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『モーアシビ 第37号』(白鳥信也:編集、小川三郎・他) [読書(小説・詩)]

 詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第37号をご紹介いたします。今は亡き川上亜紀さんと灰色猫のその後のこと。


[モーアシビ 第37号 目次]
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 『緑のカナル』(北爪満喜)
 『LITAGINATA』(サトミ セキ)
 『路地』(小川三郎)
 『光のにおい』(島野律子)
 『渡る夜』(森岡美喜)
 『二月からのこと』(浅井拓也)
 『King Gnuと妄想の川を渡る』(森ミキエ)
 『ごしぱらやける』(白鳥信也)

散文

 『「灰色猫」のその後』(川上美那子)
 『室原知幸と松下竜一を訪ねる』(平井金司)
 『記憶力』(清水耕次)
 『風船乗りの汗汗歌日記 その36』(大橋弘)

翻訳

『幻想への挑戦 11』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
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 お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。

白鳥信也
black.bird@nifty.com




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深い青の海原のきわ
ふいに傾いた船が
水平線に刺さったまま
船側を海の波に打たせて
くっきりと座礁し続けている

陽に焼かれ潮風に晒されて
船はもはや崇高なみえない時を航行している
闇の奥の操舵室から次々と無音の指令がとぶ
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『緑のカナル』(北爪満喜)より




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インタールード 雨が降り出した。たちまち激しくなり公民館の前の道路は川のようになっていく。窓を閉める。King Gnuの曲は流れ続ける。先生はずいぶん前に亡くなった。転んで両足を骨折し寝たきりになって認知症も患っていたという。シルバー合唱団のメンバーが一緒に歌おうと誘う。私はKing GnuにとらわれてKing Gnuを口ずさむ。半音下がって一音上がるが歌えない。でも問題はない。自由に音符の波に乗ってリズムを刻む。先生はハイヒールを履いてシルバー合唱団の指揮をする。渾然として、美しいハーモニーを奏でるだろう。私は向かい側からその様子を垣間見る。アフリカに生息するヌーは群れを成しエサの多い草原を求めて大移動し始める。King Gnuが歌うたび群れはふくらむ。
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『King Gnuと妄想の川を渡る』(森ミキエ)より




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伯母さんが来て父親に言う
職場の行事が失敗したのはあんたのせいだと上役に
さんざぱらかつけられた
ごしぱらやける
父親はそうくどきすな
ちゃんと見ている人はいるはずと自分の姉に言う
小学生の僕は伯母さんの持参したバナナにかぶりつく
ゴシパラヤケル
胸やけみたく
腰と腹がやけるものなのか
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『ごしぱらやける』(白鳥信也)より




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 こうして、チビ灰色猫は雲の上に行き、亜紀や可愛がってくれた夫とともに暮らしていることでしょう。
 私の今住んでいる部屋は、南に大きく窓が開き、低い山々と面していて、その間の広大な空には、晴れた日には白い雲が浮び、あるいは流れていきます。あの雲のどれに亜紀や灰色猫はのっているのだろうと日々眺めています。夕方、遠くの山間は茜色に染まり、大きな夕陽が徐々に山の彼方に沈んでいく光景は、それは見事です。そして世界は夕闇に包まれていきます。
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『「灰色猫」のその後』(川上美那子)より



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