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『WITHOUT SIGNAL!(信号がない!)』(小野寺修二、カンパニーデラシネラ) [ダンス]

公演プログラムより
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小野寺修二さんがベトナム滞在中、交差点ではない場所で車・バイク・人が交差し、ぶつかること無くスムーズに行き交うスリリングな光景を目の当たりにし、その感覚をモチーフにして、ベトナムの人々の生活習慣から生まれてくる無意識な身体感覚や空間感覚を“体内信号”として表現されようとしています。
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 2017年10月1日は夫婦でKAAT神奈川芸術劇場に行って、小野寺修二さん率いるカンパニーデラシネラの新作を鑑賞しました。ベトナム人と日本人の主演者総計9名が踊る70分の公演です。


[キャスト他]

演出: 小野寺修二
出演: Nguyen Hoang Tung、Nguyen Thi Can、Bui Hong Phuong、Nung Van Minh、荒悠平、王下貴司、崎山莉奈、仁科幸、Pon Pon


 舞台の床には、オレンジ色に発光するラインが右手前から左手奥へと一直線に伸びています。これが「道路」となって、観客を路地やアパートや料理店など様々な場所に連れてゆくのです。主役、というか、一応の視点人物として立っているのがグエン・ホアン・トゥンさん。個人的な感想ですが、この人、困惑したときの顔つきや動きが小野寺修二さんの演技そっくりに見えます。

 ヒッチハイクしようとして四苦八苦したり、ようやく乗車したと思ったら交通事故に巻き込まれたり、路地を歩きながら謎めいた人々とすれ違いつつ謎めいたリアクションをされたり、混雑する道路をスクーターでぶっ飛ばしたり、女性がベランダから落としたシーツを拾って届けようとしたり、立ち寄った料理店でいきなり誕生日のお祝いに巻き込まれたり。とにかく様々なよく分からない出来事に次々と巻き込まれ続ける視点人物。

 デラシネラお馴染みの演出もありますが(同じシーケンスが繰り返されて困惑する視点人物とか、次々と入れ替わってゆく死体役とか)、小道具をふんだんに駆使した新しい趣向の演出が次から次へと登場して飽きさせません。

 舞台奥に運転手が坐り、舞台手前に助手席に座った視点人物、舞台中央の道路を玩具の自動車が走ってゆく、という映画のマルチスクリーンのような演出。

 ハンドルだけのスクーターにまたがって走るシーンでは、ハンドル中央のライトが映写機になっていって、他の出演者たちが掲げる細長く分割されたスクリーンに「混みあった道路を疾走するスクーターから撮影した映像」を投影しつつ疾走感を出し、カーブではスクリーンの方が傾いて加速感を演出するという驚き。

 キャスター付きの小さな机と椅子を「車」に見立てて足で漕いでる、と思ったら、いきなり現れた「給仕」が机上に食器を置き、さらには複数の「車」が合体したと思ったら料理店のテーブルと椅子に早変わり。

 あと、複数の出演者がスマホ型の照明を床に置いて光を下から浴びて踊るシーンはとても印象的でした。

 グェン・ティ・カンさんと崎山莉奈さんが頻繁にベトナム語と日本語で会話を交わすのですが、一方しか聞き取れず何の話をしているのか微妙に分からない、というのが効果的でした。視点人物も観客も知らない何かのプロットが背後で進行しているような気もしてきます。

 大量に詰め込まれた演出アイデアで、ベトナムの街角や店や生活空間の様子を表現する70分。これまでの小野寺修二さんの作品から大きく雰囲気が変わったような印象を受けます。今後のカンパニーデラシネラの公演が楽しみ。


タグ:小野寺修二
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