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『ねこ拳撮影術』(久方広之) [読書(随筆)]

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 拙著ではあるが、本書が今一度、家族の一員であろう猫たちとの遊びのきっかけになり、その思い出を写真として残すことの一助になれば猫写真家冥利に尽きる。
 たとえうまく撮れなかったとしても、猫にカメラを向けることが猫を飼う人生の中でいかに楽しく大切な時間であるか、体験していただきたいと思う。
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単行本p.5


 大跳躍から繰り出される鋭い蹴り。鮮やかなジョジョ立ち……、からの近距離パワー型スタンド攻撃。猫の空中殺法を見事にとらえたカッコよくてやたら可笑しい猫写真集『のら猫拳』『のら猫拳キッズ』の著者が、その撮影テクニックを教えてくれる本。単行本(玄光社)出版は2018年8月です。

 灰色猫の渾身の一撃をくらって仰向けに吹っ飛んでいる(ように見える)黒猫とか、ブレイクダンスの技を披露する三毛とか、この一枚をものにするのにどれだけの時間をかけたのか。考えただけで気が遠くなりそうな努力が注ぎ込まれているに違いない、見事としか言いようのない奇跡のポーズを決めまくる猫たちの勇姿。話題になった『のら猫拳』とその続編である『のら猫拳キッズ』、紹介はこちらです。


  2017年11月14日の日記
  『のら猫拳キッズ』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-14

  2017年01月30日の日記
  『のら猫拳』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-30


 本書はこういった「ねこ拳」写真を、プロの動物カメラマンでない方でもそれなりに撮影するためのテクニックや工夫ポイントを丁寧に教えてくれる一冊。家庭、スタジオ、野外など、撮影場所ごとの注意点、撮影機材のセッティング、猫の遊ばせ方の工夫など。


[目次]

はじめに
GALLERY1 家ねこ拳
GALLERY2 のら猫拳
GALLERY3 スタジオ猫拳
“ねこ拳"撮影術1 “ねこ拳"撮影の心得
“ねこ拳"撮影術2 撮りかたと理論・機材・場所
“ねこ拳"撮影術3 スマホ・ミラーレス・ストロボ使用まで機材撮り比べ
“ねこ拳"撮影術4 スマホ撮影テクニック
“ねこ拳"撮影術5 ミラーレス一眼を使って本格猫拳撮影
“ねこ拳"撮影術6 上級者向けテクニック
“ねこ拳"撮影術7 『のら猫拳』制作の舞台裏
外猫撮影について
「のら猫拳」撮影テクニック
猫拳撮影は1日にしてならず
Q&A


 写真撮影に興味のない読者にも、例えば猫を飽きずにおもちゃで遊ばせるテクニックなど、役に立ちそう。


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 猫は本能だけでおもちゃを追いかけているのではない。人がおもちゃを動かしている、ということをよく理解していた上で遊んでくれている。(中略)おもちゃの動かしかたが好みじゃなかったり面白くなかったりすればおもちゃを目で追わなくなり、「その動かしかたは違う。もっと刺激的におもちゃを動かせよ、人間」という気持ちを込めてあなたを抗議の目で見てくるだろう。これは大人の猫ほど顕著になる。
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単行本p.62


 また、撮影裏話やエピソードにも興味深いものがあります。


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 写真集作成のために、1冊目は約9ヶ月かけて10万枚ほど撮影した。連写力を上げるため、入門機をフラグシップ機に変えたが、それも半年のうちに壊れてしまった。それくらい、ひたすら多くの撮影地をまわり、泊り込み、できる限り周囲の人の迷惑にならないよう時間帯や曜日にも配慮して撮影を試みた。カメラバッグはオス猫にマーキングおしっこをされ、フンを踏めば帰りの車の中で臭いに悶絶し、テントは猫に爪を立てられボロボロ、当然マーキングされ、強烈な猫の尿臭が染みついてテントに近づいてきた人が顔をしかめる。最近では体に直接猫のおしっこをかけられても「服も体も洗えるから平気だよハハハこやつめ」くらいで笑い飛ばせるようになってきている。気温や気圧に猫たちのテンションも左右されるので、成果のない日も当然多い。限られた時間をすべて猫の撮影に捧げ、写真を厳選し、編集していただいた。
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単行本p.117


 もちろん新作を含む「ねこ拳」写真も満載。『のら猫拳』『のら猫拳キッズ』は小型本なので、大判サイズの本書で見るとまた印象が変わります。



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『うらのうらは、』(ながめくらしつ) [ダンス]

 2018年8月19日は、夫婦でシアタートラムに行って、「ながめくらしつ」結成10周年記念公演を鑑賞しました。ジャグリング・アクロバット・エアリアル・ダンスなど身体パフォーマンス担当7名、演奏者3名、総計10名による現代サーカスの公演です。


[キャスト他]

演出・振付: 目黒陽介
音楽: 坂本弘道
美術: 鎌田朋子
出演: 目黒陽介、長谷川愛実、谷口界、ハチロウ、安岡あこ、吉田亜希、入手杏奈、菅原雄大、玉井夕海、坂本弘道


 舞台をはさむように両サイドに観客席を並べ、さらに舞台中央に衝立をたてて、どの観客からも「反対側の舞台で何が行われているのか」を見えないようにします。自分が観ている舞台が「表」、最後まで見えない舞台が「裏」ということになります。

 おそらく表裏とも同じ演目を交代で演じていると思うのですが、その保証はなく、目の前で行われている「表」のパフォーマンスを観ながら、同時に「裏」で行われていること(音が聞こえるし、衝立の上からちらちらと演者が見えたりする)が気になります。

 もしかして、「裏」の観客しか見ることの出来ないパフォーマンスが行われているのではないか……。もちろん「裏」の観客にとってはこちらが「裏」なので、同じ懸念を抱いているのは容易に想像されます。公演タイトルもそういう感じ。

 舞台と観客席が近く、どのパフォーマンスもすぐ目の前で行われる臨場感。ジャグリングで床にばらまかれたビーンバッグ(白いお手玉)が足元に飛んでくるし、エアリアルシルク(天井から吊るされた二枚の長い布を使って行われる空中曲芸)など真上を見上げるような感じ。というか、もしも手違いで落下したら演者より最前列で観ている私の方が危ないような気がするほど。

 振付にも気合が入っていて、コンテンポラリーダンス公演としても見応えがあります。ダンスのシーンはかっこよくて、個人的には入手杏奈さん(21世紀ゲバゲバ舞踊団)の力強いダンスにしびれました。



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『排気口』(井手茂太、斉藤美音子、イデビアンクルー) [ダンス]

 2018年8月11日は、夫婦で世田谷パブリックシアターに行って、井手茂太さん率いるイデビアンクルーの公演を鑑賞しました。2008年初演の『排気口』、その10年ぶりの改訂再演です。井手さんを含む総勢16名、イデビアンクルーのフルメンバーとフォーサイス・カンパニーの安藤洋子さんが踊る70分の舞台です。


[キャスト他]

振付・演出: 井手茂太
出演: 安藤洋子、斉藤美音子、菅尾なぎさ、金子あい、中尾留美子、依田朋子、宮下今日子、福島彩子、後藤海春、酒井幸菜、小山達也、中村達哉、松之木天辺、原田悠、三橋俊平、井手茂太


 とある旅館。舞台中央に畳敷きの広間が用意され、その周辺に廊下や玄関や庭に見立てた空間が広がっています。仲居、板前、番頭、女将、そして客たちが踊ります。

 旅館を舞台にしたドラマにありがちなシーンの断片(客の痴話喧嘩、仲居同士のいさかい、不意のラブロマンス、はずみで起きる殺人、わけあり老人、幽霊の出現など)が巧みに散りばめられ、何かストーリーがあるような雰囲気が感じられますが、もちろんそんなことはなく、つながっているような、てーんでそうではないような、印象的な光景が次から次へと展開されて観客を魅了します。

 畳の上で和装で踊る仲居たちの群舞、人間関係上の意味があった動作が繰り返されるうちに意味を失ってゆく面白さ、安藤洋子さんの弾けるようなソロ、どこにどんなタイミングで現れても場違い感を漂わせる井手茂太さんのすっとんきょーな動き、斉藤美音子さんの通りすがり発作的乱暴狼藉の素敵さ。見どころ満載というか、同時多発的に色々なことが起きるのでどこに注目すればいいか常に悩むという贅沢な作品です。

 初演時の舞台映像はNHK Eテレ「芸術劇場」で放映されましたが、今回の改訂版もぜひ放映してほしいと思います。



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『シリーズ 超常読本へのいざない 第3回 『核の誘惑 ――戦前日本の科学文化と「原子力ユートピア」の出現』(中尾麻伊香)』(超常同人誌「UFO手帖2.0」掲載作品)を公開 [その他]

 馬場秀和アーカイブに、超常同人誌「UFO手帖2.0」(2017年11月刊行)に掲載された作品を追加しました。

  『シリーズ 超常読本へのいざない 第3回 
  『核の誘惑 ――戦前日本の科学文化と「原子力ユートピア」の出現』(中尾麻伊香)』
  http://www.aa.cyberhome.ne.jp/~babahide/bbarchive/SpBookInvitation03.html


 なお、「UFO手帖2.0」の紹介はこちら。

  2017年11月15日の日記
  『UFO手帖2.0』(Spファイル友の会)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-15



タグ:同人誌
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『たどり着けない地平線』(池田行謙) [読書(小説・詩)]

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虹に触れし風は私に触れながら椰子に触れ南洋に去りゆく
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午後十時桟橋をゆくシロワニよ 失くしてはならない傘であったよ
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海亀の卵一玉百円で冷凍ケースに積まれていたり
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求人用掲示板にはザトウ派かマッコウ派かを問う掲示あり
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射殺され灼かれた崖を次々と滑落しゆく野山羊の親子
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 離島に移り住んだ研究者の日常を鮮やかに描く小笠原歌集。単行本(青磁社)出版は2016年4月です。


 前半は感傷的な作品が並びますが、後半に入って小笠原諸島が舞台になった途端、活き活きと鮮やかな印象を残す作品が並びます。まずは、本土を離れ、島へ。


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船室の窓を横切るカツオドリ 諸島は近い後二時間だ
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雲低く流れ去りゆく海原の千キロ先に本州がある
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トビウオを空中で捕食する鳥の背の灰色が朝日を弾く
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 島をぐるりと散策。


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午後十時桟橋をゆくシロワニよ 失くしてはならない傘であったよ
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白骨化した海亀を避けゆけばやがて形骸化という言葉
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海亀の卵一玉百円で冷凍ケースに積まれていたり
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熱しても固まらなくて海亀の卵白の食べ方が分からず
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見学客一人もおらず水槽の鮫は一尾も泳がずにいる
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小判鮫は鮫に食べられちゃいました飼育係の人つぶやけり
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 島での生活。


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虹に触れし風は私に触れながら椰子に触れ南洋に去りゆく
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看板を掲げていない店舗には美容師がいて理容師がいる
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一週間単位で売られている新聞今週は読売を選べり
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椰子の実の落果を待っている浜に夕日が速度を速めて沈む
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 職場にて。

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求人用掲示板にはザトウ派かマッコウ派かを問う掲示あり
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ベタ凪だねベッタベタですね異動した所属長との最後の会話
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放線菌密度を嗅いで知る人になりたくて土に鼻押しあてる
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固有種の植物の種子百粒の採取申請して日が終わる
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 島の貴重な固有種を守るために、外来種を駆除しなければなりません。


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野山羊駆除のことを伝えているのだろうこだましてくる防災放送
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射殺され灼かれた崖を次々と滑落しゆく野山羊の親子
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尾の白い猫が私をやり過ごす雨後の車道は鈍く光れり
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出社する時一瞥す捕獲猫頭数表示今日は七匹
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 捕獲した猫を(おそらく猫保護活動の人に渡すために)本土まで届ける。この一連の作品がドラマチックで素晴らしいのです。


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捕獲した猫を内地に連れてゆく船を幾度も乗り換えながら
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水平線に向けて出航してやがて背後に現れる水平線
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八時間おきに野猫に給餌する私はたった一人の船客
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波の高さ六メートルに酔う猫を短く励まして退室す
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同じ国の海水の色竹芝の海を見下ろしている人々
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七パーセント湿度が低い世界にはゆっくりなじんでゆかねばならぬ
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速やかに猫のケージを受け取って去りゆく人の名前は知らず
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