『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』(櫻井武) [読書(サイエンス)]
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多くの人は、自分の行動のほとんどは、自分の確固たる意志が決めていると信じているだろう。しかし、神経科学の立場から言えば、多くの行動は意識下で選択されている。もちろん、より複雑化していく社会のなかでは、選択に必要な演算の一部は大脳皮質がおこなっているが、多くの場合は、「後づけ」の理由を見つけて意識や自我が選択していると思い込んでいるにすぎないのだ。
つまり、あなたの行動を決めているのは意識ではなく「こころ」なのである。
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新書版p.7
私たちの行動のほとんどは、意識ではなく「こころ」が決めている。その「こころ」を作り上げている脳機能「情動」について、最新知見を紹介する一冊。新書版(講談社)出版は2018年10月、Kindle版配信は2018年10月です。
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脳は、感覚系や神経系、内分泌機能を介して全身と接続されている。脳と全身は、ユニットとして機能しているのである。「こころ」の源泉は脳で生成され、脳は全身の器官に影響を及ぼして「こころ」を表現する。しかし、その一方で、全身の器官もまた、脳に情報のフィードバックをして感情や気持ちを修飾し、「こころ」を変化させる。したがって、脳の状態に影響を与えるこれら生体内の要素を完全に再現しえないかぎり、「こころ」を理解したことにはならない。
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新書版p.4
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多くの人は、「こころ」は高度な精神機能であり、その働きには、脳の中でももっとも進化した大脳皮質が大きな役割を果たしていると考えているかもしれない。
しかし、大脳皮質が「こころ」に果たす役割は、実は多くの人が想像するよりずっと少ない。確かに大脳皮質は高度な情報処理システムではあるが、感情の動きや、性格傾向、行動選択などの「こころ」の本質をつくっているのは、もう少し脳の深部にある構造なのである。
そこでつくられている、「こころ」の本質に深くかかわっているものを「情動」という。
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新書版p.5
全体は終章を含めて8つの章から構成されています。
[目次]
第1章 脳の情報処理システム
第2章 「こころ」と情動
第3章 情動をあやつり、表現する脳
第4章 情動を見る・測る
第5章 海馬と扁桃体
第6章 おそるべき報酬系
第7章 「こころ」を動かす物質とホルモン
終章 「こころ」とは何か
第1章 脳の情報処理システム
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「こころ」の動きをつくりだしているのは、脳のもっと深部の構造である。
とはいえ、自分がいま「喜んでいる」「悲しんでいる」「幸せだ」などと感じていることを最終的に「認知」するのは、前頭前野を含む大脳皮質の機能だ。
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新書版p.18
さまざまな情報を統合して、自分の置かれている状況を正しく理解する機能は、大脳皮質、とくに前頭前野で実行されている。「こころ」の状態を認知する大脳皮質の働きについて紹介します。
第2章 「こころ」と情動
――――
情動は、自律神経系および内分泌系を介して、全身の機能に大きな影響を与える。むしろ、全身の応答を含めたものが「情動」という概念であると考えたほうがいい。こうした生理的な変化は正確に測定可能な情報であり、行動の変化とともに、これらの変化をとらえることにより、客観的に動物やヒトの情動をとらえて科学的に記述することが可能になる。情動とは、行動の変化と全身の生理的な変化から、対象となる動物やヒトの感情を客観的かつ科学的に推定したものであるともいえる。
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新書版p.48
感情や心理と違って、「情動」は生理的変化や行動変化という形で客観的・科学的に測定できる。そして前頭前野の働きにより情動が「認知」されることで感情が生まれる。「こころ」と情動の関係を整理します。
第3章 情動をあやつり、表現する脳
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感覚系からの情報は、視床を介して大脳皮質で処理されるとともに、並列の経路として扁桃体の外側に入力し、扁桃体で処理される。何かを物理的に「認知する」ことと、その何かについてなんらかの情動を惹起する、つまり「感じる」のは別の経路であり、脳の別の部分なのである。何かを感じとって「こころ」が処理するということは、その両者が組み合わさったものであるともいえる。
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新書版p.102
情動は脳内でどのように処理されているのか。情動を生み出しコントロールする仕組みについて解説します。
第4章 情動を見る・測る
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その動物の情動がどのような状態にあるかを知るには、行動、自律神経、内分泌がどのような状況になっているかを観察すればよいことになる。そのための具体的な方法が、さまざまに提案されてきている。
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新書版p.113
情動を客観的・科学的に測定するにはどうすればいいのか。その具体的な方法について解説します。
第5章 海馬と扁桃体
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記憶は均一にストアされるのではなく、常に重みづけされながら記録されていく。(中略)これは、記憶が情動によって重みづけされていることによる。記憶と情動は、「こころ」をつくるうえでどちらも欠かせない、車の両輪なのだ。
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新書版p.138
情動と深い関係にある記憶。情動の記憶との関係について知られていることをまとめます。
第6章 おそるべき報酬系
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腹側被蓋野のドーパミン作動性ニューロンから前頭前野に分泌されたドーパミンは、「主観的な快感」を増強する。一方、側坐核にドーパミンが分泌されると、「その結果のもとになったと脳が判断した行動」が強化される。つまり、ある行動Aを行った結果、ドーパミン作動性ニューロンが興奮し、側坐核にドーパミンが分泌されると、Aという行動をすることを嗜好するようになる。その結果、またドーパミンが分泌されれば、Aという行動がやめられなくなっていく。
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新書版p.167
私たちに前向きな行動をうながすと共に、破滅的な行動ですら「病みつき」にしてしまうこともある脳の報酬系システム。その働きと威力について解説します。
第7章 「こころ」を動かす物質とホルモン
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脳はニューロンからニューロンへと伝わる電気的信号と、こうした神経伝達物質を介したニューロン間の情報のやりとりによって機能している。したがって、「こころ」の働きも神経伝達物質の機能にきわめて強い影響を受けている。
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新書版p.180
脳神経を作動させている神経伝達物質は、情動とどのような関係にあるのだろうか。情動に強い影響を与える神経伝達物質について解説します。
終章 「こころ」とは何か
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「こころ」は脳深部のシステムの活動、いくつかの脳内物質のバランス、そして大脳辺縁系がもととなる自律神経系と内分泌系の動きがもたらす全身の変化が核となってつくられている。また、他者の精神状態は表情を含むコミュニケーションによって共感され、自らの内的状態に影響する。そして最終的には、前頭前野を含む大脳皮質がそれらを認知することによって、主観的な「こころ」というものが生まれるのである。
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新書版p.214
脳と全身の相互作用さらに他者とのコミュニケーションによって情動が生まれ、それを大脳皮質が認知することで、主観的な「こころ」というものが生ずる。これまでの解説を総合して、「こころ」を作り上げる仕組みをまとめます。
多くの人は、自分の行動のほとんどは、自分の確固たる意志が決めていると信じているだろう。しかし、神経科学の立場から言えば、多くの行動は意識下で選択されている。もちろん、より複雑化していく社会のなかでは、選択に必要な演算の一部は大脳皮質がおこなっているが、多くの場合は、「後づけ」の理由を見つけて意識や自我が選択していると思い込んでいるにすぎないのだ。
つまり、あなたの行動を決めているのは意識ではなく「こころ」なのである。
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新書版p.7
私たちの行動のほとんどは、意識ではなく「こころ」が決めている。その「こころ」を作り上げている脳機能「情動」について、最新知見を紹介する一冊。新書版(講談社)出版は2018年10月、Kindle版配信は2018年10月です。
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脳は、感覚系や神経系、内分泌機能を介して全身と接続されている。脳と全身は、ユニットとして機能しているのである。「こころ」の源泉は脳で生成され、脳は全身の器官に影響を及ぼして「こころ」を表現する。しかし、その一方で、全身の器官もまた、脳に情報のフィードバックをして感情や気持ちを修飾し、「こころ」を変化させる。したがって、脳の状態に影響を与えるこれら生体内の要素を完全に再現しえないかぎり、「こころ」を理解したことにはならない。
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新書版p.4
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多くの人は、「こころ」は高度な精神機能であり、その働きには、脳の中でももっとも進化した大脳皮質が大きな役割を果たしていると考えているかもしれない。
しかし、大脳皮質が「こころ」に果たす役割は、実は多くの人が想像するよりずっと少ない。確かに大脳皮質は高度な情報処理システムではあるが、感情の動きや、性格傾向、行動選択などの「こころ」の本質をつくっているのは、もう少し脳の深部にある構造なのである。
そこでつくられている、「こころ」の本質に深くかかわっているものを「情動」という。
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新書版p.5
全体は終章を含めて8つの章から構成されています。
[目次]
第1章 脳の情報処理システム
第2章 「こころ」と情動
第3章 情動をあやつり、表現する脳
第4章 情動を見る・測る
第5章 海馬と扁桃体
第6章 おそるべき報酬系
第7章 「こころ」を動かす物質とホルモン
終章 「こころ」とは何か
第1章 脳の情報処理システム
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「こころ」の動きをつくりだしているのは、脳のもっと深部の構造である。
とはいえ、自分がいま「喜んでいる」「悲しんでいる」「幸せだ」などと感じていることを最終的に「認知」するのは、前頭前野を含む大脳皮質の機能だ。
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新書版p.18
さまざまな情報を統合して、自分の置かれている状況を正しく理解する機能は、大脳皮質、とくに前頭前野で実行されている。「こころ」の状態を認知する大脳皮質の働きについて紹介します。
第2章 「こころ」と情動
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情動は、自律神経系および内分泌系を介して、全身の機能に大きな影響を与える。むしろ、全身の応答を含めたものが「情動」という概念であると考えたほうがいい。こうした生理的な変化は正確に測定可能な情報であり、行動の変化とともに、これらの変化をとらえることにより、客観的に動物やヒトの情動をとらえて科学的に記述することが可能になる。情動とは、行動の変化と全身の生理的な変化から、対象となる動物やヒトの感情を客観的かつ科学的に推定したものであるともいえる。
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新書版p.48
感情や心理と違って、「情動」は生理的変化や行動変化という形で客観的・科学的に測定できる。そして前頭前野の働きにより情動が「認知」されることで感情が生まれる。「こころ」と情動の関係を整理します。
第3章 情動をあやつり、表現する脳
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感覚系からの情報は、視床を介して大脳皮質で処理されるとともに、並列の経路として扁桃体の外側に入力し、扁桃体で処理される。何かを物理的に「認知する」ことと、その何かについてなんらかの情動を惹起する、つまり「感じる」のは別の経路であり、脳の別の部分なのである。何かを感じとって「こころ」が処理するということは、その両者が組み合わさったものであるともいえる。
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新書版p.102
情動は脳内でどのように処理されているのか。情動を生み出しコントロールする仕組みについて解説します。
第4章 情動を見る・測る
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その動物の情動がどのような状態にあるかを知るには、行動、自律神経、内分泌がどのような状況になっているかを観察すればよいことになる。そのための具体的な方法が、さまざまに提案されてきている。
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新書版p.113
情動を客観的・科学的に測定するにはどうすればいいのか。その具体的な方法について解説します。
第5章 海馬と扁桃体
――――
記憶は均一にストアされるのではなく、常に重みづけされながら記録されていく。(中略)これは、記憶が情動によって重みづけされていることによる。記憶と情動は、「こころ」をつくるうえでどちらも欠かせない、車の両輪なのだ。
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新書版p.138
情動と深い関係にある記憶。情動の記憶との関係について知られていることをまとめます。
第6章 おそるべき報酬系
――――
腹側被蓋野のドーパミン作動性ニューロンから前頭前野に分泌されたドーパミンは、「主観的な快感」を増強する。一方、側坐核にドーパミンが分泌されると、「その結果のもとになったと脳が判断した行動」が強化される。つまり、ある行動Aを行った結果、ドーパミン作動性ニューロンが興奮し、側坐核にドーパミンが分泌されると、Aという行動をすることを嗜好するようになる。その結果、またドーパミンが分泌されれば、Aという行動がやめられなくなっていく。
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新書版p.167
私たちに前向きな行動をうながすと共に、破滅的な行動ですら「病みつき」にしてしまうこともある脳の報酬系システム。その働きと威力について解説します。
第7章 「こころ」を動かす物質とホルモン
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脳はニューロンからニューロンへと伝わる電気的信号と、こうした神経伝達物質を介したニューロン間の情報のやりとりによって機能している。したがって、「こころ」の働きも神経伝達物質の機能にきわめて強い影響を受けている。
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新書版p.180
脳神経を作動させている神経伝達物質は、情動とどのような関係にあるのだろうか。情動に強い影響を与える神経伝達物質について解説します。
終章 「こころ」とは何か
――――
「こころ」は脳深部のシステムの活動、いくつかの脳内物質のバランス、そして大脳辺縁系がもととなる自律神経系と内分泌系の動きがもたらす全身の変化が核となってつくられている。また、他者の精神状態は表情を含むコミュニケーションによって共感され、自らの内的状態に影響する。そして最終的には、前頭前野を含む大脳皮質がそれらを認知することによって、主観的な「こころ」というものが生まれるのである。
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新書版p.214
脳と全身の相互作用さらに他者とのコミュニケーションによって情動が生まれ、それを大脳皮質が認知することで、主観的な「こころ」というものが生ずる。これまでの解説を総合して、「こころ」を作り上げる仕組みをまとめます。
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