SSブログ

『煮汁』(戸田響子) [読書(小説・詩)]

――――
クレーンがあんなに高いとこにある罰せられる日が来るのでしょうか
――――
レーズンパンのレーズンすべてほじりだしおまえをただのパンにしてやる
――――
炊飯器で虹を作るという動画クリックしてもつながらなかった
――――
蚊柱が移動してゆく盛り塩をしてある家の電話が鳴ってる
――――
連写した見たこともない爬虫類SNSにはあげずにおいた
――――
いつもと同じ電車に乗ったはずなのにいくつも通り過ぎる無人駅
――――


 想像力の猛威をまざまざと見せつける歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2019年4月、Kindle版配信は2019年8月です。


 まずは、私的季節感。


――――
春だからぬれていこうじゃないですかフルーツ牛乳のふたをはね上げ
――――
夜道にてテレビの音がはっきりと聞こえてきたから夏が始まる
――――
終電は行ってしまった見上げれば月のまわりの淡い虹色
――――
標高五十から五十一メートルを行き来するスクワットの夜外は粉雪
――――


 続いて、食品に対する謎のオブセッション。


――――
いけないと思うほどつい食パンの断面に指をしずめてしまう
――――
レーズンパンのレーズンすべてほじりだしおまえをただのパンにしてやる
――――
ひとつずつ豆だいふくの豆だけを手術みたいに取り外してく
――――
思い出させてあげようじゃない次々と粉砕してゆくルマンドのくず
――――
くつくつとすべてを肯定してまわる鳩のようになり豆を食べたい
――――
賞味期限の近いものから順番に魚肉ソーセージ踊りはじめる
――――


 なにげない日常風景の奇妙さ。


――――
思い通りにならないようだと思ったが一応三分ぐらいはごねる
――――
いつも同じ時間にひとりで怒鳴ってるおじさんがいるバスターミナル
――――
街灯が灯る瞬間いくつもの影が貼り付きわたしを取り巻く
――――
じじ、じじと裸電球の残像が夢に出てくるあの日の夜市
――――
エンジェルを止めてくださいエンジンの見間違いだった地下駐車場
――――
どこかから水が漏れてる遊歩道遠くかすかに水音がする
――――
テラスから「ぃよっ」と母の声が降り雑巾は庭のバケツに入る
――――
リカちゃんで遊ぶ子らの声「ふりん」「てろ」「たなかさんちのじてんしゃがじゃま」
――――



 想像力の猛威。


――――
クレーンがあんなに高いとこにある罰せられる日が来るのでしょうか
――――
植え込みにピエロのカツラ落ちていて夕方見たらなくなっていた
――――
「ここの地下ディスコだったの」先輩がエレベーターの中で突然
――――
まさよしが多いんだよと絶叫し面接官は飛び出して行く
――――
なんだそういうドッキリかよと呟いた核シェルターからはい出た朝に
――――
人間の記憶はあいまいリカちゃんのお尻はきちんと割れてましたか
――――
やめろやめろーと月に向かって叫んでる男の手にはアスパラガスが
――――
炊飯器で虹を作るという動画クリックしてもつながらなかった
――――
ガスタンクが転がってくるのが怖いやることのない日曜のベランダ
――――
エレベーターの隙間の闇が見あげててまたぎ越すとき何かきこえた
――――
自販機の取り出し口から手が伸びて手をつかまれる気がしてならない
――――


 オカルト体験のイメージ。


――――
蚊柱が移動してゆく盛り塩をしてある家の電話が鳴ってる
――――
塀越しによくしゃべってた隣人の腰から下が人間じゃない
――――
この写真変じゃないです? ほらここの人の後ろに対戦車ミサイル
――――
エサが欲しいわけではなくて鯉たちの口の動きが送る警告
――――
連写した見たこともない爬虫類SNSにはあげずにおいた
――――
空気のように扱われてきたわけを知る自分の名がある墓石の前で
――――
薬屋の角から五軒目の家の庭からすごい怖い花出てる
――――
あっちだよ祭囃子に誘われて消えた彼女は今日も戻らず
――――
いつもと同じ電車に乗ったはずなのにいくつも通り過ぎる無人駅
――――


 もしかしたら同一人物かも知れない誰かの人物描写。


――――
どうぶつの形をしているビスケット頭から食べるような人なの
――――
さっきからずっとストローの袋をもんでもしかしてそれ鳥になるの?
――――
クリップをクリップとして使えない針金に伸ばす残虐なやつ
――――
携帯に「典型的なクズです」と言い雑踏に消えゆく男
――――
着信拒否をされている気がするんだと何度か言って帰っていった
――――
後入れのスープも全部入れちゃってよく読んでって言っても聞かない
――――
同じ誤字で君だとわかる昔から点が足らないと言ってるじゃない
――――



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『とてつもない失敗の世界史』(トム・フィリップス:著、禰冝田亜希:翻訳) [読書(教養)]

――――
 世界で起こっている最近の出来事を見聞きして、あなたの個人的な意見がどうであるか、あなたの政治的な立場がどうであるかにかかわらず、こうぼやいたことがあるのではないだろうか。「なんてこった。どうして人間はこうなんだ?」
 そんなとき、本書はせめてもの慰めになってくれる。「大丈夫だよ。私たちはいつだって、こうだったじゃないか。今もまだ同じところにいるというだけだよ!」と。
――――
単行本p.9


 人類の歴史は悲惨で間抜けな大失敗に満ちている。私たちの脳は致命的な欠点を抱えているし、環境保護も統治も戦争も外交も何もかも壊滅的に下手で、科学技術の発展は失敗を地球規模にまで拡大させただけだった。木から落ちて死んだルーシーからアメリカを再び偉大にするリーダーを選出した米国民まで、多くの人びとがやらかしてきた大失敗の歴史について語る一冊。単行本(河出書房新社)出版は2019年6月、Kindle版配信は2019年7月です。


――――
 人類のこれまでの出来を率直に評価すると、あなたを目の敵にしている上司がくだす無慈悲な査定と同程度だ。私たちはありもしないパターンを想像してしまうし、仲間とのやりとりは心もとなくて、コミュニケーション能力はときに欠如している。したがって、こんなことを変えたらあのことも変わってきて、さらに悪いことに陥り、しまいには、ああやめてくれ、こんなことになっちまった、どうやって止めたらいいかわからない……となると、事前に気づけなかった残念な歴史がある。
(中略)
 人間の脳はこんなに優れているにもかかわらず、極端に変てこで最悪のときに果てしなくおかしなことをしでかしやすい。毎度のように恐ろしい決断を重ね、ばかげたことを信じ、目の前にある証拠から目をそむけ、まったくもってナンセンスな計画を行きあたりばったりに思いつく。(中略)国政の何もかもが最悪の状況になっているのが日を追うごとに明らかになっているときにでも、国を代表する大臣たちが「交渉はまことにうまくいっている」だとか、「前向きな進展があった」だとか、かたくなに言い張る。もう選択はなされたのだから、選択は正しかったに決まっているではないか、なぜなら選択をしたからだ、というわけだ。
――――
単行本p.9、21、29




目次

第1章 人類の脳はあんぽんたんにできている

第2章 やみくもに環境を変えたつけ
最後の一本まで木を伐採したイースター島

第3章 気やすく生物を移動させたしっぺ返し
鳥をみくびってはならない——中国からスズメを駆逐した毛沢東
鳥をみくびってはならない——米国にムクドリを放ったニューヨーカー

第4章 統治に向いていなかった専制君主たち
兄弟を幽閉するオスマン帝国の黄金の鳥かご

第5章 誰が誰を、誰をどう選ぶかの民主主義
初めからばかにされていたヒトラー

第6章 人類の戦争好きは下手の横好き
おざなりだったケネディーのキューバ侵攻

第7章 残酷な植民地政策をヘマばかり
スコットランドを破綻させた投資家、パターソン

第8章 外交の決断が国の存亡を決める
チンギス・カンに消された大国ホラズム

第9章 テクノロジーは人類を救うのか
二度も地球を汚染した発明家、トマス・ミジリー

第10章 人類が失敗を予測できなかった歴史




第1章 人類の脳はあんぽんたんにできている
――――
 私たちの独特な思考のしかたは、どんなに素晴らしい方法で世界を思うように変えることを可能にしてきたのだろう? それでいて、それがどんなに最悪かがわかりきっているのに、可能なかぎり確実に最悪の選択を絶えまなくできるのだろう? つまり、私たちは月に人を送ることができるほど賢いのに、どうしてあんなメッセージをもう別れたはずの元カノに送ることができるのか。煎じ詰めれば、その答えは私たちの脳の進化のしかたにある。
――――
単行本p.21


 まず、最悪の大失敗をしでかす理由について、私たちの脳が持っている様々なバイアスとその進化的由来を解説します。


第2章 やみくもに環境を変えたつけ
――――
 ポリネシア人は、私たちよりまぬけだったわけではない。野蛮でもなかったし、ましてや状況に気づいていなかったわけでもなかった。もしあなたが、いつ何どき環境災害に見舞われても不思議ではない社会が、みすみす問題をやりすごし、そもそもの問題の元となることをし続けるのはどうかしていると思われるなら……あ、ちょっとあなた、少しまわりを見まわしていただきたい。
――――
単行本p.57


 アメリカ中央平原のダストボウル、干上がったアラル海、カヤホガ川の炎上、イースター島の伐採。環境破壊により強烈なしっぺ返しを受けた大失敗の歴史について語ります。


第3章 気やすく生物を移動させたしっぺ返し
――――
 1890年のある寒い初春の日にシーフェリンがしでかしたことは、結果として、病気をばらまき、毎年何百万ドルもの値うちがある作物を台なしにし、飛行機事故で62人もが命を落とす羽目になった。これはどこかの誰かが、ただ自分がどんなに熱烈なシェイクスピアのファンであるかを見せつけようとした報いとしては、あまりにも損害が大きい。
――――
単行本p.74


 オーストラリアのウサギ大繁殖、ヴィクトリア湖のナイルパーチ災害、ダストボウル問題を解決するために導入されたクズ、スズメを駆逐したことで起きた中国の大飢餓、ムクドリの大繁殖。軽はずみな外来種導入で生態系をずたずたにしてしまった大失敗の歴史について語ります。


第4章 統治に向いていなかった専制君主たち
――――
 独裁者がどこまで愚行を犯せるかという好例を見てみたいなら、二度あることは三度あり、悪いことは三度続くことを地でいくオスマン帝国の時代に勝るものはない。(中略)この時期のオスマン帝国の歴史は、人を人とも思わない血塗られた白昼夢のようで、本当に起こった出来事とは信じがたい。
――――
単行本p.96、122


 永遠の命にとりつかれた始皇帝、シンデレラ城で国を埋め尽くそうとしたルートヴィヒ二世、窃盗症のエジプト王ファルーク、思いつきで動いたトルクメニスタンのサパルムラト・ニヤゾフ、そしてオスマン帝国の阿鼻叫喚。独裁者たちがしでかした大失敗の歴史について語ります。


第5章 誰が誰を、誰をどう選ぶかの民主主義
――――
 何かおぞましいことが起こると、私たちはその背後に統制の取れたインテリジェンスがあったに違いないと想像しがちである。そう思うのも無理はない。天才的な悪人が裏で糸を引いているのでなければ、そこまでひどい事態に陥るはずはないだろうと考えるからだ。このことのまずい面は、天才的な悪人が身のまわりにいなければ、〈何も問題はない〉から安心できる、と思いがちなことである。
 この考えが大はずれだということは歴史からよくわかる。これこそ私たちが何度も繰り返してきた過ちである。
――――
単行本p.122


 国民の投票で選ばれた犬、足パウダー、そしてヒトラー。大失敗をしでかす能力に関する限り専制君主制度に勝るとも劣らないことを証明してきた民主主義の歴史について語ります。


第6章 人類の戦争好きは下手の横好き
――――
 アーサー・シュレジンジャーはのちにこう述懐している。作戦会議は「すでにできあがったコンセンサスのある奇妙な場の空気」の中で行われ、内心、計画が愚かしいと思っていても、会議中は押し黙っていた。「遠慮がちにいくつか質問をする以上のことをできなかった私の落ち度を言葉にするなら、この愚かな計画に警鐘を鳴らそうとする意欲が、会議の場の空気のせいで削がれてしまったと言うことでしか説明できない」と書いた。シュレジンジャーの肩を持つわけではないが、私たちは皆そうした場を経験している。
――――
単行本p.144


 英国軍が戦わずして負けたカディスの戦い、オーストリア軍がそもそも敵すらいなかったのに大敗北を喫したカランセベシの戦い、まぬけな自滅で大敗したピーターズバーグの戦い、戦争していることにすら気づかなかったグアム、ナポレオンとヒトラーがしでかした同じ間違い、第二次世界大戦で同士討ちをしでかした米軍、トイレ問題で沈没したドイツ軍の潜水艦、そしてベトナム戦争にキューバ侵攻。愚行にあふれている戦史について語ります。


第7章 残酷な植民地政策をヘマばかり
――――
 口を酸っぱくして言うが、植民地支配は悪かった。実に悪いことだった。本書のこの部分はあまり愉快でなくて申し訳ない。
 本来、このことは言うまでもない大前提であるべきだ。こんなことをわざわざ言わなければならないのは、私たちは現在でも、植民地主義は良いものだったという強烈な反動のただ中にいるからである。(中略)人類は実際に起こった事実にもとづいて過去を考えようとすべきで、漠然たる郷愁の想いから、帝国がどんなに良かったかという短絡的でわかりやすい物語にすべきではない。
――――
単行本p.157、159


 探検家から征服者、統治者まで、ありとあらゆる人びとが悲惨で壊滅的な大失敗を重ねてきた植民地政策。そもそも最悪でありながら、なお愚行と蛮行の底を突き抜けようとし続けた植民地支配の歴史を語ります。


第8章 外交の決断が国の存亡を決める
――――
 ドイツは「敵の敵は友だ」という論理を鵜呑みにするという古い罠にはまった。これはつねに間違いだとは限らないが、友情の賞味期限はたいてい驚くほどに短い。実際に至上最悪の無数の決断の背後には、「敵の敵だ」という思い込みが潜んでいる。このことから、何世紀もの極端に混乱したヨーロッパの歴史を説き明かすことができる。
 この現象の別名は「戦後のアメリカの外交政策」と言ってもいい。
――――
単行本p.197


 残念な、あるいはまったく意味不明な、外交上の決断により滅びた国の数々。外交における愚行の歴史について語ります。


第9章 テクノロジーは人類を救うのか
――――
 科学、技術、産業の時代の夜明けは、これまで私たちの祖先が夢にも見なかった可能性を人類にもたらした。あいにく、これまで想像もしなかった規模で失敗をする機会ももたらした。
――――
単行本p.214


 ヤード・ポンド法のおかげで火星に激突した探査機、ポリウォーターやN線の大発見、優生学やルイセンコ学説の猛威、有鉛ガソリンとフロンの両方を発明して地球を徹底的に汚染した発明家。科学技術の発展が大失敗を防ぐのではなく、その規模をどんどん拡大していった歴史について語ります。


第10章 人類が失敗を予測できなかった歴史
――――
 私たちはたいして変わることなく、同じ行いを続けるのだろう。他人に責任をなすりつけ、空想世界を入念に築き上げさえすれば、自分のしたことに向き合わなくて済む。経済危機のあとでポピュリストの統治者たちが台頭し、金の争奪戦が繰り広げられる。集団思考に呑まれ、一過性のブームに浮かれ、確証バイアスに屈する。そしてまたもや性懲りもなく、この計画は抜かりなく、うまくいかないはずがないと心に言い聞かせるのだ。
――――
単行本p.264


 過去の過ちの再現速度が輪をかけて速まっている現代。私たちは過去から学ぶことはなく、これからも大失敗は続くだろう。それとも、今度こそ私たちは変わり、賢明になり、同じ大失敗を繰り返すことのない新しい時代を迎えたのかも知れません。現アメリカ合衆国大統領の、自信に満ちた笑顔の写真とともに、本書は幕を閉じます。



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『結局,ウナギは食べていいのか問題』(海部健三) [読書(教養)]

――――
 ニホンウナギが絶滅しない可能性はあります。しかし、だからと言って現状を放置することはリスクの高い博奕にすぎず、そのような博奕を受け入れる社会は、健全とは言えません。ある程度の不確実性はあっても、絶滅リスクを回避するために、予防原則に従って「ニホンウナギは絶滅するかもしれない」と考え、適切な対応をとる必要があります。
――――
単行本p.16


 ウナギは絶滅危惧種。いやいや漁獲高が減っているだけでウナギが減っているという証拠はない。食べるなんてとんでもない。いやむしろ食べて応援すべき。密漁を取り締まれば、稚魚を川に放流すれば、石倉カゴを設置すれば、完全養殖が実現すれば、それで解決する問題でしょう。いやいや多国間の取り決めやワシントン条約こそが大切。何となくモヤモヤが晴れないウナギ問題に関して、現時点で可能な限りの科学的知見と社会状況解説をQ&A方式で分かりやすくまとめた一冊。単行本(岩波書店)出版は2019年7月です。


――――
 ウナギの問題は、小さく見れば多様な問題の1つにすぎません。しかし、さまざまな要素を内包しているうえ、日本では社会の注目を集めるため、河川環境の問題や生物資源の持続的利用に関する問題、密漁や密売の問題を解決に向かわせるシンボルになりえます。ウナギの問題を解決することが、同じような問題を抱えている別の魚種、別の生物資源を守ることにつながるかもしれないのです。
――――
単行本p.vi




[目次]

1.ウナギは絶滅するのか

 ・ウナギは絶滅危惧種なのですか?
 ・ウナギはどの程度減っているのですか?
 ・なぜウナギは減ったのでしょうか?
 ・ウナギは数が多いから絶滅しない、という話を聞きましたが……
 ・結局のところ、ウナギは絶滅しますか?

2.土用の丑の日とウナギーーウナギを食べるということ

 ・なぜ土用の丑の日にウナギを食べるのですか?
 ・我々は、どのくらいウナギを食べているのでしょうか?
 ・ウナギを将来もずっと食べ続けることは不可能なのですか?
 ・安いウナギを食べるのは,よくないことですか?
 ・ウナギの代わりにナマズを食べればよいのでしょうか?
 ・結局のところ、土用の丑の日にウナギを食べてはいけないのですか?

3.ウナギと違法行為ーー密漁・密売・密輸

 ・法律に違反したウナギが売られている、って本当ですか?
 ・なぜ違法行為が行われるのですか?
 ・密漁や密売は暴力団がやっているのですか?
 ・シラスウナギはなぜ密輸されているのですか?
 ・法律に違反することと、ウナギの減少に関係はありますか?
 ・ウナギをめぐる違法行為は根絶できますか?

4.完全養殖ですべては解決するのか

 ・完全養殖とはどんな技術ですか?
 ・完全養殖が実用化されれば、天然のシラスウナギを捕らずにすみますか?
 ・完全養殖によって、どんな問題が解決されるのですか?

5.ウナギがすくすく育つ環境とは

 ・ウナギは川に戻ってくるのですか?
 ・ウナギが川で成長するにあたって、最も大きな問題は何ですか?
 ・ウナギを増やすには、「石倉カゴ」がよいのですか?
 ・どうすればウナギの住む環境を守れますか?

6.放流すればウナギが増えるのか

 ・なぜウナギを放流するのですか?
 ・放流すればウナギは増えますか?
 ・子供たちがウナギを放流することで、環境学習の効果が期待できますか?
 ・結局、ウナギの放流は行うべきですか?

7.ワシントン条約はウナギを守れるか

 ・ワシントン条約とは、どんな条約ですか?
 ・ニホンウナギの取引はワシントン条約で規制されるのですか?
 ・ワシントン条約でウナギを守ることはできますか?

8.消費者にできること

 ・行政は、ウナギの問題にどう対応していますか?
 ・政治は、ウナギの問題にどう対応していますか?
 ・消費者にできるのはどんなことですか?
 ・どんなウナギを選べばいいですか?




1.ウナギは絶滅するのか
――――
 リョコウバトの絶滅でも明らかなように、個体数が多いから絶滅しないとは言い切れません。むしろ個体数の多い生き物の場合は、「個体数が多い」状況が維持されなければ生存できない、という可能性すら考えられます。個体数の減少がある限界を超えたとき、一気に崩壊して絶滅に至る可能性があるのです。(中略)現在のところ、近い将来ニホンウナギがこの限界(ポイント・オブ・ノーリターン)を超えるのか、判断に必要な情報はありません。しかし、その生態とアリー効果を考慮したとき、ニホンウナギがある瞬間から急激に減少し、崩壊へ向かうことは十分に想定できるのです。
――――
単行本p.14


 ウナギは本当に絶滅するのか。現状、科学的にどこまでのことが判明しているのかを詳しく解説します。


2.土用の丑の日とウナギーーウナギを食べるということ
――――
 適切な消費量の上限が設定されていれば、値段や食べる時期など、食べ方は個々人がそれぞれの価値観に基づいて決めるべきことです。(中略)消費に関する最大の問題は、適切な消費量の上限が設定されていないことにあります。現在必要とされていることは、早急に適切な消費量の上限を設定し、誰もが後ろめたさを感じることなくウナギを消費できる状況を作り出すことです。
――――
単行本p.28


 日本人の食生活とウナギの関係について詳しく考えてみます。


3.ウナギと違法行為ーー密漁・密売・密輸
――――
 2015年漁期に国内の養殖池に入ったシラスウナギ18.3トンのうち、約7割にあたる12.6トンが、密輸、密漁、無報告漁獲など違法行為を経ていると考えられます。これら違法行為を経たウナギと、そうでないウナギは、シラスウナギが流通される過程や養殖の過程で混じり合い、出荷される段階では業者でもほとんど判別できません。(中略)シラスウナギの密漁や密売は、ウナギに関連する産業界ではごく当たり前のことであり、シラスウナギをスムーズに入手させてくれる「必要悪」だと信じられています。
――――
単行本p.32、38


 密漁などウナギに関する犯罪とその背景、影響について詳しく見てゆきます。


4.完全養殖ですべては解決するのか
――――
 今後、技術の革新が進み、ニホンウナギ人工種苗の商業的利用が可能になったとしても、費用対効果の面で人工種苗が天然のシラスウナギを凌駕する日は、さらにずっと後になるか、永久にやって来ないかもしれません。また、もし人工種苗が商業化されても、現状では天然のシラスウナギの漁獲量を削減する効果は期待できません。
――――
単行本p.55


 ウナギの完全養殖の現状と今後の見通しをまとめます。


5.ウナギがすくすく育つ環境とは
――――
 ニホンウナギは海の産卵場に集まって産卵し、その子どもは東アジアの各地へ分散します。ニホンウナギのこのような性質は、この魚の管理や生息環境の回復を難しくします。(中略)ある地域でウナギを取り尽くしたとしても、次のシーズンには産卵場からシラスウナギが運ばれてきます。このため、ウナギは保全のための努力が報われにくいのです。
――――
単行本p.59


 ウナギが成長しやすい河川環境を守るにはどうすればいいのかを考えます。


6.放流すればウナギが増えるのか
――――
 「放流すれば魚が増える」という考え方は非常にシンプルで説得力があります。しかし、現実はそう単純ではなく、放流はむしろ有害である可能性も高いということが、近年の研究で明らかになってきました。それでも放流が盛んに行われる背景には、放流に関する情報、特に放流がもつ負の側面が、適切に伝達されていないことが挙げられます。
――――
単行本p.81


 川に放流することでウナギを増やそう、という素朴な考えにはどのような問題があるのかを見てゆきます。


7.ワシントン条約はウナギを守れるか
――――
 ワシントン条約に頼らなくとも、科学的な知見に基づいて、適切な消費量の上限を設定すれば、過剰な漁獲を抑制し、ニホンウナギを含むウナギの仲間を持続的に利用することは可能なはずです。しかし、第2章で説明したように、現在のニホンウナギの消費量の上限は過剰であり、消費を抑制する機能を果たしていません。また第3章で紹介したように、シラスウナギの漁獲と流通には違法行為が蔓延しています。現状では、適切な管理が行われているとは言えません。このような状況が継続すれば、強制力を伴った国際的な枠組みであるワシントン条約による規制を望む声は、必然的に大きくなるでしょう。
――――
単行本p.93


 ワシントン条約でウナギを守ることが出来るのか、それは望ましいことなのかをを考察します。


8.消費者にできること
――――
 水産行政に関わる人間がそろって極悪人で、業界からの賄賂を懐に入れ、ニホンウナギを絶滅に追い込むことに至上の喜びを感じているという状況は、どう考えてもありえません。私の知る限り、水産行政の方々は、可能であればウナギの持続的な利用を実現したい、と考えています。
(中略)
 水産行政の科学的知識の欠落は、科学的な知見に基づいて問題を解決しようという姿勢が欠けている、という根本的な問題も関係している可能性がありますが、おそらくは主に、人員というリソースの不足によるものでしょう。
――――
単行本p.97、98


 行政や政治がどれほどウナギ問題に取り組んでいないのか、そして消費者に出来ることは何かを探ります。



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『ZENOBIA ゼノビア』(モーテン・デュアー:著、ラース・ホーネマン:イラスト、荒木美弥子:翻訳) [読書(小説・詩)]

――――
おじさんは 目になみだを ためていた
だいじょうぶだよ おじさん
ゼノビアのこと 思い出して
ゼノビアができるなら わたしにもできるよ
きっとだいじょうぶ わたしはそう言った

自分の むねの中だけに
そう言った
――――


 ある夜、大量の難民を乗せたボートが転覆。海に投げ出された一人の少女は、海底に沈んでゆきながら、これまでのことを思い出す。シリアで、そして世界中で、いま起きていることを短い文章とイラストで描いた痛切なグラフィックノベル。単行本(サウザンブックス社)出版は2019年10月です。


 いわゆる難民問題について考えるとき、それを面倒な政治上の課題として扱う前に、まずは一人一人の人間について想像することから始めなければなりません。


 本書は、シリア内戦を逃れてきた一人の少女の運命を描くことで、似たような境遇にある沢山の人々に、それぞれの人生があり、生活があり、希望や切望があり、大切な人がいる、そんな当たり前だが簡単に無視されがちな事実を想像する力を与えてくれます。


――――
広くて なんにもない
ここなら だれにもみつからない
――――


 悲しい物語ですが、難民問題なんて自分には関係ない、と感じているなら、まずは読んでみることをお勧めします。他者に対する想像力を欠いたまま自分の人生を生きてゆくのは困難で危険でさえある時代を私たちは生きています。



タグ:絵本
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『「他者」の起源 ノーベル賞作家のハーバード連続講演録』(トニ・モリスン:著、森本あんり:解説、荒このみ:翻訳) [読書(随筆)]

――――
 人はいったいどこでどうやって人種差別主義者になってゆくのだろうか。それを問うたのが本書である。モリスンは、その問いに「他者化」というプロセスを示して答える。人がもって生まれた「種」としての自然な共感は、成長の過程でどこかに線を引かれて分化を始める。その線の向こう側に集められたのが「他者」で、その他者を合わせ鏡にして見えてくるものが「自己」である。このプロセスは、本書で取り上げられた作品が物語るように、明白な教化的意図をもって進められることもあれば、誰の意図ともつかぬしかたで狡猾に社会の制度や文化の秩序に組み込まれて進むこともある。
(中略)
 われわれはしばしば、他者の一部を切り取って自分の理解に囲い込み、それに餌を与えて飼い続ける。やがてそのイメージは手に負えないほど肥大化し、われわれを圧倒して脅かすようになる。
 それでも、人は知ることを求める。知って相手を支配したいと願うからである。それは、相手を処理されるべき受け身の対象物となし、かたや処理する側の自分を正統で普遍的な全能の動作主体として確立することである。
(中略)
 それゆえ本書の主題となっているのは、単にアメリカ国内に限定された人種や差別のことではない。それは、西洋と東洋、白人と有色人、キリスト教と他宗教、権力をもつ者ともたざる者といった多くのパターンに繰り返しあらわれる人間に共通の認識様式である。この認識様式は、合理的な思考や明晰な意識にのぼらない領野で神話的な構想へと転化し、他のすべての神話がそうであるように、われわれの見方や考え方を背後から支配する力をもつ。
――――
新書版p.6、9


 人種問題から見たアメリカ史、アメリカ文学、そして自作解説。2016年にトニ・モリスンがハーバード大学で行った連続講義を再構成した一冊。新書版(集英社)出版は2019年7月です。


 人種差別の構造を読み解き、アメリカ文学がそれとどのように関わってきたのかを分析してゆく内容ですが、トニ・モリスン自身による自作解説が多く含まれているのも見逃せません。特に、『パラダイス』と『ビラヴド』については著者の意図や狙いが詳しく語られており、読み直したくなる発見に満ちています。


 ちなみに、本書はトニ・モリスンの訃報が流れる数週間前に発行されており、追悼出版というわけではありませんが、どうしても彼女の「遺言」が届いたという気持ちになります。この機会にトニ・モリスンが残した作品を読み返す必要があると思います。この世界の今を生きてゆくしかない私たちは。


――――
 わたしたちが、なぜふたたびこのような状態にいるのかを理解するために、アメリカが生んだ最高の作家・思想家であるトニ・モリスンがいることは、なんと幸運であるか。モリスンの仕事は歴史にその根があり、ひどくグロテスクな歴史的事象からも美しさを引き出してくる。その美は幻想ではない。歴史がわたしたちを支配していると考える人びとのひとりに、モリスンが数えられているのも驚くにあたらない。『「他者」の起源』は、この理解を詳細に説いている。過去の呪縛からただちに解放される道が提示されなくとも、その呪縛がどうして起きたのかを把握するための、ありがたい手引きになっている。
――――
新書版p.26




[目次]

第1章 奴隷制度の「ロマンス化」
第2章 「よそ者」であること、「よそ者」になること
第3章 カラー・フェティッシュ(肌の色への病的執着)
第4章 「ブラックネス」の形状
第5章 「他者」を物語る
第6章 「よそ者」の故郷




第1章 奴隷制度の「ロマンス化」
――――
 どうやって奴隷制度が成立していたのか? 諸国家が奴隷制度の腐敗をうまく処理したのは、非情な権力の行使によって、あるいは奴隷制度の「ロマンス化」によってである。
――――
新書版p.34


 人間的な側面を強調し、それを大切にするふりさえして、奴隷制度を好ましいものとして描いてきたアメリカ文学。『アンクル・トムの小屋』を題材に、奴隷制度の実態とその「ロマンス化」について語ります。


第2章 「よそ者」であること、「よそ者」になること
――――
 奴隷が「異なる種」であることは、奴隷所有者が自分は正常だと確認するためにどうしても必要だった。人間に属する者と絶対的に「非・人間」である者とを区別せねばならぬ、という緊急の要請があまりにも強く、そのため権利を剥奪された者にではなく、かれらを創り出した者へ注意は向けられ、そこに光が当てられる。(中略)「よそ者」に共感するのが危険なのは、それによって自分自身が「よそ者」になりうるからである。自分の「人種化」した地位を失うことは、神聖で価値ある差異を失うことを意味する。
――――
新書版p.56


 「よそ者」を規定し、「非・人間」化すること。それを前提としたアイデンティティを持つこと。人種差別の底にあるメカニズムと、それを自作『マーシィ』『パラダイス』でどのように扱ったのかを語ります。


第3章 カラー・フェティッシュ(肌の色への病的執着)
――――
 わたしは肌の色ではなく、文化によって、黒人像を描き出すことに興味を持つようになった。「肌の色(カラー)」だけが忌み嫌うものである状況のとき、肌の色が偶発的で知りえないとき、あるいは意図的に隠している状況のとき、ごく注意深く書くことでもたらされる、ある種の自由と同様、それは「カラー・フェティッシュ(肌の色への病的執着)」を無視する、まれなる機会を与えてくれた。
――――
新書版p.75


 フォークナーやヘミングウェイを題材に、アメリカ文学におけるカラー主義、肌の色に対する病的な執着を分析し、自作『パラダイス』の有名な冒頭「かれらは最初に白人の娘を撃った。その他の者にはゆっくり時間をかけられる」に込められた狙いを語ります。


第4章 「ブラックネス」の形状
――――
 自分たちの純粋性の基準を強調した黒人町成立の理由は何か、そしてその成功とは何だったのか? 『パラダイス』では、「ブラックネス」の形状を改変したかった。
 黒の純粋性がより劣悪なもの、あるいは不純なものによって脅かされると、純粋性の条件はどうなるのか、町の人びとはどのように反応するのかたどってみようと思った。
――――
新書版p.90


 黒人だけが住む居住地の建設を題材に、「カラー」とは何なのかを追求し、さらに自作『パラダイス』の解説を提示します。


第5章 「他者」を物語る
――――
 物語は、統御された荒野を提供し、「他者」としての機会を、「他者」になる機会を提供する。「よそ者」になること。同情を抱きながら、明白に、また自己分析の危険を伴って。この反復において、作者であるわたしにとっての究極的な「他者」とは、取り憑く者であるその子、ビラヴドである。騒ぎ立てながら要求している、キスを求めて永久に騒ぎ立てながら要求している。
――――
新書版p.116


 わが子を殺した逃亡奴隷の実話を題材に、自作『ビラヴド』についての解説を提示します。


第6章 「よそ者」の故郷
――――
 それは心をかき乱す遭遇だが、世界規模で踏み込んで来る人びとのわたしたちを動揺させる圧力・圧迫にいかに対処すべきかを教えてくれるだろう。その圧力によってわたしたちは、自分たちの文化・言語に狂信的にしがみつくいっぽうで、他の文化・言語は退ける。時代の流行に沿ってわたしたちを鼻持ちならぬ悪の存在にする圧力。法的規制を設けさせ、追放し、強制的に順応させ、粛清し、亡霊やファンタジーでしかないものに忠誠を誓わせる圧力。何よりもこれらの圧力は、わたしたち自身のなかの「よそ者(外国人)」を否定し、あくまでも人類の共通性に抵抗させるようにわたしたちを仕向ける。
――――
新書版p.132


 文学にあらわれるアフリカへのまなざしを題材に、グローバリゼーションや大量難民によってわたしたちの意識がどのような影響を受けているのかを探ります。



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ: