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『NNNからの使者 猫は後悔しない』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

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「ねえ、ミケさん、できれば死ぬ時まで後悔したくないよね?
「そうだね。でも、話を聞いてると、真澄さんはちょっとだけ猫に似てるね」
 わがままで気まぐれで、自分が一番愛されていると思い、言いたいことを悪気なく言ってしまう。嘘も言えない。
 そう言われれば、猫に似ているかもしれない。
「でも、猫は後悔しないよ」
「うん、しないね」
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文庫版p.124


 猫、飼いたいけど、色々と事情もあって……。悩みを察知されるや、たちまち舞い込んでくる猫との良縁。そんな猫飼いあるある現象の背後では、NNNなる謎の猫組織が暗躍しているらしい。ミケさんと呼ばれている不思議な三毛猫(雄)がもたらす「人と猫との出会い」を描く『NNNからの使者』シリーズ、第四弾。独りぼっちで寂しさと後悔に押しつぶされそうになっていた女性が猫との出会いによって救われる長編です。文庫版(角川春樹事務所)出版は2019年10月。


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 夜、アパートでテレビなど見ながら過ごしていると、たまらなく悲しく寂しくなってくる。人より猫を選ぶなんて、どうかしていたのかもしれない。このまま一人で、誰とも触れ合わないまま、ただ生きてそして死ぬのだろうか。
 知らぬ間に涙が出ていた。(中略)テーブルに突っ伏して、真澄は泣いた。緊張や後悔、寂しさやストレス――何一ついいことがない。何がいけなかったんだろう。何をすれば、いいことがあるんだろう。
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文庫版p.39


 家族から離縁され独りぼっちになってしまった女性、真澄。その寂しさにつけ込んでくる男と、猫のミケさん。ミケさんの強力な押しに負けて猫を選んだことで、彼女の人生は大きく変わってゆきます。タイトルは、人はくよくよ後悔するけど猫は後悔しない、という意味の他に、一緒に住む相手として猫を選んで後悔することはない、という意味もあるのでしょう。


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 でもミドリは、そういうことより、彼女の雰囲気が気になった。ミケさんが言ったとおり、本当に「寂しそうな人」だった。そしてなぜか「自分に似ている」と思った。
 彼女が「寂しそうな人」であるなら、ミドリは「あきらめている猫」だ。(中略)その「悲しみ」も「あきらめ」も、「疲れ」も「寂しさ」も、とてもよく似ている。
 だから、自分とあの人は、似ていると感じてしまったのだ。
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文庫版p.72


 寂しい人と、幸福じゃない猫。一緒に暮らすうちに、どこか似ているふたりの距離は次第に近づいてゆきます。


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「……かわいい」
 と思わず口走る。そう言った自分にハッとする。あれ、猫を飼うのも悪くない? 最近、泣いたり、寂しいと思った時にはミドリを触るようにしている。気持ちが落ち着く。彼女もおとなしく触らせてくれる。
 話も黙って聞いてくれる。当たり前だけど。いろいろなことをしゃべっても誰にもバレないし。昔は「内緒ね」と言われたこともしゃべってしまって、よく怒られた。ミドリが相手なら、その心配もない。
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文庫版p.54


 どんな話をしても、クソリプもクソバイスもマウンティングもしないで、黙って聞いてくれる、というか基本無関心。この一点だけでも猫と暮らすのはお勧め。


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 猫に対しては「愛されていない」という不安感がないのだ。ミドリがこっちを愛していなくても全然気にならないのは、それ以上に真澄が彼女を愛しているから。猫を飼って、初めて自分と同じくらい、むしろ自分以上に愛する存在を得たのだ。
 その気持ちが、家族への申し訳なさにつながっていく。自分がちゃんと家族を愛していたら、人生はガラリと変わっていただろう。
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文庫版p.148


 見返りを求めず、ひたすら猫を愛し大切にすることで、人は苦しみから救われるのです。

 自分を見つめなおし、次第に変わってゆく真澄。猫らしくドライな態度を崩さないまま飼い主のことを気にかけるミドリ。しかし、そんなふたりに、大きな試練がやってくるのでした……。


 ちなみに、NNNシリーズ既刊はこちら。すべての作品は独立していますので、どこから読んでも大丈夫です。


  2017年10月16日の日記
  『NNNからの使者 猫だけが知っている』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-10-16

  2018年04月18日の日記
  『NNNからの使者 あなたの猫はどこから?』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-04-18

  2018年10月16日の日記
  『NNNからの使者 毛皮を着替えて』
  https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-10-16


 本書には泣かせ要素も売れ要素も猫愛も大盛りなので、どんどん売れてほしい。著者のブログには「NNNシリーズの「特別編」ということで、おそらくこれで最後になるはずです」と書かれていますが、本書が起爆剤となって既刊も売れ始め、当然のようにシリーズ継続となり、いつしか「ぶたぶた」シリーズに並ぶ二大看板に成長する、といいなーと思います。気になった方は、ぜひ買って下さい。



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