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『美術ってなあに?』(スージー・ホッジ、小林美幸:翻訳) [読書(教養)]

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 世のなかには、かしこくないと芸術作品を理解できないって考えている人たちがいる。
 そうかと思えば、芸術作品を見るとかしこくなれるって考えている人たちもいる。でも、ほとんどの作品は、何を見るべきかさえ知っていれば、ちゃんと理解して楽しむことができるんだ。
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単行本p.84

 アートって、何だかよく分からない。どうして四角や三角を並べただけで「芸術」なの? 子供が、そして口に出さないだけで実は大人も、素朴に抱いているアートに対する疑問の数々に、様々な名画を見せながら、易しく答えてくれるアート入門書。単行本(河出書房新社)出版は2017年9月です。


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 アートって、ときどき、ほんとうにわけがわからなくなるよね。写実的じゃない絵については、とくにそうだ。
 1800年代の後半から、芸術家は抽象的な作品や、現実の世界とはかけはなれたものごとをテーマにした作品を生みだすようになった。そして、とんでもない材料や色を使ったり、おかしな形を描いたりつくったりするようになった。彼らは芸術的な実験をして人々の反応をためしたいと考えていた。
 そうするうちに、どんな作品がよくって、どんな作品がよくないか、人々の意見もどんどん変わっていったんだよ。
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単行本p.80


 画集のような大型本です。めくってみると、どのページにも有名な絵画や彫刻が載っていて、単純に名画集としても楽しめます。しかし、本当に面白いのは本文。子供が抱きがちな疑問に一つ一つ丁寧に答えてくれるのです。疑問というのは、こんな感じ。

「どうしてアートは、わからないことだらけなんだろう?」

「目も鼻もない棒みたいな人の絵が、なんでアートなの?」

「どうしてはだかの人だらけなの?」

「どうして、美術館ではしずかにしてなきゃいけないの?」

「こんなの、ぼくの妹にだって描けるよ」

「アート作品って、どうしてものすごく値段が高いの?」


 こうした素朴な疑問に対して、著者は例えばこんな風に答えてくれます。


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お墓のなかの壁画は、生きている人たちに見せるために描かれたんじゃない。埋葬された人がどんな人生を送ったのか、神々に伝えることが目的だった。壁画が平面的にかかれているのは、神々たちにわかりやすい絵にするためだったんだよ。
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単行本p.21


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 この作品は、ちょっと見ただけでは家族のすがただと思えないかもしれない。だけど、ヘップワースは自分が好きな形で家族を表現したんだ。
 どれがお母さんだと思う? ほらね、わかってきたんじゃない? 〈抽象芸術〉っていうのは、だいたいそういうもんなんだ。ぼくたちが知ってるものにはぜんぜん似てないのに、見ているとなぜか、それが何を表しているのか、わかっちゃうんだよ。
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単行本p.59


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 ジャン・メッツァンジェは一般的な遠近法のルールにはしたがわなかった。それでもやっぱり、立体的に見える絵をかきたいと思っていた。そこで、さまざまな角度から見たものをぜんぶ、1枚の絵にかきこむことにしたんだ。この技法は〈キュビスム〉って呼ばれているんだよ。
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単行本p.23


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 モンドリアンはみんなに自分の作品を楽しんでもらいたかった。なんだかちょっと遠いところにあるものだと、思ってほしくなかった。そこで、カンヴァスのはじっこのギリギリのところまで絵をかいたり、色をぬったりした。ときには、カンヴァスのフチの横のところまで。そうやって、モンドリアンは自分の作品と見る人のあいだの壁をぶちこわしたんだ!
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単行本p.17


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〈抽象芸術〉の初期の作家たちは、現実の世界とかけはなれた形や色を作品にしようとした。ジョアン・ミロとなかまたちは、無意識の世界を描いた。つまり、自分がかいているものについて、何も考えないようにしたんだ。
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単行本p.57


 こんな風に、アートを鑑賞するときの基本的な知識を分かりやすく伝えてくれます。一般的・概念的な回答だけでなく、具体的な作品を例示して「なるほど」と納得させるところがうまい。

 例示されている名画にも、「見て見て! この絵はフレームに入れるべきだと思う?」とか、「この絵はもっと細かくかくべきだと思う?」とか、「鏡にうつっているのはだれでしょう?」「道化師はどこかな?」といった、鑑賞のてがかりとなるコメントがついていたりして、隅々まで親切。

 というわけで、子供向けと言い切るには惜しい、大人が読んでも勉強になる、何よりも楽しい、素敵なアート入門書です。



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