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『裏世界ピクニック ファイル7 猫の忍者に襲われる』(宮澤伊織) [読書(SF)]

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「センパイたちは逃げてください。時間を稼ぎます」
「い、いやいや、そんなわけにいかないでしょ……」
「いえ。元はといえば私が巻き込んだわけですし」
 たいへん勇ましいけど、いくら空手が強くても、抜き身の刃物を持った猫の忍者たちは恐ろしい脅威だ。忍者二匹に対して、こっちには空手使いが一人……いや、なんだこれ、改めて考えると頭がおかしくなりそうだ。
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Kindle版No.553


 裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知を超える超常現象や危険な生き物、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア怪異が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、その第7話。Kindle版配信は2017年8月です。


 『路傍のピクニック』(ストルガツキー兄弟)をベースに、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。ファイル1から4を収録した文庫版第1巻、およびファイル5と6の紹介はこちら。


  2017年03月23日の日記
  『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23

  2017年07月05日の日記
  『裏世界ピクニック ファイル5 きさらぎ駅米軍救出作戦』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-05

  2017年08月07日の日記
  『裏世界ピクニック ファイル6 果ての浜辺のリゾートナイト』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-08-07


 ファーストシーズンの4話はSFマガジンに連載された後に文庫版第1巻としてまとめられましたが、セカンドシーズンは各話ごとに電子書籍として配信されています。早川書房の新刊情報によると、2017年10月に『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』として文庫版第2巻が刊行されるようです。


 さて、ファイル7は、タイトル通り猫の忍者に襲われる話。新キャラクターとして空魚の後輩であり空手使いの瀬戸茜理が登場します。食費とエアコン代を節約しようとして学食に来ていた紙越空魚に「猫の忍者に襲われて困っているんです」と真顔で相談してくるのですが、いや猫の忍者とか言われても……。


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「お願いします。紙越センパイならきっと助けてくれるって、みんな言ってたんです!」
 みんなって誰だよ。適当なこと言いやがって。
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Kindle版No.50


 最初は断った空魚ですが、怪しい猫の集団に付きまとわれるようになったことから、仕方なく忍猫退治に乗り出すことに。何だよ忍猫って。

 最初は「猫かわいいから、撃ちたくない……」(Kindle版No.342)とか言っていた空魚ですが、相手はマジで殺しにかかってくるわけで。


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 メンタルを攻めてくるのも嫌だけど、刃物で殺しに来るのは反則だと思う。
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Kindle版No.663


 ファイル6におけるメンタル攻撃もヤバかったのですが、今回は直接的な物理攻撃ですよ。猫が、刃物で。


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「うう、やっぱり猫だよ……撃ちたくない……」
「しっかり! 殺しに来るよ、こいつら!」
 鳥子の声を合図にしたかのように、二匹がいきなり動いた。凶悪な刃物を構えて、すごい速さで突っ込んでくる。動きはぜんぜん可愛くなかった。殺意に満ちていた。
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Kindle版No.575


 非常に危険な状況なんですが、でも猫が、忍者で……。それと空魚が「共犯者」という鳥子の言葉に激烈嫉妬するシーンが、巧みだなあ、と。

 ファイル6で結構本格的なコクタクトテーマSFに近づいたと思ったら、赤方偏移とともに遠ざかってゆくようなファイル7。鉄道、戦車、ライフル、水着、猫、忍者。男の子の好きなものを根こそぎにする勢いで突っ走るセカンドシーズン。次回で文庫版第2巻の区切りとなるはずですが、はたしてどう展開するのでしょうか。


タグ:宮澤伊織
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