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『あるまじろん』(荻原裕幸) [読書(小説・詩)]

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かねてから第三歌集は、星投手の大リーグボール三号のやうなポップでダンディな魔球にしたいと考へてゐた。一夜で新魔球を完成した星投手とは違ひ、これは二年の期間を要してゐる。うまく完成できたかどうか、読者がおのおののバットを手に、打席に立つて対決してもらへるとうれしい。
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 幽霊論、火星語、プテラノドン。ポポポニア王侯が投げてくる大リーグボール三号のやうなポップでダンディな魔球歌集。単行本(沖積舎)出版は1992年11月です。


 二十代の頃に作った作品が収録されており、その若さがまぶしい。


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意味はよく知らないけれど何となく近頃われは「青の時代」だ
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幽霊にさへあれこれとソンザイについて問ひただした二十代
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よもすがら幽霊論をたたかはせ「われ」に疲れてきたわれである
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水星にむかしは棲んでゐたといふ記憶に悩むとしごろである
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あかねさす火星語辞典を置いてない図書室にゐて希望が死んだ
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ねえ##が焦げてるQが燃えてるよお火星人だぞ早く起きろよ
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 もちろん火星語や幽霊論のことだけを考えているわけではなく、それなりに二十代の悩みはあります。


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ぼくにはぼくの悩みがあつて恋人とαの麒麟のこづかひのこと
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なぜだらう百葉箱のある庭がこの街から一つもなくなつた
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(結婚+ナルシシズム)の解答を出されて犀の一日である
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就職がまたも決まらぬ心象にキングギドラのまんなかのくび
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 悩んでゆううつになると、すぐキングギドラとか恐竜にもってゆく癖。


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われの憂ひをあらはして足る形容をおもへばイグアノドンの憂愁
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職のない午後の眠りのなかを飛ぶプテラノドンも憂鬱だらう
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プテラノドンが例へば第二象限に棲むなら街も楽しいだらう
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OL達に踏んでは蹴られけふもまた獅子奮迅のイグアナでした
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 でも猫がいるから大丈夫。


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われではなく猫の宛名でダイレクトメールが届くそんな暮しを
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何もすることがない日はぼんやりと猫のアリョーシャと哲学をする
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哲学に耽るアリョーシャぽぽとして猫の明日は?/ボクノ明日ハ?
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ぽぽぷると食事するわが愛猫の髭/かなりあヲ見殺シニシタ!
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 猫といるうちに言葉がどんどんぽぽぽどんぽぽぽそこはもうポポポポニア王国。見てるだけでゲシュタルト崩壊が起きて、ちなみにそれを書き写す苦労は誰にもわかってもらえないのです。


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恋人と棲むよろこびもかなしみもぽぽぽぽぽぽとしか思はれず
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キスすれば一匹の蚊がぽぽっぷるぽっぷるぽぷるぷぷぷぷぷぷぷ
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ぽぽぽぽぽぽと生きぽぽと人が死ぬ街がだんだんポポポポニアに
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ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽと生活すポポポニアの王侯われは
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んんんんん何もかもんんんんんんんもう何もかもんんんんんんん
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