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『UFO手帖2.0』(Spファイル友の会) [その他]

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さきに話したように、目新しい物事も 、よくよく考えてみると、装い、つまり 「カタチ」が変わっただけだということは多々あります。
僕たちがオシャレして人の注目を集めたいと思うのと同じように、その本質を変えないまま物事は時代の要求を取り込んでカタチを変えていきます。――というわけで今回の特集は「カタチから入るUFO」だと。UFO の場合、評価がその実在性維持に絡んできますから、このへんとてもシビアです。
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 私も参加している「Spファイル友の会」の新刊について、宣伝を兼ねてご紹介。伝説の超常同人誌『Spファイル』の伝統を受け継ぐ『UFO手帖』、その第二号です。2017年11月23日に開催された第25回文学フリマ東京、「カ-70」にて販売されました。

 詳しい情報はこちら。

  Spファイル友の会ホームページ
  http://sp-file.oops.jp/spf2/?p=1173

 通販が開始されました。(2017年11月27日追記)

  『UFO手帖 2.0』通信販売開始のお知らせ
  http://sp-file.oops.jp/spf2/?p=1209

 読者の感想(2017年12月1日更新)

  『「UFO手帖2.0」感想 その1』(笑う金色ドクロ)
  http://www.golden-skull.net/article/455175095.html

  『「UFO手帖2.0」感想 その2』(笑う金色ドクロ)
  http://www.golden-skull.net/article/455197496.html

  『「UFO手帖2.0」感想 その3』(笑う金色ドクロ)
  http://www.golden-skull.net/article/455220924.html

  『「UFO手帖2.0」感想 その4』(笑う金色ドクロ)
  http://www.golden-skull.net/article/455242351.html

 創刊号の紹介はこちら。

  2016年11月24日の日記
  『UFO手帖 創刊号』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-11-24



『UFO手帖2.0』 目次
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[特集]「カタチ」から入るUFO

  円いUFO
    『ポール・ヴィラの円環』(秋月朗芳)
  三角UFO
    『三角の波』(秋月朗芳)
  四角いUFO
    『冷蔵庫型UFO』(花田英次郎)
  その他のUFO
    『化石のカタチをしたUFO』(馬場秀和)
    『ブルーノ・ギバウディの奇妙なUFO』(秋月朗芳)

Rotation Essays

【UFOと音】
  邦楽とUFO(~1987年)
  J-POPとUFO(1988年~)
  コラム『宇宙人とあんみつ』(新田五郎)
  洋楽とUFO

【UFOと漫画】
  第2回『 ドラえもんとUFO』(ものぐさ太郎α)

【この円盤がすごい!】
  第2回 この円盤がすごい!1962年版 『リバリーノ事件』(花田英次郎)

【アダムスキーみたいな人たち】
  第2回『ダニエル・フライ』(ものぐさ太郎α)

【UFOと文学】
  第1回『UFOと短歌』(馬場秀和)

【UFOと小説】
  第2回『美しい星』(雅)

Series Essay

【古書探訪】
  第2回 李家正文『降る話』(中根ユウサク)

【シリーズ 超常読本へのいざない】
  第3回『核の誘惑――戦前日本の科学文化と「原子力ユートピア」の出現』(馬場秀和
【乗り物とUFO】
  第2回『幽霊飛行機の発達』(ものぐさ太郎α)

【死後の世界の世界】
  第2回『ブレインストーム』(ペンパル募集)

【コラム】
  緊急報告『ぼくはUFOを見た!』(中根ユウサク&ジュニア)

【ブルーブックもつらいよ】
  第2回『フーゼンのルッペルト』(雅)

【漫画】
  第2回『UFO写真展の思い出』(島村ゆに)

【読書感想文】
  第2回 森達也『オカルト 現れるモノ 隠れるモノ 見たいモノ』(ボーダーランド)

Oneshot Essays

  『キミもUFO探知機を作ってみよう!』(星野勝之)

  『アーノルド事件は日本でどう報じられたか>――日本UFO 研究史(空飛ぶ円盤からUFOへ)』(羽仁礼)

  『新編・日本初期UFO図書総目録稿(1947-1975)』(有江富夫)

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 なお、創刊号と同じく、表紙をはじめとして随所に使われているのが窪田まみさんのイラスト。暗く、緻密で、恐ろしいと同時に懐かしい、『UFO手帖』の印象を決定づける作品です。



[特集]「カタチ」から入るUFO

 円盤、三角形、四角、その他というようにカタチで分類した様々なUFO写真を一挙掲載。さらにそれらの背景となる時代の流れを解説します。


『冷蔵庫型UFO』(花田英次郎)

 ヴァレが報告している「空から人にビーム撃ちまくるブラジルの冷蔵庫型UFO」が紹介されます。南米事例はやっぱりシビれるなあ。


『化石のカタチをしたUFO』(馬場秀和)

 岩の断面にあるはずのない化石を目撃してしまう「化石幻視者」。彼らが見ているものは、実はUFOの同類、「未確認化石物体UfO(Unidentified fossil Object)」かも知れない。違うかも知れない。


『ブルーノ・ギバウディの奇妙なUFO』(秋月朗芳)

 ブルーノ・ギバウディが撮影した何だか生物的なワケの分からないUFO。そのカタチが意味するものを考察する。


【UFOと音】

 UFOに関連した音楽を総ざらえ。


『 ドラえもんとUFO』(ものぐさ太郎α)

 ドラえもんには結構マニアックなオカルトネタが出てきます。


この円盤がすごい!1962年版
『リバリーノ事件』(花田英次郎)

 UFOが噴出した煙に包まれ父親が消失……。「家族がUFOに襲われているのをなすすべもなく見守るしかない事例」がすごい!


『ダニエル・フライ』(ものぐさ太郎α)

 UFOコタクティを紹介するシリーズ、今回はダニエル・フライです。


『UFOと短歌』(馬場秀和)

 短歌には、けっこうUFOやオカルトが登場するんです。


『美しい星』(雅)

 映画化されたことでも注目された三島由紀夫の名作を根掘り葉掘り。


李家正文『降る話』(中根ユウサク)

 昭和9年に刊行されたファフロツキーズ本(空から奇妙なものが降ってきたという事例集)を紹介。


『核の誘惑――戦前日本の科学文化と「原子力ユートピア」の出現』(馬場秀和)

 戦前日本における核や原子力をめぐる言説を丹念に読み解いてゆく、中尾麻伊香さんの労作を詳しく紹介。科学とオカルトの境界を探る。


『幽霊飛行機の発達』(ものぐさ太郎α)

 幽霊飛行船の次は、幽霊飛行機の歴史を解説。


『ブレインストーム』(ペンパル募集)

 バーチャルリアリティをテーマとした先駆的映画を紹介しつつ、そこにまとわりつく「死」のイメージをえぐってみる。


緊急報告『ぼくはUFOを見た!』(中根ユウサク&ジュニア)

「うちの息子(5歳)が見たというUFO目撃話も。内容は以前もツイートしていますが、本には聞き取った内容をそのまま入れました。 うちの子「ぼく、本に出ちゃう。うわー」と大喜びしていてやばい。」(著者によるツイート)


『フーゼンのルッペルト』(雅)

 ブルーブックに取り上げられた事例から興味深いものをいくつかピックアップ。


『UFO写真展の思い出』(島村ゆに)

 「やつらはね、偽装するのよ!」「偽装!!」
 実録四コマ漫画、怒濤の四本立て。


森達也『オカルト 現れるモノ 隠れるモノ 見たいモノ』(ボーダーランド)

 追いかけると逃げる、でも諦めようとすると現れる。森達也さんがオカルト現象の「本性」について書いたドキュメンタリーを紹介。


『キミもUFO探知機を作ってみよう!』(星野勝之)

 その昔、少年向け雑誌に載っていた「UFO探知機を作ってみよう」系の懐かしい記事が現代に蘇る。写真付き楽しいコラム。


『アーノルド事件は日本でどう報じられたか>――日本UFO 研究史(空飛ぶ円盤からUFOへ)』(羽仁礼)

 「最初の」円盤目撃事例は、日本にどのように伝わったのか。日本UFO史の原点を追求する。


『新編・日本初期UFO図書総目録稿(1947-1975)』(有江富夫)

 1947年から1975年までに日本で出版された最初期のUFO関連図書目録。その圧倒的な冊数と情報量に打ちのめされること必至。『UFO手帖』は資料的価値も高いマジメな研究誌です、と言い張る根拠となる労作。


タグ:同人誌
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『のら猫拳キッズ』(久方広之) [読書(随筆)]

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初めて猫じゃらしを外の猫に使って撮影した時の感動が今でも忘れられません。カメラに写っているのは猫らしい野性味のあるポーズではなく、どう見てもカンフーしているような「人間のポーズ」を決める猫たちでした。
テレビや本で見る猫のイメージとはかけ離れたコミカルな動き。それまで何年も猫を撮影していたのに、こんな動きが出来るなんて知らなかった!と衝撃を受けました。
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 大跳躍から繰り出される鋭い蹴り。鮮やかなジョジョ立ち。からの近距離パワー型スタンド攻撃。猫の空中殺法を見事にとらえたカッコよくてやたら可笑しい猫写真集『のら猫拳』、その第二弾。単行本(エムディエヌコーポレーション)出版は2017年10月です。

 話題になった『のら猫拳』、紹介はこちらです。

  2017年01月30日の日記
  『のら猫拳』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-30

 本書はその続篇です。灰色猫の渾身の一撃をくらって仰向けに吹っ飛んでいる(ように見える)黒猫とか、ブレイクダンスの技を披露する三毛とか、この一枚をものにするのにどれだけの時間をかけたのか。考えただけで気が遠くなりそうな努力が注ぎ込まれているに違いない、見事としか言いようのない奇跡のポーズを決めまくる猫たちの勇姿。

 前作が気に入った方にはお勧めです。


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『林美登利 人形作品集 Night Comers ~ 夜の子供たち』(林美登利、石神茉莉、田中流) [読書(オカルト)]

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 時に恐ろしげに見えるドールが同時に愛らしいイノセントの姿にも映り、時にコミカルな表情をみせる作品はその後ろに魔を抱える。病的でビザールなデザインに彩られたドールが、その逆の聖性をたたえた瞳でこちらを見つめている。
 そこにあるのはなんとはなしの雰囲気で成立するような作品ではない。そこにいるのは、長い時間、林美登利というアーティストの中で受精し分裂し成長してきた“モノ”、誕生までの長いモノガタリを感じさせる佇まいで忽然と現れた“モノ”だ。妖しく見える要素も、残酷に映る装飾的イコンも、そういった表層的な見た目とは明らかに異なる別の顔をもって饒舌に語りかけ、見るものをどこか不安でどこか懐かしく、心地よく秘密めいた別世界に誘う
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単行本p.81


 幼い少女と動物や虫などが融合した異形のキメラ。そのグロテスクなカタチにも関わらず、なぜか愛らしく、魅力的で、不思議な共感のようなものを呼び起こす姿。そしてその瞳、確固たる意志と伝えるべき物語をもって私たちを見つめてくる、その瞳。前作『Dream Child』に続く林美登利さんの人形写真集第二弾です。単行本(書苑新社)出版は2017年11月。

 『Dream Child』の衝撃から3年半、林美登利人形写真集の第二弾がついに刊行されました。撮影は田中流さん、短編小説は石神茉莉さん、前作と同じメンバーが揃っています。ちなみに前作の紹介はこちら。

  2014年04月02日の日記
  『Dream Child』(林美登利、石神茉莉、田中流)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-04-02

 収録されている人形は、巻末の作品リストによると34体。前作を凌駕する美しい写真がびっしり詰まっており、どの一枚からも強烈な存在感が感じられます。

 石神茉莉さんの小説に加えて、深泰勉さんによる評論も収録されています。なお小説および評論を含む日本語にはすべて英訳がついており、このまま海外でがんがん売るぞ、という版元の気迫を感じます。出来映えから考えるに、おそらく海外でも大きな話題になるでしょう。

 なお、本書の刊行に合わせてヴァニラ画廊で林美登利さんの個展が開催されています。トーク&サイン会は終了していますが、この日記を書いている時点で人形展は開催中。興味がある方は、ぜひお立ち寄りください。

ヴァニラ画廊
'17/11/7 ~ 11/19 林美登利人形展「Night Comers~夜の子供たち」
http://www.vanilla-gallery.com/archives/2017/20171107a.html


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『メメント1993 34歳無職父さんの東大受験日記』(両角長彦) [読書(小説・詩)]

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 タカコは柴田をじっと見て言った。「無駄よ。いくら努力したって結果はわかってる。あなたは大学には入れない。作家にもなれない。奥さんからも子供からも見捨てられる。何ひとつあなたの思いどおりにはならない。この世界のどこにも、あなたの居場所はないのよ」
「そうかもしれない。すべての努力は無駄に終わるかもしれない。それでも、いまがんばらないと後悔することになる」
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単行本p.174


 作家を目指して努力するもデビューできないまま33歳になってしまった男が、一念発起。「俺は、東大に合格するぞ」意味不明な決意で受験勉強に邁進するが……。著者の自伝的要素も入った、滑稽で熱いおじさん受験物語。単行本(KADOKAWA)出版は2017年9月、Kindle版配信は2017年9月です。


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おれは成功が欲しかったんだ。失敗、失敗、失敗ばかりの人生の中、作家としての成功でなくてもいい、どんな形でもいいから成功がしたかった。成功者になりたかったんだ。しかし、今のおれに手の届く成功といったら何だろう。職歴も人生経験もないおれにとって、できることといったら大学受験くらいしかないじゃないか。だから――
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単行本p.14


 大学を中退し、作家を目指して頑張る柴田。だが、書いても書いても新人賞に落ち続けるうちに、ふと気が付けばもう33歳。このまま作家にはなれないのか。負け犬として生きるのか。嫌だ。自分は何かを成し得る人間だということを証明したい。

 というところまではよくある話ですが、そこで「よし、東大に合格するぞ」となるところが、視野が狭いというか、追い詰められている感というか。


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「これで目がさめたでしょ」ナミは、いくら腹立ちをぶつけてもぶつけたりないという表情で言った。「三十三にもなって大学受けるなんてみっともないまねは、もうやめるのよ」
「何が――」柴田はうなだれたまま、ぼそっと言った。
「えっ?」
「何がみっともないんだ」柴田は顔を上げて言った。「三十三で大学を受けるのが、どうしてみっともないんだ」
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単行本p.14


 33歳で大学を受けるのは、決してみっともないことではありません。でも、33歳にもなって「社会的成功=東大合格」という発想しか出来ないのは、それはどうなの。

 誰もが呆れるなか、本気で受験勉強を始める柴田。最初は激怒していたものの、やがてその熱意に何となくほだされてゆく妻。典型的です。


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 この一年が正念場よ。あなたが、たとえ小さなことでも何かをやりとげるか、何ひとつやりとげることのできないクズで終わるか。
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単行本p.38


 というわけで、これまでのサスペンスミステリーから大きく作風を変えてきた長篇。情けない中年男の一年間の受験生活を描いた、おじさん受験記というべき作品です。

 といっても勉強の進捗と模試の成績だけが書かれているわけではなく(そりゃそうだ)、十年前に起きた少女誘拐監禁事件がとんでもない形で絡んできたり、知人が人質立てこもり事件を起こしたりと、ドラマチックなプロットがいくつも並行して展開。先が気になって、するする読み進めてしまいます。

 全体的にユーモラスな雰囲気ですが、ダメ男がすべてに絶望しつつも最後のところで矜恃を守り抜く姿には思わず引き込まれて熱くなります。あちこちに1993年当時の新聞記事の見出しが散りばめられ、世相を浮かび上がらせるところも巧み。

 著者略歴を見ると、かなり自伝的な要素が入っていることが分かります。ちなみに著者がその後、作家としてデビューしたのは50歳になってから。それを知っていると、また味わいが深くなるように感じられます。


タグ:両角長彦
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『ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密』(広瀬友紀) [読書(教養)]

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 私たち大人が自力で思い出せない、「ことばを身につけた過程」、直接のぞいてみられない「頭の中のことばの知識のすがた」を、子どもたちの助けを借りて探ってみましょう。子どもたちはそうした知識をまさに試行錯誤しながら積み上げている最中です。大人の言うことを丸覚えにするのでなく、ことばの秩序を私たちが思うよりずっと論理的なやり方で見いだし、試し、整理していく――子どもたちが「ちいさい言語学者」と呼ばれるゆえんです。
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 いままさに試行錯誤しながら言葉を学んでいる最中の子どもたちの「言い間違い」や「変な言葉使い」を観察すると、すでに習得してしまった大人には逆に分からなくなってしまった日本語のロジックが見えてくる。子どもの言語習得から言葉について学ぶ一冊。単行本(岩波書店)出版は2017年3月です。


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日本語のネイティブだから、日本語だとそう言うのはあたりまえだから、かえってわかっていないことは実はたくさんあります。山ほどある中のほんの一例ですが、「おんな」と「こころ」という語をくっつけたら「おんなごころ」というふうに「こころ」にテンテンがつくのに、「おんなことば」だと「こ」にテンテンはつかない。言われなくても実際には言い間違えないけど、どういう理屈でそう決まっているのか考えたことがなかった、というのが普通だと思います。だけど私たちみんな、無意識にわかっているらしい(だから言い間違えることはない)。だけど…けれど…何をわかっているからなのかがわからない!
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 実際に話すときには言い間違えないのに、なぜそう言うのか説明しようとすると、いきなり「自分が何をわかっている(からこそ言い間違えない)のかがわからない!」となってしまう日本語の仕組みや構造を、子どもの言語習得過程におけるエラーを観察することで解き明かしてゆく本です。全体は七つの章から構成されています。


「第1章 字を知らないからわかること」
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 自分の身のまわりで、親、きょうだい、親戚や保育士さんや先生が話しているこのことばにはいろんな音があって、どんな特徴をもとに整理できるのか、音と音との関連を見いだせるのか、音の使われ方にはどんな決まりがあるのかという知識を、子どもは無意識のうちに脳内で一生懸命つくりあげます。そしてやがて、音と文字との関係についても知識の幅を広げていくのです。そのさい、歴史的な変遷の絡んだ日本語の特殊事情まで最初から了解済みなんてことはありません。なので、しばしば大人から見たら単純な間違いをすることもありますが、「「は」にテンテンつけたら何ていう?」と聞かれたときのさまざまな珍回答は、大人が見逃している、言語音の背後にある一貫したシステムや法則性について私たちにむしろ多くのことを教えてくれているのです。
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単行本p.11

「「た」にテンテンつけたら何ていう?」「だ」
「「さ」にテンテンつけたら何ていう?」「ざ」
 ここまでスラスラと答えられる子どもが、
「「は」にテンテンつけたら何ていう?」「…」
と聞かれた途端に混乱してしまうのはなぜか。

 音と文字の対応関係について学んでいる最中の子どもは、私たち大人が思うよりもずっと論理的に規則推論を行っていることを示します。


「第2章 「みんな」は何文字?」
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いろいろな言語の音の区切り方を比較する実験を多く行っていた大竹孝司さんたちの研究グループが、「タンシ(端子)」という発音を聴かせて、そのなかに tan という音があるかどうか答えさせるという課題を行いました。これには英語話者もフランス語話者も、そして日本語話者も、ちゃんとYESボタンを押して反応しました。しかし「タニシ」と発音した音声のなかに tan という音があるかを尋ねた場合は、日本語話者のほとんどはYESボタンを押さなかった一方、英語話者とフランス語話者は「タンシ」と聞いた場合と同様にYESと反応したと報告されています。
(中略)
 日本語の音のシステムを身につけたわれわれの耳と、そうでないシステムを持つ言語の話者の耳では、同じ音声でも異なった扱われ方をするのだ。そのことを今回「特殊拍」の取り扱いに関して紹介した3~4歳児のエピソードは裏づけてくれているようです。
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単行本p.26

 子どもが、言葉の区切りとして、「ん」という拍を独立した単位として扱わないのはどうしてか。音節や拍など、言葉のリズムに関する知見を示します。


「第3章 「これ食べたら死む?」 子どもは一般化の名人」
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 ところで「死む」「死まない」「死めば」はそもそもどうしておかしいのでしょう。「飲む」「飲まない」「飲めば」あるいは「読む」「読まない」「読めば」とは言うのに。
 大人が子どもに話しかけることばにもよく出てきそうな「飲む」「読む」は、マ行の音で展開する五段活用です。同様の動詞は他にもたくさんあって、「はさむ」「かむ」「つかむ」などなど、どれも同じように活用します。そしてご存じのように、マ行以外の五段活用も日本語にはさまざまありますが、ナ行の五段活用というのはじつは現代の日本語(少なくとも標準語)では「死ぬ」ただひとつなのです。(中略)子どもは、ふだん多く触れている、いわば規則を熟知しているマ行動詞の活用形を「死ぬ」というナ行動詞にもあてはめているのだと推測できます。
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単行本p.35、36

 多くの子どもが「死む」「死まない」と発音するのはなぜでしょうか。言葉を学ぶ際に生ずる「規則の過剰適用」という現象について解説します。


「第4章 ジブンデ!ミツケル!」
「第5章 ことばの意味をつきとめる」
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 子どもはどうやら、一般化できるルールを見いだすことにつながりそうな場合だけ、周囲から得られる情報を参考にしているようです。そのルールが、たとえ大人の文法としては間違っていても、当の子どもがそれでやっていけると思っている段階では、その反例となるような大人の正しい用法も、指導もスルー。ただし、新たな一般化規則が見いだせそうであれば、また大人のことばを参考にしてみたりする。そうして自分で試行錯誤を繰り返していく。
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単行本p.56

 子どもは大人の言葉使いを直接学んでいるのではなく、自分の中で一般化規則を作り上げてゆく上で必要な情報だけを取捨選択して取り込んでいる。言語学習のメカニズムに関する興味深い知見を明らかにします。


「第6章 子どもには通用しないのだ」
「第7章 ことばについて考える力」
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大人になるまでに、私たちは、相手の言うことを、表現そのものから得られる情報のほかに、自分をとりまく「状況」「文脈」も考慮にいれた総合的な判断のもとに解釈できるようになります。
(中略)
 ことばを情報伝達の手段として使うだけでなく、ことばそのものの形式・規則やその役割に関する無意識の知識への「気づき」を意識の上にとりあげる力、それを客観的に見つめ、時にはそれをいじって遊ぶことのできる能力。この力を育て、使うことにより、子どもたちのことばの旅はより豊かなものになっていきます。その能力は、母語の力を培うだけでなく、日本語以外の言語に触れたときにも、きっと大きな力になってくれることでしょう。
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単行本p.89、103

 言葉は「文字通り」とは限らず、状況や文脈によって意味が変わってくること。言葉そのものの形式や規則に気づき、それをいじって遊ぶ能力。子どもが言葉を学ぶだけでなく、言葉の使い方を学ぶ過程を見つめます。



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