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『猫は宇宙で丸くなる 猫SF傑作選』(中村融:編集・翻訳) [読書(SF)]

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 ここにお届けするのは、猫にまつわるSFとファンタジーを集めた日本オリジナル編集のアンソロジーである。とはいえ、「猫にまつわるSFとファンタジー傑作選」では長すぎるので、副題には「猫SF傑作選」と銘打った。
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文庫版p.432


 マシュマロを焼く猫、人語を話す猫、宇宙戦艦に猫パンチかます猫、人間を出し抜こうと画策する猫。地上で、宇宙で、それぞれに魅力的な猫が活躍するSFとファンタジーの海外短篇を10篇収録した傑作アンソロジー。文庫版(竹書房)出版は2017年9月です。


[収録作品]

『パフ』(ジェフリー・D・コイストラ)
『ピネロピへの贈りもの』(ロバート・F・ヤング)
『ベンジャミンの治癒』(デニス・ダンヴァーズ)
『化身』(ナンシー・スプリンガー)
『ヘリックス・ザ・キャット』(シオドア・スタージョン)
『宇宙に猫パンチ』(ジョディ・リン・ナイ)
『共謀者たち』(ジェイムス・ホワイト)
『チックタックとわたし』(ジェイムズ・H・シュミッツ)
『猫の世界は灰色』(アンドレ・ノートン)
『影の船』(フリッツ・ライバー)


『パフ』(ジェフリー・D・コイストラ)
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 夏がすぎ、娘は目に見えて成長をつづけたが、パフは違っていた。いつ見ても永遠の子猫のままで、四六時中跳ねまわり、なにを見ても大喜びで、それはいかにも子猫らしかった。
 生物工学的に加えられた差異以外にも、パフにはひどく特別な点がある、とわたしがはじめて気づいたのは、彼がマシュマロを焼いているところに出くわしたときである。
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文庫版p.15

 成猫にならないよう遺伝子操作された子猫。だが生涯で最も学習能力の高い年齢のまま何年も生きている子猫は、制約なしに学習を続け、ひたすら知能を向上させてゆく。子猫がマシュマロを焼いているのを見たとき、語り手はそれが意味する危険性に気づいたが……。人為的に知能を向上させられた猫による復讐譚。ややホラーテイストであるにも関わらず、賢い猫がすごく可愛い。


『ベンジャミンの治癒』(デニス・ダンヴァーズ)
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 なぜベンが生き返り、そして生きつづけているのか、ぼくは知らない。手掛かりひとつない。それに答えが得られるまでは、以上が結論だ。神にはなにか計画があるのかもしれず、その場合なんの明確な指示も受けていないぼくは、なにをしようとその計画を台無しにするだろう。だが、もし神になんの計画もないのなら、ぼくは現状以外のことを考えだす義務が自分にあるとは感じない。だれもが死ぬという現状以外のことを。それが世の常というものだ。ベンを例外として。
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文庫版p.79

 奇跡が起きた。死んでしまった猫が蘇ったのだ。それからずっと、歳をとらない猫と一緒に過ごしてきた語り手。やがて歳月は流れ、ついに誰とも家庭を持たないまま猫と二人だけで生きてきた語り手の命がまさに尽きようとしているとき、猫がとった行動とは。ぼろぼろに泣けるファンタジー作品。律儀な猫がすごく可愛い。


『ヘリックス・ザ・キャット』(シオドア・スタージョン)
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「ま、きみが愚かなのはしかたがないが、それ以上愚かになることはないよ、ピート。吾輩が変わったと思っているようだが、それは違うね。きみにとっては、そのことをはやく理解するにこしたことがない。それと、頼むから吾輩に対して感情的になるのはよしてくれないか。退屈だ」
「感情的?」ぼくは叫んだ。くそったれ、たまにちょっとくらい感情を表に出すのがなぜいけない? とにかくいったいどうなってるんだ? この家の主人はいったいだれだ? だれが家賃を払ってる?」
「そりゃあきみだよ」とヘリックスは穏やかに言った。「おかげでますますきみがバカに見えるがね。吾輩なら徹底的に楽しめることでないかぎり、なにひとつしないのに。さあ、もういいかげんにしたまえ、ピートくん。子どもじみたふるまいをする年じゃなかろう」
 ぼくは重い灰皿をひっつかみ、猫に向かって投げつけた。ヘリックスは優雅に身を伏せて灰皿をかわした。「おやおや! そこまでしてバカの実例を見せてくれなくても」
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文庫版p.160

 とある事情で人語を話すようになった猫。当然ながら一人称は「吾輩」で、飼い主のことは下僕あつかい、上から目線で馬鹿にしてくる。飼い主と猫とのカトゥーンめいた戦いをユーモラスに描く作品。生意気な猫がすごく可愛い。


『宇宙に猫パンチ』(ジョディ・リン・ナイ)
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戦闘態勢にあるケルヴィンの背中の毛が逆立ち、尻尾は瓶洗い用のブラシさながらに太くふくらんでいる。ちっぽけな生きものが自分の千倍も大きな敵を威嚇するために、せいいっぱい自分を大きくみせようとしている姿に、ジャーゲンフスキーは心を打たれた。
「ふんぎゃあぁぁぁぁぁ!」ケルヴィンはわめいた。その声は怒りの度合いを示すかのように高く低く響き渡った。目は巨大なメインスクリーン上の赤い、ヘビのような戦艦をしっかと見据え、ふくらんだ尻尾が前にうしろに揺れている。
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文庫版p.206

 人類の宇宙船が、敵性エイリアンの宇宙戦艦から攻撃を受ける。まず船内の乗組員をすべて麻痺させた敵は、次に船体を破壊すべくレーザー砲を向けてくる。だが、船内には麻痺していない獣が一匹残っていた。怒りのあまり飛び上がって、メインスクリーンに映る敵戦艦の鼻先に、猫パンチ、猫パンチ、猫パンチ。それを火器管制コンピュータは攻撃命令と解釈した……。船猫がたった一匹で宇宙戦艦と戦う痛快なスペースオペラ作品。獰猛な猫がすごく可愛い。


『共謀者たち』(ジェイムス・ホワイト)
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第三生物研究室――巨大な〈船〉の半分以上も離れたところにある――で〈大きな者たち〉や、中継任務についていない〈小さな者たち〉に囲まれているホワイティを思いうかべたとたん、フェリックスはしばし畏敬の念に襲われた。その全員が〈脱出〉のために働いているのだ。そして第三研究室を種子貯蔵庫、中央司令室、機関室のような場所とつなげている別のテレパシー中継役たち……。外の通廊にいる〈小さな者〉からのじれったげな思考を捉えて、フェリックスはあわてて心を報告にもどした。
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文庫版p.222

 恒星間宇宙船に積み込まれていた実験動物たちが、無重力環境に長くさらされたため、知能を発達させた。自分たちの運命に気づいた彼ら、すなわちネズミ、モルモット、そしてペットである鳥と猫は、宇宙船からの脱出計画を立てる。人間の乗組員に絶対に気づかれないよう準備を進めなければならない。だが、猫はその凶暴性ゆえに他の共謀者全員から不信感を持たれていた……。動物たちを主役にしたサスペンスフルな『大脱走』。悩める猫がすごく可愛い。



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