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『シドロモドロ工作所のはじめてのお彫刻教室』(田島享央己) [読書(教養)]

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「シドロモドロ工作所」というのは表紙の作品写真や、ふざけた屋号、悪ノリした文章でご想像がつくと思いますが、長い間売れずヒネくれてしまったボンクラおじさんが運営するどこにでもある個人経営の小さな彫刻工房です。
芸術大学を卒業し、彫刻しか出来ない輩を世間は何処も相手にはしてくれませんでしたので仕方なく創業。仏師の流れをくむ彫刻一家にたまたま生まれ、私自身は五代目の彫刻家です。

(中略)

私は神様や仏様を信仰していない不作法者ですが、自分の失敗だけは信じています。

失敗だけが彫刻の先生だと思うのです。

        田島享央己(きまったという顔をしながら)
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単行本p.6、7


 死んでぐったりしているダイコンを抱くタコ、悟ったような顔つきでチンコ突き出しているチベットスナギツネ、気合の入ったハシビロコウなど、観るもののハートを何となくつかんでしまう可愛くもどこか変な彫刻で有名なシドロモドロ工作所による超初心者向け彫刻教科書、というか写真集。単行本(河出書房新社)出版は2019年2月です。


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お彫刻は反復練習では上達しませんし、段々と上り調子で進歩はしません。ある日いきなり、上手くなります。ドラゴンクエストのあの感じです。

ですが、そのレベルアップの日になるまで、異様に長い期間を我慢しなければなりません。私が美大受験で四浪した時、フラットで何もない真っ白な空間を、てくてくてくてく永遠に歩いて行くようで、非常に辛く、もうやめようかと何度も思い悩みました。(中略)やめようと思ったら、あと少しだけ続けてみると良いです。
「四浪もして何を偉そうな事を言ってやがる!」
と今、聞こえました。
私は念力が使えますので注意してください。

確かに私は美大を四回落ちていますが本気を出したのは最後の一回ですので実質、現役一発合格です。
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単行本p.71


 とぼけた味わいがけっこう癖になる文章で書かれた彫刻の教科書。なんですがどちらかといえば写真集+エッセイ集という感じです。作品の制作工程、ほぼ駄洒落100パーセントのメモ、使っている道具、などの情報に加えて、コツというか助言が挟み込まれています。


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私の経験上、欠けたモノをボンドで接着しないで、今ある量の中で誤魔化す方が面白い作品が出来ます。

木の目によって偶然割れて出て来た形というのは不思議ですが、それが正解です。抗わず寄り添ってください。知らないおじさんについて行ってはいけませんが、そっちにはついて行ってください。
【偶然性】という王子様に、お姫様抱っこされてウットリ見上げている状態が、お彫刻をする上でのベストコンディションです。

欠けた所は、「お彫刻の神様」が彫ってくれたと思ってください。
怖気付かずガシガシ彫れて、欠けてもヘラヘラしている人に「お彫刻の神様」は結構甘いです。
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単行本p.74


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大作になればなるほど、最後の方になるとほとほと飽きてきます。
ダメなところが自分でわかり切ってしまい、あきらめざるを得ないのです。

ここまで来るのに、膨大な時間が流れています。

木の塊を前にもじもじしていた自分と、今、ほぼ彫り上げて、仕上げをしている自分とでは勉強量が違うのです。
制作している内に、最初の自分を追い越しているとでも言いましょうか。

それに気づいた時、がっかり暗い気持ちで「完成」とするような気がします。

そして、「こんどこそ!」とまた作りはじめるのです。
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単行本p.97


 なお「配偶者からの罵倒」ネタが多く、昭和のおっさんくさいからほどほどにしておけばいいのにと、個人的にはそう思います。あえて引用しませんが。



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