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『UFOと文学 J.G.バラード『ヴィーナスの狩人』』(超常同人誌「UFO手帖3.0」掲載作品)を公開 [その他]

 馬場秀和アーカイブに、超常同人誌「UFO手帖3.0」(2018年11月刊行)に掲載された作品を追加しました。

  『UFOと文学 J.G.バラード『ヴィーナスの狩人』』
  http://www.aa.cyberhome.ne.jp/~babahide/bbarchive/TheVenusHunters.html


 ちなみに「UFO手帖3.0」の紹介はこちら。

  2018年11月15日の日記
  『UFO手帖 3.0』(Spファイル友の会)
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-11-15


 なお次号「UFO手帖4.0」は、2019年11月24日に開催される第二十九回文学フリマ東京にて頒布予定です。



タグ:同人誌
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『ビジュアルストーリー 世界の陰謀論』(マイケル・ロビンソン:著、ナショナルジオグラフィック:編、安納令奈:翻訳) [読書(オカルト)]

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 本書では、人々をいまも魅了してやまない有名な陰謀説や謎について、数多く取り上げる(中にはマイナーなものもある)。陰謀説の歴史は古く、何世紀も前から存在する。社会現象となった20世紀を経て21世紀の今なお、陰謀説は色褪せることなく人々の好奇心をかき立てている。
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単行本p.9


 ロズウェル、ケネディ暗殺、イルミナティ。写真などビジュアルを中心に、有名どころの陰謀論を広く浅く紹介してくれる一冊。単行本(日経ナショナルジオグラフィック社)出版は2019年6月です。


 80項目もの陰謀論が取り上げられています。陰謀論とはほとんど関係ない項目もかなり含まれており、とにかく陰謀論中心に人気のあるオカルトネタを無造作に大量に並べたという印象です。そういう意味で昔の子ども向けオカルト本のノリが感じられます。ちなみに邦題は「世界の陰謀論」となっていますが、取り上げられている話題は米国で知られているものばかりなので、あらぬ期待はしないように。


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 陰謀説の根底には、「さまざまな出来事はすべて誰かの思惑に操られている」という発想がある。陰謀論者に言わせれば、この世界に偶然起きた出来事などなく、表に出る情報はまやかしであり、裏ではすべてが陰謀でつながっている――だからこれは一種のパズルで、その謎は陰謀論者あるいは陰謀説ファンでなければ解けない、という。
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単行本p.6


 各項目についても表面的な紹介がごく短く書かれているだけなので、それぞれの陰謀論について背景や経緯などを知りたい読者にとっては不親切な本です。独特の視点や切り口があるわけでもなく、見た目でコリン・ウィルソン『超常現象の謎に挑む』みたいな本だと思って読むと失望します。


 本書のポイントは、とにかく大型本見開きでばばーっんと迫ってくる写真の迫力でしょう。あくまでビジュアルブックとして楽しむべき一冊です。米国で人気のある陰謀論の全体像を手っとり早く知りたいという方にもお勧め。


【目次】

1章 科学の陰謀

UFO
古代宇宙飛行士説
ロズウェル、そしてエリア51
ピラミッド
消えたソ連人宇宙飛行士たち
月面着陸
高エネルギー技術
地球温暖化と気候変動
HIV/エイズ
プラム島の秘密
SARSコロナウイルス
エボラウイルス
MKウルトラ計画
水道水へのフッ化物添付
優生学
ケムトレイル
フリーエネルギーとピークオイル
グローバル規模の大量監視
計画的旧式化
カウスピラシー
遺伝子組み換え作物(GMO)
砂糖にまつわる陰謀


2章 政治の陰謀

フリーメイソンとイルミナティ
古代レプティリアン(爬虫類人)・エリート説
新世界秩序説
ビルダーバーグ・グループ
スカル・アンド・ボーンズ
真珠湾攻撃
フィラデルフィア実験
湾岸戦争症候群
FEMA(米国連邦緊急事態管理局)
タイタニック号
巨大製薬会社(ビッグ・ファーマ)
9・11同時テロ攻撃
ロンドン同時爆破テロ
ロシア高層アパート連続爆破事件
パンアメリカン航空103便爆破事件
マレーシア航空370便
トランスワールド航空800便航空機事故
ブッシュ大統領とブレア首相、そして大量破壊兵器
バラク・オバマ
闇の国家


3章 歴史のミステリー

ストーンヘンジ
マヤ文明
ナスカの地上絵
ラスコー洞窟
アトランティス
失われたムー大陸
失われたレムリア大陸
ネス湖の怪物
ボドミンの野獣
イエティまたは怪人雪男
モスマン
テンプル騎士団
シオン賢者の議定書
反カトリック主義
ロンドンの大火
カトリック陰謀事件
ふたつのバビロン
イエスとマグダラのマリア
ファントム時間仮説
バーミューダ・トライアングル


4章 暗殺、行方不明、謀略

ロマノフ一族
JFK
ダイアナ妃
ヴワディスワフ・シコルスキ将軍
デイヴィッド・ケリー博士
アドルフ・ヒトラー
エルヴィス・プレスリー
ポール・マッカートニー
ウサマ・ビンラディン
ファラオの呪い
マリリン・モンロー
トゥパック・シャクール(“2パック”)
マイケル・ジャクソン
ルーカン卿
シャーガー
ウィリアム・シェイクスピア
切り裂きジャック



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『会いに行って――静流藤娘紀行(第三回)』(笙野頼子)(『群像』2019年9月号掲載) [読書(小説・詩)]

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 私小説とは自己だ。特権的自我を自らの言語能力で宮中から奪還し、陋屋に祭る、オオカミ神である(うちのは猫神)。
 師匠はけしてこの特権的自我が手に入るその特権階級の地位が欲しかったわけではなく、ただ志賀さんの書く夢の描写のような凄い文章に魅せられただけだ。
(中略)
 夢にも負けないほどソリッドな描法を装備した志賀直哉の文章に、若い頃から師匠はついていった、習練し正直に極めてから、違う様態の自我と向き合い、藍よりも青くなった。
 天皇も、戦争も、論理だった実利的な克服方法は、けして有効ではないと師匠は思っていたのか? それとも文学なんだから搦手から攻めるのが正しいと思っていたのだろうか。どっちにしろ剛直の師匠に逆張りはない。
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『群像』2019年9月号p.265、266


 シリーズ“笙野頼子を読む!”第127回。


「必ず自分であってけして自分ではない。しかし、自分の肉体、経験と分かちがたくしてなおかつ、自分さえ知らぬあるいはもう忘れてしまった自分。千の断片としての自分。」(『群像』2019年9月号p.266)
 群像新人賞に選んでくれた恩人であり、また師と仰ぐ「私小説」の書き手、藤枝静男。渾身の師匠説連載その第三回。


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 天皇という捕獲装置を挟んでケンカをした、志賀直哉、中野重治。
 それは所有に基づく特権的自我の個人主義=志賀直哉と無私を目指す国家対抗的な自我=中野重治とのあり方の違いである。
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『群像』2019年9月号p.244


 いよいよ『志賀直哉・天皇・中野重治』に入ってゆく連載第三回です。その前に、まずは前回(第二回)の予告を振り返っておきましょう。


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 次回も書くけれど、ここにまず書いておく。志賀は特権階級で天皇に親しく、既にそこに捕獲されてしまっているのである。なので制度と知り合いを分ける事が出来ない。一方中野は人間と制度をきちんと分けている。しかし分ける事によって、人間をその行為ではなく人間性によって判断するという、文学としてもっとも適切な行為を禁じられてしまったのである。これもまた政治に捕獲されてしまった。
 噫、平野も師匠も本多も好きな、大切な志賀さんと大好きな中野、それをなんという悲しい分断であろう。
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『群像』2019年7月号p.200


 今回(第三回)はこれを受けて、『志賀直哉・天皇・中野重治』に沿うかたちで志賀直哉と中野重治、そして師匠、それぞれを読み解いてゆきます。


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 どんな障壁があっても忖度せず迎合せず「正しい」事をする志賀。それは結局好きなことが出来て自分で判断が出来る、何の偏見もなく権力を批判出来る王者の特権、特権的自我。広大な土地や財産や高い地位を以て例えばヴィーガンポリコレセレブが貫く「当然の義務」その一方、……。
 平等をとく彼の主人公時任謙作、そんな彼に対し中野だけではない師匠だって、刷り込まれた特権意識については何度も言っている。師匠は時任イコール志賀の立場、中野は作者と本人が違うという立場だけど。
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『群像』2019年9月号p.246


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 そんな、捕獲もされず勝ち馬にも乗っていない中野の姿は自分の人間関係もすべて忘れ、公共のためになんでも批判する義務、という悲劇でしかない。批評機械中野、精一杯口悪く頑張っているよ、ねえ? 自分を殺してでも「公器」になっている。技術の快感で?
(中略)
 そして公共的憎悪の器に、天才的な罵倒を盛る事も出来る。でも、そんなのいつまでもずっとしていてはいけないよ。本人はいいけど、まねしてやってる人々、その無私はいつか最悪になるから。
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『群像』2019年9月号p.243


 天皇論争とは別筋ですが、中野重治による『暗夜行路』批判にからめるかたちで、評論家に対する作家としての苦言をストレートに書いた箇所も印象的です。


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 まあそういうわけで結果全体を通すと、結局こんなのいくら優れた批評機械だとて、私でさえ、「ふーんこれ批判なの? なんでー・べつにー」、と思うだけである。そもそも徹底批判っていらんよ特に邪魔でもないけどあればついつい気になって見るけれど、普通、時間の無駄だ、次を書くからね、そしてどんな偉くたって別に一次生産者は自分を支えて同行してくれる以外の評論家なんか気にしないから。無論こういう作品だ、ってすーっと構造や筆致を解説してあるものは普通に役に立つし、時には尊敬だ。そもそも丁寧に読んでくれているだけでもその読みは作者が有効に使える指針。
 でも自分がしてもいない事をいちいちあれもやれこれもやれて言われてもねえ、出来ないことやしたくないことを指導されたって、うるさい、というよりそれは作家にとってはゼロだ。妖怪阿霊喪夜礼、狐霊喪夜礼だ。例えば女権拡張運動(既に今のフェミニズムとは違う昔のもの)の横へ「忠義面」で来て「おい男性差別にも配慮しないとだめだろ」って「被害者面」もする寄生妖怪。
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『群像』2019年9月号p.251


 こう書いた直後に「この中野はもしかしたら、好きで好きでたまらない対象を好きになってはいかんと思うような禁欲性に支配されていたのではないかと私はつい思う」(『群像』2019年9月号p.252)と駄目押しするのもすごい。


 というわけで、『志賀直哉・天皇・中野重治』を読み解きながら、天皇、天皇制、師匠、自身、そして私小説について書く、師匠説にして私小説でもある連作は、次回に続きます。



タグ:笙野頼子
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『じゃじゃ馬にさせといて』(松田青子) [読書(随筆)]

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 書いた人のジェンダーバイアスや偏見を感じる場合はもちろん嫌だけど、「女性」という言葉が目印となって、自分が必要とする作品に出会えたケースもたくさんある。だから、このエッセイ集でもそうだけど、私も「女性」とわざわざ書くことが少なくない。私が「女性」と書く時は、ここに女性がつくった素晴らしい作品があって、きっとあなたも必要としていると思います!と熱い気持ちでいる私を思い浮かべてください。言うまでもないことですが、この「あなた」は女性だけに限りません。
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単行本p.10


 好きなものをみて、好きなものを着て、好きなものを食べて、好きなところに出かけてゆく。女が好きなように生きてなにが悪い。映画、ドラマ、フェミニズムの話題を中心に、自分が好きなものを世界に向かって全身全霊で叫ぶような痛快エッセイ集。単行本(新潮社)出版は2019年6月です。


 前作『ロマンティックあげない』に続く第三エッセイ集です。前作の最後のエッセイ「テイラー・スウィフト再び」のさらにその後が気になっていた読者のために、ちゃんと「テイラー・スウィフトの帰還」が本書には収録されています。

 ちなみに前作の紹介はこちら。


  2016年08月04日の日記
  『ロマンティックあげない』
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-08-04


 とにかく好きな映画やドラマを絶賛しまくるエッセイが多く、その手放し有頂天感が素敵。もちろん不快なジェンダーバイアスを感じるような作品は皆無なので、どなたでも安心してその好き好きオーヴァードライブに乗ることが出来ます。


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 出てくる人たちがみんな風変わりで、愛おしい。恋愛要素の展開もいちいちチャーミングで、私に世の作品の中からベストキス賞やベストウエディング賞を選ばせたら、このドラマがぶっちぎりで優勝だ。バレンタインデーの前日に女性同士で称え合うギャレンタインズデーや、自分を徹底的に甘やかす Treat Yo Self の日など、面白いところを般若心経のようにひたすら書き出したいくらいだ。
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単行本p.60


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 仕事を頑張っている女性のことを周囲の人間はどう思い、どうサポートするべきか、デ・ニーロが一から十まで体現してくれるという、フェミニズムの教科書みたいな作品でびっくりした。私にもこのデ・ニーロください。すべての職場にこのデ・ニーロを設置してください。この映画を見ないと社会に出られないシステムにしてください。
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単行本p.66


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 メカ担当のホルツマン役として、多くの観客のハートを撃ち抜いたケイトは全編にわたり発光していた。ホルツマンがスイスアーミーナイフを手渡しながら、「女は丸腰で外出すると危ない」というので、私もすぐに買いました。ホルツマンの言うことは絶対。
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単行本p.79


 「般若心経のようにひたすら書き出したい」「私にもこのデ・ニーロください」「ホルツマンの言うことは絶対」など、何か作品を絶賛するときに使える日本語表現を学ぶことが出来ます。


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 それ以来、当たり前のことだが、彼のSNS関係はすべて把握し、日々監視していた。アイフォンに世界時差時計のアプリを入れ、クリスがツアーで移動しても、彼は今何時の世界を生きているのかすぐさまわかるようにした。彼が誰かの写真にイイネ!をつけているのを見るだけで、胸の内に喜びが涌き上がった。特に、2014年の日本ツアーでだけクリスの相手役として白鳥役を踊ったマルセロ・ゴメスとSNS上で交流しているのを見ると、本当に幸せな気分になった。こんなに絶望的に美しいカップリングには、多分もう二度とお目にかかることはないだろう。ありがとう、クリスとゴメス。あなたたちのパ・ド・ドゥを胸に、私、生きる!
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単行本p.29


――――
 映画は熱量と緊張感が半端なく、見終わった後、またふらふらと次の回のチケットを買いそうになったくらいだった。なんとか気持ちを落ち着かせ、映画館の階段を下りながら、私は今、キリアン落ちしたな、とわかった。彼は渋さの権化のようなかっこよさだった。なぜ今まで素通りできていたのか、心底自分がわからなくなった。(中略)正直、どんなシーンもキリアンに見惚れているうちに過ぎてゆく。この原稿を書こうとして、鑑賞時の自分のメモを確認したのだが、「キリアンかっこいい」「話がどうなろうとキリアンかっこいい」みたいなことしか書いていなかった。(中略)最近は、自分が天に召される時は、死神がキリアンの姿をしていたらいいのにと考えている。
――――
単行本p.98、99、100


 「あなたたちのパ・ド・ドゥを胸に、私、生きる!」「死神がキリアンの姿をしていたらいいのに」など、誰かの尊さについて表現したいときに使える日本語表現を学ぶことが出来ます。


 愛や尊さだけでなく、女性差別や人種差別に関する怒りが書かれたエッセイも、もちろんあります。その怒りは「好きなものを愛でながら自由に生きたい」という凶暴なまでの情熱と一体化して、読者の胸を打つのです。

 どう生きるか、何をすべきか、何を誰を好きになるべきか、そんなことを他人にとやかく指示されたりジャッジされたりしたくない。好きなものを愛でて好きなように生きてゆきたい。そうする権利を奪われたくない。そう思っている人は、性別に関係なく、フェミニストになればいいのだ、と教えてくれる一冊です。


――――
 五感をフル稼働させて一瞬一瞬を味わいつくしているように見えるエリオの一つ一つの表情や動きを見ていると、人類は本来みなエリオであり、いつだってエリオになる権利があるんだ、私たちはみなエリオなんだ、という熱い気持ちが湧き上がってきた。
 そういうわけで、その夏、私の住んでいる街は「北イタリアのどこか」であり、私はエリオだった。毎日泳げるような場所も近くになく、外に出るとまごうことなき日本の風景が目に飛び込んできたが、サウンドトラックをリピートすることで何とかしのいでいた。私もがんばるので、みんなもおのおのがインナー・シャラメを全開にして、夏を毎年エンジョイしてほしい。われわれにはその使命がある。エリオの名にかけて。
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単行本p.130



タグ:松田青子
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『穢れの町 アイアマンガー三部作2』(エドワード・ケアリー:著、古屋美登里:翻訳) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

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 誰しも子供時代に、妙に真っ直ぐな小枝や、美しい青緑色のガラスの欠片、つるつるした丸い石、錆びた歯車、ごっこ遊びに最適な細さと長さの鉄パイプなどを見つけ、持ち帰ったことがあるだろう。手にした瞬間、まるで物と自分が運命で紐付けられているような気分になったはずだ。(中略)けれど物との運命の糸は、大人によって捨てられ、あるいは自分自身が大人になってしまうことで、ぷつんと切れ、あのがらくたは遠い過去の物、ただのゴミになる。子供の目には価値があるのに、大人になると見えなくなる物たち。がらくた、役に立たないゴミ、当たり前すぎて素通りしてしまう、いつもの道具。
 そうやってうずたかく積まれた屑山の頂に、エドワード・ケアリーは立っている。これまでも、寄る辺ない孤独を抱える切実で繊細な存在を描き続けた作家が、ペンを取り声をあげ、お話を語りはじめる。すると、がらくたたちは息を吹き返す。たちまち古道具やゴミ屑はケアリーの体にくっつき、どんどん膨らみ巨大になって、物語は轟音を立てながら動き出す。
 私たちは夢に見たことがある。お気に入りのぬいぐるみが、石鹸が、ティーポットが、ボタンが、コインが、ぺちゃくちゃとおしゃべりする場面を。そして今、アイアマンガー三部作を読むことによって、夢が現実になったことを知るのだ。
――――
単行本p.364


 19世紀後半、英国ロンドン郊外に広がっている巨大ゴミ捨て場。その中にロンドン中のゴミを支配するアイアマンガー家の屋敷「堆塵館」があった。そしてごみ捨て場の外側には「穢れの町」ことフィルチングが位置している。金貨に姿を変えたアイアマンガー家の少年、ボタンとなってゴミ山に捨てられた少女、穢れの町で再会した二人は、アイアマンガー家に反旗を翻す決意を固めるが……。
 ゴミを支配する奇怪で魅力的な一族を描くアイアマンガー三部作、その第二部。単行本(東京創元社)出版は2017年5月、Kindle版配信は2017年5月です。


 ロンドン中のゴミが集められたゴミ山、そのなかに建てられた超巨大ゴミ屋敷で暮らすアイアマンガー家。人々は彼らを忌み嫌い、恐れ、憎んでいるが、その財力と権力には誰も逆らえない。ゴミを通じてロンドンを支配する一族という奇抜な設定から、とてつもなくグロテスクで汚らしく、同時に美しくも愛おしい、不思議な世界が展開してゆきます。この不快で忌まわしく、でも気になって仕方のない不思議な魅力を持つ一族が住んでいる館、堆塵館が第一部の舞台でした。ちなみに紹介はこちら。


  2019年06月17日の日記
  『堆塵館 アイアマンガー三部作1』(エドワード・ケアリー)
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2019-06-17



 続編である本書では、金貨に姿を変えられてしまった少年クロッドと、ボタンとなって捨てられた少女ルーシー、二人がそれぞれ「穢れの町」ことフィルチングで繰り広げる冒険が描かれます。ゴミ屋敷の中で終始する息の詰まるような閉塞感に満ちた前作から、いきなりオープンワールドに放り出される二人。背後からは、アイアマンガー家おかかえの狩人たち、警察、殺人鬼など、凶悪な敵が迫ってきて、ひたすら逃げ回る展開に。


――――
 今日、十シリング金貨がなくなったことを知らされた。それはただの金貨じゃない。クロッドというアイアマンガーで、優れた能力があるのに、一族に従わずに物に変えられたという。わたしはその人物を探してここに連れてくるように命じられた。「その子は姿を変えられるの?」とわたしが訊くと、「できない」という返事だった。「いまのところはまだ身につけていない。しかし物に関する知識は生まれつきものすごいということだ。どうしても捕まえなければならない」
――――
単行本p.100


――――
「よく聞くんだ、クロッド・アイアマンガー。よく聞けよ。おれが穢れの町にこっそりやってきた目的はただひとつ。たとえどんなに引っ張られ引き伸ばされても決して揺らぐことのなかった目的。おれが動じないのは、その目的があるからだ。それはな、この汚らしい町の通りを歩きまわり、アイアマンガーを見つけたら鋭い物で突き刺し、そいつがたったひとりで人気のない通りで倒れて死ぬのを見ることなんだよ。奴らは大勢の者たちに同じことをしてきたんだ。しかし、実を言えば、純血アイアマンガーはめったに手に入らなかった。おれは復讐の鬼なんだよ、クロッド・アイアマンガー」
――――
単行本p.152


 様々な敵がクロッドを追いつめてゆきます。そして明かされるアイアマンガー家の邪悪な陰謀(だろうと思ってた)。それを止められるのはただ一人……。


――――
「奴らはやめないぞ、クロッド・アイアマンガー、おまえがいなくなっても続けていくぞ。ずっとひどいことを続け、もっと強くなっていくんだ。そして奴らは、贋人間の軍隊を引き連れてロンドンに乗り込むつもりだ。さらに国全体に、さらにはヨーロッパに向かう。結局は、おまえたちは見つかってしまうだろうな。いきなり、奴らがおまえたちの前に現れるんだ」
「ぼくの一族が」
「おまえの一族がな」
「だったら、あの人たちを止めなければならないと思います。あなたがそれをしなくてはならない。あなたこそがそれをする人です」
「おれはもうそんなに強くない」
「あなたがだめなら、だれがするんです?」
「だれがするんだろうな、クロッド・アイアマンガー」
――――
単行本p.169


 正直、クロッドじゃ駄目だろうな、英国終わったな、と読者は思うわけですが、しかしクロッドは一人じゃない。勇ましい味方がついているのです。


――――
「わたしはクロッドを探す。クロッドはきっとわたしを待ってる。わたしがいなければなんにもできないんだから。本当になんにもできないの、あの弱虫は。ああ、早く会いたい」
――――
単行本p.127


――――
 わたしは黙ってやられるつもりはないわよ。そいつの口のなかに黙って入るつもりはない。とんでもない、そいつに飲み込まれそうになったら、バシバシ殴りつけてやる。痛い思いをさせてやる。死にものぐるいで傷つけてやる。わたしをだれだと思ってるの。残虐なルーシー・ペナントよ。なんだってやってやる。
――――
単行本p.267


――――
「戦うためにわたしたちが立ち上がらなければ、正しいことがなくなってしまう」わたしは言った。
「私たちは死ぬまで屋根裏で縮こまって暮らしていくことになる。みんな暗がりのなかにひっそり隠れていて、そのうちひとり、またひとりと、ウンビットとその仲間に見つけられては殺されていく。これまでに何百人もの人たちが抵抗できずにそれを受け入れてきたのよ。みんな飢えに飢えて、自分の子供たちを売って。でもそんなこと、もうさせちゃいけない。立ち上がらなければ。もうこれ以上、あの人たちの好きにさせちゃいけない。わたしたちの、戦う集団を作るの」
――――
単行本p.292


 クロッドとルーシーが力を合わせれば(というかルーシーがクロッドの尻を蹴飛ばし続ければ)、もしかしてアイアマンガーの一族に対抗できるかも、という読者の淡い期待をよそに、ヴィクトリア女王がさっさと先手を打ってきます。アイアマンガーもろとも面倒なゴミはすべて焼き尽くしてしまいなさい。


――――
 本日、議会は以下のことに同意することを正式に決議した。フォーリッチンガム区は可及的速やかに、徹底的に、絶対的な非情な手段により、灰塵に帰されることとする。火熱がそこにあるすべての菌を滅消するまで破壊する。
 本決議は、右記のごとく緊急性を要するために、可及的速やかに遺漏なく実行されるものとする
――――
単行本p.286


 たちまち始まるロンドン大火。逃げまどう住民たち。壁をなぎ倒し爆発的に集結するゴミの山。ロンドン反攻を企てるアイアマンガー。彼らの拠点をすべて破壊せんとする女王。とてつもない大混乱に巻き込まれたクロッドとルーシーの命運やいかに。というところで、またもや「続く」になるという、非道。



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