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『hibi』(八上桐子) [読書(小説・詩)]

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腕組みをほどく木の葉がどっと舞う
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まさかまだ待っていたとはきんぽうげ
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ヒヤシンスじゃあどうすればよかったの
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向こうも夜で雨なのかしらヴェポラップ
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ストローなからだながれるるうりーど
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 異質な言葉の共存からくる何とも言えないおかしさや情感をたくみにとらえた句集。単行本(港の人)出版は2018年1月です。


 ありふれた文章の一節に、意味とは何の関係もなく、ぽんと置かれた響きが印象的すぎる言葉。花の名前とか商品名とか。その配置から生まれる奇妙な感動が、もうこれがクセになりそう。


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さみしいのかわりセロファンとつぶやく
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まさかまだ待っていたとはきんぽうげ
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ヒヤシンスじゃあどうすればよかったの
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向こうも夜で雨なのかしらヴェポラップ
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ストローなからだながれるるうりーど
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 まるで映画のワンシーンのように、視覚的イメージあざやかな作品もあります。


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朝のシーツにランゲルハンス島の砂
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灯台の8秒毎にくる痛み
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腕組みをほどく木の葉がどっと舞う
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歩いたことないリカちゃんのふくらはぎ
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脚だけのマネキン デモに行く明日
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 背後に少し怖い物語、というかストーリーの存在を感じる作品も。


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箱の人消えるマジック高島屋
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地下に出る笑うところを間違えて
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おひとりさまですかと闇に通される
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風に似たものが入ってくる網戸
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おとうとはとうとう夜の大きさに
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 凶器、水、夜といった繰り返されるモチーフも面白い。


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握りたくなる新品の鉄パイプ
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包丁の柄に西日が当っている
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うっすらとほほえんでいる斧である
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もう夜を寝かしつけたのかしら水
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雨音のてれこてれこになる電話
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散歩する水には映らない人と
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水を 夜をうすめる水をください
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 最後に、数は少ないながら登場する猫句がことのほか素晴らしいので、いくつか引用しておきます。


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猫足で近づいてくるたましい
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はちみつを透かすと会える遠い猫
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預った猫が重くてあたたかい
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