれている。
「試験管内タンパク合成系PURE systemを巨大膜小胞の中に閉じ込めて、遺伝子からタンパク質を合成してみました」
(中略)
 投稿者に届いた運営会社からのメッセージには、「お料理のレシピではないものを、レシピとして掲載することはご遠慮ください」と書かれていた。
 どうせなら、できた人工細胞を調理して食べる方法まで示してあれば、よかったのかもしれない。しかし、そういう問題でもない気はする。
(中略)
 生命は案外、簡単にできてしまうのかもしれない。少し手先の器用な人だったら、明日にでも冷蔵庫やコンロの前で「神様」になってしまったりするかもしれない。「キッチンで人工細胞」は、そんな、ちょっとゾクッとするような気分を味わえる実験なのである。
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新書版p.94、95、108


 キッチンでも簡単に作れてしまう人工細胞の実験から始まって、生命が誕生するまでのシナリオがどう考えられているのかを概説します。


第四章 「生命の終わり」をつくる
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 通常の細胞は細胞膜だけに囲まれているが、ハイブリッドセルの場合は、一部がガラスの壁になっている。ダジャレっぽいが「細胞のサイボーグ」と言ってもいいのかもしれない。
 このハイブリッドセルで、いったい何がしたいのか? すなわちフランケンシュタイン実験である。
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新書版p.187


 大腸菌を破壊してから、細胞の中身だけをマイクロガラス容器の中で再構成して生きた大腸菌に戻す「フランケンシュタイン実験」。そもそも生命にとっての「死」とは何なのか。その意味を文化面も含めて考えてゆきます。


第五章 「第二の生命」をつくる
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「生命1.0」は4種類の核酸塩基を使い、そのうちの3種類の配列で遺伝暗号をつくり、20種類のアミノ酸だけを利用している。この「4」「3」「20」という数字にどうして落ち着いたのか、あらためて考えてみると不思議だ。これが必然だったのか、偶然だったのかは、これらの数字を変えた生命が誕生するか(つくりだせるか)で、わかってくるかもしれない。すでに述べた通り、どうやら今の情勢では誕生してしまいそうな気配だ。
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新書版p.268


 DNAの構成塩基数を人為的に増やした生命、エネルギー源としてATP以外を使う生命、シリコン元素を主体とする生命など、私たちが知っている「生命1.0」とは、基本構造から違う「生命2.0」の合成に挑む研究者たち。

 さらには素粒子論における対称性の破れと生命の深い関係、高次元レベルでの対称性のやぶれを利用する生命などの話題。たまたま地球に存在している生命だけでなく、あらゆる可能性を含んだ「生命」を包括的に扱う普遍生物学に向けた動きを探ります。



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