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『怪異古生物考』(土屋健、荻野慎諧:監修、久正人:イラスト) [読書(オカルト)]

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 古生物学に携わって生きていると、「ああ、あの怪異の元ネタはこの化石(古生物)といわれているよね」というように“どこかで聞いたことがあるというレベル”で、怪異と化石の関連の話を自然と仕入れていくことがあります。そしてそんなお話を、友人に、恋人に、子供達に、機会を見つけては「実はね……」と披露するわけです。いわば、怪異と古生物の関係は、多くの古生物関係者の“雑談の持ちネタ”となっています。
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単行本p.2


 ユニコーン、グリフォン、龍、ぬえ。古今東西さまざまに語られてきた「現実にはいない不思議な生き物」の正体は、化石を目撃した昔の人々の想像だった?
 多くの古生物関係者の「雑談の持ちネタ」となっているという「あの幻獣の元ネタはこの古生物の化石」という話題を集めた興味深い一冊。単行本(技術評論社)出版は2018年6月、Kindle版配信は2018年7月です。


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 本書では、怪異の起源の多くを古生物に求めてきた。
 ユニコーンは絶滅哺乳類のエラスモテリウム、グリフォンは恐竜プロトケラトプス、キュクロプスは絶滅ゾウ類、ルフは肉食恐竜の足跡で、ドラゴンや龍にはワニやゾウ類、海棲爬虫類の絶滅種が関わっていたかもしれない。ぬえは絶滅した大型のレッサーパンダ、天狗はイルカと絶滅大ザメのメガロドンなどを挙げてきた。
(中略)
 それは真実であるかもしれないし、当時の人々からみれば、まったくの的外れな議論なのかもしれない。それでも、怪異と古生物との関連性を議論し、推理することは、古生物に新たな視点を投入するものといえる。
 何よりも楽しい。
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単行本p.220、223


 全体は9つの章から構成されています。

「1章 ユニコーン」
「2章 グリフォン」
「3章 ルフ」
「4章 キュクロプス」
「5章 龍」
「6章 ぬえ」
「7章 天狗」
「8章 八岐大蛇」
「9章 鬼~終章のかわりに」


「1章 ユニコーン」
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 絶滅したエラスモテリウムに着目しています。近年、更新世中期に絶滅したと考えられていたこの種が2万6000年前まで中央アジアに生存していたことがわかりました。プリニウスの言及する「額」に長い角があるという特徴に一致する、1本角の奇蹄類です。
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単行本p.25

 欧州で広く知られ、日本でも「お台場にも新名所として建設されましたし(あちらはMSですが)」(単行本p.10)という、一角獣ユニコーン。その正体を探る考察は、絶滅したエラスモテリウムにたどり着く。だが、生きているエラスモテリウムの姿を人類が目撃し伝えた可能性はあるのだろうか。そこに飛び込んできた驚愕の新情報とは。


「2章 グリフォン」
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 実は、プロトケラトプスは、関節した状態の化石がよく見つかる。マイヤーはこうした関節した状態のプロトケラトプスの化石が、グリフォンの着想のもとになったのではないか、と指摘する。プロトケラトプスの“公式な報告”は1923年のことだが、古代の人々は関節したプロトケラトプスの化石をすでに見つけていたのではないか、というわけだ。
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単行本p.37

 前半身がワシ、後半身がライオンという怪鳥グリフォン。このような奇怪な合成イメージはどこから来たのだろうか。古生物学者は、プロトケラトプスの化石に注目している。その理由とは。


「4章 キュクロプス」
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 実はこれはさほど難しい話ではない。
 牙のないゾウ類の頭骨をみれば、一目瞭然なのだ。
 ケナガマンモスの頭骨をこのページに掲載した。
(中略)
 この写真をご覧いただければ、「古代ギリシア人の想像も無理はない」と読者の皆さまにも納得いただけるだろう。
 頭骨正面にぽっかりと大きな孔が開いている。これを古代ギリシア人は、眼窩(眼球の入る孔)と考えたというわけだ。しかし、この孔は正しくは「鼻の孔」だ。
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単行本p.76

 一つ目巨人として名高いキュクロプス(サイクロプス)。その発想の源として最有力なのは、マンモスなどゾウ類の頭骨化石である。実際に化石を見てみると、それは一目瞭然。


「6章 ぬえ」
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「ぬえ」=「大型レッサーパンダ」という仮説を証明するためには、今後、日本で“歴史の空白期”の大型レッサーパンダの化石が見つかればいい。あるいは、まだ我々が知らない場所で、野生の大型レッサーパンダが生き残っていれば、これに勝る証拠はないといえるだろう。
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単行本p.160

 『平家物語』において、源頼政が退治したという怪異「ぬえ」。頭が猿、胴体は狸、尾は蛇、手足は虎。その奇怪な姿はまるで……、ああこれは風太くんですね。しかし、日本列島に棲息していたことは化石で確認されているとはいえ、『平家物語』の時代に大型レッサーパンダが生き残っていた可能性はあるのでしょうか。



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