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『イルミネイチャー』(カルノフスキー:絵、レイチェル・ウィリアムズ:文、小林美幸:翻訳) [読書(サイエンス)]

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チクタクと時をきざむ針が何時を指していても、
かならず、そのときに目をさまして、食べ物をさがしに出かける動物がいます。(中略)
それぞれが持っている力がどんなものであれ、動物たちはみんな、
毎日決まった時間に、すがたをあらわします。
最大の理由は、生き残るため。
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単行本p.2


 熱帯雨林、砂漠、湖、山脈、平原、海洋。地球上から10の地域を取り上げ、その生態系を構成している動植物たちの姿を、赤・青・緑という三種類の「マジックレンズ」を通すことで時間帯ごとに分離して観察できる教育絵本。単行本(河出書房新社)出版は2016年12月です。

 子供向きの「いきもの図鑑」というと、昔は「魚類」とか「鳥類」とかいったように系統ごとに分類して載っていたものですが、最近の図鑑は特定の生態系(例えば沼地なら沼地)に生息する様々な種とその関係をまとめて記載する、という構成になっていることが多いようです。幼い頃から、生態系、食物連鎖、生物多様性、といった概念を学べる子供たちがうらやましい。

 本書はこの工夫をさらに一歩進めたもので、特定の生態系を「活動時間帯」毎に分離して観察させる、というもの。

 どういうことかといいますと、見開きニページに、その生態系を構成している様々な動植物の多色刷イラストが重ねて描かれてあるのです。そのまま見ても、ごちゃごちゃした線の集まりに色がちかちかしているばかり。何が描いてあるかよく分かりません。

 この混乱した巨大イラストを、付録である三色の「マジックレンズ」(厚紙に四角い穴を三つ開けて、それぞれ赤・青・緑のセロファンを張ってある)を通してみると、あらびっくり、それぞれ対応する生物種のイラストだけがくっきりと黒く見えるという仕掛け。

 緑は、背景となる地形や植物相のイラストを見せてくれます。赤は、昼間に活動する動物種、青は主に夜間活動する動物種です。

 取り上げられている生態系は、コンゴ盆地の熱帯雨林、シンプソン砂漠、ローモンド湖、アンデス山脈、ウェッデル海とロス海、レッドウッド・フォレスト、東シベリア針葉樹林、セレンゲティ平原、カンジス川盆地、アポ礁、総計10箇所です。セレクトが渋いですね。

 それぞれの生態系について、基本情報(位置、国、環境、面積、生息種数)と解説に続いて、「展望デッキ」と題した前述の多色刷イラストが見開きでどーんと掲載。まずはこれをマジックレンズを使って自由に観察してみよう、というわけです。

 次に「夜・夕方・明け方に活動する動物9種」と「昼に活動する動物9種」に分けてガイドが載っており、これを読んで動物種の名前を確認してから、再び「展望デッキ」に戻って探してみよう、と。

 一つの生態系につき動物イラストが18種、全部で180種が「隠されて」いるわけで、すべての種を確認するのは意外に大変。探しもの系のパズルが好きな子供には大ウケしそうです。

 同じイラストが、セロファンを変えるだけでまったく異なる様相を見せる様は、実際にやってみると大人でも驚かされます。自然観察の驚きを疑似体験させてくれる優れた図鑑であり、動物絵本としても素敵です。



タグ:絵本
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