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『NNNからの使者 猫だけが知っている』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

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 弓絵が引っ越したと聞いたので、ついに猫を飼うのかな、と思っていたのに、なんと飼えないとは!
 そんなバカな。猫好きが家を建てたら、猫を飼うのが当然だろ、とコマは思う。確か、ミケさんはそれを見越して予定を立てていたはず。三毛猫のミケさんに頼めば、猫を飼いたい人の家に最適の猫を送りこんでくれるのだ。
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文庫版p.186


 猫、飼いたい、でも、色々と事情もあって。そんな悩みを察知されるや、たちまち舞い込んでくる猫との良縁。そんな猫飼いあるある現象の背後では、NNNなる謎の猫組織が暗躍しているのでした。飼い主と飼い猫の出会いを描く五つの物語を収録した短篇集。文庫版(角川春樹事務所)出版は2017年10月です。


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猫好きや猫を飼いたいと思っている人、あるいはNNNが優良飼い主と認めた人のところへ猫(一匹、ないしは複数)を派遣し、一生世話をさせ猫の下僕として生きるよう画策する、と言われている秘密組織――らしいです。秘密というか、謎の組織。実在するかもわからない。
「猫が飼いたいなあ」などと口にすると、即座にロックオンされ、子猫等が送り込まれてくる――とのことですよ。冒頭でも書きましたけれど、私の創作ではないですよ!
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文庫版p.217


 というわけで、猫好きのあいだで話題にのぼる謎の組織NNN(ねこねこネットワーク)の暗躍を扱った国際謀略サスペンスシリーズ、ではなくて、猫を飼いたいと思っている人のところに猫がやってくる連作です。人の視点、猫の視点、ときどき切り替えながら語られてゆく五つの物語。猫飼いの読者はもちろん魅了されますが、それほど猫に興味がない方でも、読めばきっと猫を飼いたいと思うはず。

[収録作品]

『第一話 猫だけが知っている』
『第二話 かぎしっぽの幸せ』
『第三話 カフェ・キャットニップ』
『第四話 猫は行方不明』
『第五話 猫運のない女』


『第一話 猫だけが知っている』
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 そうなると、ひたすら縁を待つしかないのだろうか。「公園に捨てられていたので拾いました」とか「近所で生まれたのでもらいました」なんてネットでは読むが、そんなこと自分の周辺に起こったことも聞いたこともない。人の家の猫がどのようにしてやってきたかなんて、興味もなかったからなあ。
 俺には、猫縁がないのだろうか。
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文庫版p.40

 家族を失い、寂しい思いをしている青年。一人住まいの部屋でふと「寂しいな」と声を出してしまう。それを見逃すことなくチェックしていた三毛猫。まずは素行調査から。


『第二話 かぎしっぽの幸せ』
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 あたしと唯斗は、もう会えないのかもしれない。きっと唯斗は、大きくなったあたしを見ても、気づかないだろう。たまに抱っこしただけの猫なんて、人間はすぐに忘れる。だって、猫はみんなかわいいから。どの子だってかわいいんだから。そんなこと、猫ならみんな知ってる。
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文庫版p.91

 人間に飼われたい。そう思ったかぎしっぽの「あたし」は、世話役である三毛猫に相談する。だが彼女が気に入った相手は、事情があって猫を飼うどころではない様子。やっぱり縁がないのだろうか。三毛猫は色々と手配をしてくれるのだが……。ロマンス小説きました。


『第三話 カフェ・キャットニップ』
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このカフェに通うようになって、何匹か引き取られていった報告を猫部屋やショップコーナーで目にしたが、みんな子猫だった。子猫を欲しがる人の方が圧倒的に多いのだ。
 引き取られていく子猫たちを見て、あのソマリたちはどう思っているんだろうか。すでに仕事も引退し、隠居生活をしている自分が、時折なんとなく取り残されたような、申し訳ないような気分になることと、似ているんだろうか……。
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文庫版p.121

 もう老齢なので猫を飼うのは無理、でもせめて見たい。そう思って保護猫カフェに通う高齢女性。そこで見つけた仲のよい二匹の老猫ペアを引き取りたいと思うが、最後まで責任を持って飼えるかどうか分からない。けっこう深刻な悩みに、猫カフェの親切なマスター(山崎さんではありません)が相談に乗ってくれる。猫カフェを舞台に、猫の保護活動を行う人間と、猫の保護活動を行う猫の、暗黙の連携プレーが描かれます。


『第四話 猫は行方不明』
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「朝早く起こされるし、一緒に寝たがるから、夜もちゃんと寝るようになって……。ヒマだから、ゴミを片づけて……毛がたくさん抜けるから、掃除もしたんです」
 ポツポツと莉緒は続ける。
「そしたら、あたし、今まで何してたんだろう、と思って」
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文庫版p.174

 謎めいた三毛猫に導かれて辿り着いた家には、部屋に引きこもっている娘がいるようだった。しかし、いったい、どうしろというのか、この三毛猫は。いつもは強引に子猫を送り込んでくる三毛猫が、今回は子猫の救出作戦。そのためなら猫だけじゃなくて人間もばしばし使いますよ。


『第五話 猫運のない女』
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 その時まで弓絵は、自分に「猫運」がないのだと思っていた。ペット可の賃貸に入れる余裕も、もちろんペットショップで猫を買う余裕もなく、それを打破するような出来事、たとえば猫を拾ってしまうとか、知り合いからどうしてももらってほしいと言われるとか、そういうこともなく、猫と自分の人生は交わらないくらい縁のないことなんだな、と考えていた。
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文庫版p.183

 猫を飼いたいと思ってから40年。ようやく念願の持ち家を建てて、さあ猫を飼うぞと思ったところ、なぜか夫が反対。猫好きのはずなのになんで? さすがの三毛猫も、この事態は予想していなかった。猫運も、猫縁も、作るもの。三毛猫は各方面に依頼して聞き込み調査を開始したが……。


 ちなみに第四話などに登場する保護シェルター兼猫カフェや、高齢者向け猫飼い支援サービスなどは、実際にあります。例えば、東京キャットガーディアンの取り組みを扱った本の紹介はこちら。

  2015年12月21日の日記
  『猫を助ける仕事 保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』(山本葉子、松村徹)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-12-21


タグ:矢崎存美
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